第九七話「竜舎利ゴーレム」
――竜舎利の置物の内部に組み込まれていた魔術結晶を魔法探知で詳しく調べると、魔術結晶は赤く光り置物全体がカタカタと振動を始めました。
「何……何です?」
わたくしはぎょっとして後ずさりました。すると置物が蠢くように形を変え始めました。それは徐々に大きくなり、やがて二メートルをゆうに超える高さの二本足で立つ竜の骸骨のような形状になりました。その口の中では魔術結晶が赤い光を放っています。
「竜牙兵!? にしてはデカい――」
リウィルナさんは驚嘆の声を上げました。
骨の竜は腕を振り上げてから叩きつけるように振り降ろしました。
「くそが!」
ガイエイさんは薪割り用の斧を拾ってその攻撃を受け流しました。
「何だこりゃあ!」
「ガイエイ、取り敢えず時間稼いで。何でもいい、武器を!」
マークルウさんとザッキラインさんは建物の中へ戻ります。
「これは竜牙兵ではなくて恐らくゴーレムです、竜舎利ゴーレムといった所でしょうか……危ない!」
竜舎利ゴーレムが腕を振り回しました。積まれていた薪が散らばって降ってきます。わたくしは咄嗟に伏せてから四つん這いでなんとか竜舎利ゴーレムと間合いを取りました。
「オラァ!」
ガイエイさんは薪割り斧でゴーレムの背中を攻撃しました。しかし竜舎利ゴーレムは微動だにせず振り返って拳を振り降ろします。ガイエイさんはそれを横に移動して躱します。
「くそ、ここは狭めえから力押しされたら厄介だぜ、硬ぇしよ」
ここは酒場の裏で、建物の壁に囲まれた数メートル四方の空間です。逃げ場は酒場の勝手口しかありません。
「お嬢、隙を見てなんとか逃げて」
リウィルナさんはゴーレムを注視しながら右手に短剣を持ち左手で勝手口を指差します。
「いえ、わたくしもお手伝いします!」
わたくしは腰に挿した首領の剣を抜き、右手の中指の首領の指輪に語りかけました。
「出でよ魔剣たち」
すると宙に手のひら大の光る紋様が三つ浮かび、そこからそれぞれ異なる形状の短剣が出現しました。そしてわたくしが首領の剣で指し示すと竜舎利ゴーレムに向かって三本の魔剣が飛んでいきます。
「うお、ビックリした……お嬢の魔剣か!?」
「ガイエイさんごめんなさい、わたくしがゴーレムの目標を散らしますので何とか頭の中の魔術結晶……核を破壊してください」
「わかった、頭カチ割りゃあ――つってもコイツ硬ぇしな」
わたくしの魔剣四〇人の盗賊の短剣三本でなんとかゴーレムを翻弄しますが、狭い場所で腕を振り回されるのは危険です。
『……光の矢』
建物の中から魔法の詠唱が聞こえたと思った瞬間、一本の光弾が勝手口から飛び出して竜舎利ゴーレムに命中し、後ろへ転倒しました。
「遅ぇじゃねえかよザック!」
勝手口から短杖を持ったザッキラインさんが出てきました。今の光の矢は恐らくザッキラインさんが放ったものでしょう。
「ほらよ」
ザッキラインさんはガイエイさんに棘付戦棍をマークルウさんはリウィルナさんに直剣をそれぞれ投げ渡します。ガイエイさんそれを受け取って叩きつけるように振り降ろしました。しかしゴーレムの頭部は頑丈なのかひび一つ入りません。
「効かねえか……がは!?」
ゴーレムが倒れたまま振り回した腕でガイエイさんは弾き飛ばされ壁に打ちつけられました。そうするとゴーレムはゆっくりと立ち上がります。
『……障壁』
マークルウさんは勝手口から飛び出し、魔法発動体の指輪を着けた手をかざし魔法を唱えます。するとゴーレムは見えない壁に弾き飛ばされるように背後の壁まで押されました。
(障壁の魔法を防御ではなく弾き飛ばす事に使うなんて?!)
「ガイエイ! だめだ頭打ったみたい……」
リウィルナさんが声を掛けますが、ガイエイさんは気を失っているようです。ゴーレムはこちらに向かって攻撃態勢に入りますが、マークルウさんが連続で障壁の魔法で足止めしています。
「ザッキライン、頭部を光の矢で破壊できませんか?」
「ただの竜牙兵なら光の矢で破壊できるんだがな――さっきの感触だと、ヤツは対魔法処理を施されている様だ、威力がかなり殺されてる」
マークルウさんとザッキラインさんがそんな会話をしています。
「動きを止めてくれればなんとか中の核を狙えるよ」
リウィルナさんがそう仰いました。
「私の魔力もそろそろ限界ですよ、勝負ですね」
マークルウさんの表情に疲労の色が見えます。障壁を連続で唱えているのですから当然でしょう。
(何か策は……)




