第九五話「出張鑑定」
――親友のセシィを治療する秘薬を求めた旅からおよそ二年が経ちました。秘薬の効果はてきめんで、セシィはもう秘薬を飲み続けなくても健康な身体になりました。今は療養先から帝都の実家に戻り病気の為に出来なかった事、やりたかった事など色々な事に挑戦しているということです。
一方、わたくしはといいますと……おさんぽ日和ギルド本部の酒場"小さな友の家"の雑用や魔道具店薔薇の垣根の手伝いをしながら、たまに頼まれて遺跡探索に同行したり――変わらないといえば変わらない日々を送っていました。
わたくしが今日訪れているのは、イェンキャストを拠点とする他のギルド酒場です。このギルドは「花咲く食堂」という名前で、わたくしのギルドおさんぽ日和とはギルド同士懇意にさせて頂いています。
(ここの酒場はお料理が美味しいのですよね)
今日は出張鑑定を依頼されたのでこの酒場に来ました。イェンキャストの冒険者ギルドから出張鑑定を依頼されることはたまにあります。
「ごめんください……」
わたくしが入口の扉を開けると床のモップ掛けをしていた筋骨隆々として赤銅色の髪の大柄な強面の男性が手を止めてわたくしをギロリと睨みました。
「あ? まだ準備中だぜ」
「あの、わたくし、ご依頼の出張鑑定に来ましたのですけれども……」
わたくしがそうお伝えすると大柄な男性は暫し考えてから「ああ!」と思い出したような表情をしました。
「なんだ、誰かと思ったら鑑定のお嬢じゃねえか? ちょっと待ってくれよ。姐さん、鑑定のお嬢が来たぜ!」
大柄な男性は店の奥に向かって大きな声で言いました。
「ガイエイあんたはいちいち声がデカいんだよ、狭い店なんだから聞こえるってば」
店の奥から女性が出てきました。この方はリウィルナさん、この花咲く食堂のギルドマスターです。一見小柄で可愛らしい方なのですが、年齢はアンさんより少し上で冒険者歴も約二〇年あるベテランの斥候兵です。
「姐さん、お嬢ですぜ!」
「だから声デカいって。ごめんねお嬢、怖かったでしょ?」
大きな男性は花咲く食堂所属の冒険者で戦士のガイエイさんです。とても大柄で屈強な方ですがリウィルナさんには頭が上がらないらしいです。
「アンは元気? どうしてる?」
アンさんはディロンさんと一緒に他のギルドのヘルプで遠征中だとお伝えしました。
「そう、積もる話もあるからまた飲みに来てって伝えといて?」
アンさんはおさんぽ日和加入前のフリー時代にこのギルドの方々と幾度か冒険した事があるみたいです。おさんぽ日和と懇意なのはそういう経緯もあるからみたいです。
「リウィルナさん、早速ですがご依頼の品を拝見させて下さい」
「そうだね、ちょっと店の裏へ回ろうか」
わたくしはリウィルナさんとガイエイさんに店の裏へと案内されました。そこは四方が建物の壁に囲まれた数メートル四方の空間で、薪割り台が置かれて薪も積まれていました。空は見えますが周囲の建物の壁に囲まれて圧迫感があります。
「こいつなんだよね……」
リウィルナさんは店の勝手口脇に置かれたものに掛けられた布を捲りました。それは腰位の高さで幅は一メートルほどの物体でした。骨の様なものが組み合わせられたような複雑な形の美術品の置物の様です。
「何ですかこれは……?」
わたくしは思わず呟きます。
「それが聞きたいからお嬢呼んだんだけどね」
リウィルナさんは苦笑いしました。
「あ、いえ……どこでこれを?」
リウィルナさんの説明では、つい先日発見されたばかりの地下迷宮を探索したときに見つけたそうです。他に目ぼしい物が見つからなかったので取り敢えず持って帰って来たそうです。
「いやあ旅人の鞄に入らなくてさあ、持って帰るの大変だったよ」
「姐さん大変て……担いで来たの俺だぜ?」
「いちいち細かい事言わないの」
お二人がそういうやり取りをしている横でわたくしは「失礼します」と断りを入れて早速鑑定に掛かります。
(素材は……竜舎利ですね。魔法探知……強くは無いですが少し魔力を感じます)
「どう?」
「これは竜舎利で出来ていますので、この大きさならまずそれだけでもかなりの価値が在ります。わたくしも仲間と共に以前大きな竜舎利を見つけた事がありますが、それもかなり高額になりましたから」
鑑定を依頼される冒険者の方々はまず金額的な価値を知りたいと言うのはわたくしも学んでいますのでそれを先にお伝えしました。
(以前のわたくしなら蘊蓄を延々喋って依頼主の方を困らせたりしていましたね……)
「マジかお嬢?! おい姐さんやったな! 苦労して運んだ甲斐があったぜ!」
ガイエイさんはニコニコと笑顔で竜舎利の置物の様なものを色んな角度から眺めていました。そうしていると他のメンバーの方々も集まってきました。
 




