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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第三部 幻の秘薬編

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第八五話「薬師スヴォウ」

――ブロッへに到着したわたくし達は、日も暮れていたのでとりあえず宿屋に泊まります。宿屋のご主人に薬師の事を伺うと、村外れの森の中に住んでいると教えて頂きました。


翌朝、早速わたくし達は教えて頂いた薬師の方のお家を訪ねる事にしました。昨日到着したときは雪がチラチラと舞っているだけでしたが、朝宿屋を出ると村中が、いえ……見える景色がすべて白く染まっていました。


「これは……なんとも美しいですね」


わたくしは感動して雪に触れたり握りしめたりして感触を確かめました。



(冷たくてフワフワと柔らかくて触るとすぐに溶けてしまう……不思議です)



ふと、民家の軒先に置かれている桶に目をやると、中で水が硬くなっていました。



(水は寒くなると氷になるのですよね? 知識ではよく知っていますが、実際にこんな氷の塊を見たのは――)



子供の頃、家族で招かれた宴席の余興で魔術師(メイジ)が水を凍らせていたのを思い出しました。氷を見たのはそれ以来かもしれません。



「レティ、雪や氷が珍しいのは分かるけどそろそろ……」


シオリさんにそう言われて振り返ると皆さん微笑みながらわたくしを見ていました。


「あ……す、すみません……」


子供みたいにはしゃいでしまって皆さんをお待たせしていたと気づき顔から火が出る思いでした。


「子供みたいにすみません……」


「いいよ、レティは珍しいんだろ? あそこにもはしゃいでいる子供がいるから」


アンさんが後ろを指差します。


「おいやめろよファナ!」


「うっしっしー……マーシウよ偉大なるファナの攻撃魔法、雪の弾丸(スノーバレット)を喰らうがいい!」


ファナさんが雪玉を作ってマーシウさんに投げつけていました。マーシウさんは「おいやめろよ」と微笑みながらそれを盾で防いでいました。


「あれは魔法なのですか?」


「まさか――ファナがただ雪玉を投げて遊んでいるだけよ」


シオリさんは「もう」と言いながら微笑んでため息をつきました。



――そして、わたくし達は薬師の方が居るという森へ向かいます。


森へ差し掛かると、木々が多いせいか薄暗く、雪は木の上に積もっていて地面には無く、土が露出していました。点々と木の上から落ちた雪の塊が散見されます。細い小道が森の奥へ伸びているのでそれを歩いて行きました。しばらく進むと森の中に木の無い明るい広場のような空間が見えてきました。


約二〇メートル四方の空き地の真ん中に丸太小屋が建っています。小屋の周りは溶けたのか雪が無く、小屋の煙突から少しですが煙が上がっているので誰か居るのは間違い無さそうです。


小屋の裏手から物音がするので回ってみると、大柄な初老の男性が鉈を使って薪割りをしていました。男性はこちらに気付いて振り返ります。


「何だお前らは?」


「失礼致します。この村の薬師の方でしょうか? わたくしはレティ・ロズヘッジと申しまして鑑定士を――」


「ロズヘッジ……鑑定士だと? 懐かしい名だな。お前はガヒネアの娘……いや、孫か?」


「あ、いえ――わたくしは故あってガヒネアさんのお世話になっていて、ロズヘッジを名乗らせて貰っています。貴方が薬師のスヴォウさんですか?」


「ああ、俺がスヴォウだ……ガヒネアとは古い知り合いでな。まさかあいつが弟子を取るとは思わなかった。偏屈な奴だろう?」


わたくしは「はい」とは言えず苦笑いしました。


「ガヒネアの弟子ならまあちょっと寄っていけ。そっちのお仲間もな」



――スヴォウさんに家に入るよう促されたのでわたくし達はお邪魔しました。丸太小屋の中は暖炉があり暖かく、色んな薬草が紐に掛けて干されていたり、壁一面に並ぶ棚には壺や瓶に色々な薬品と思われるものが沢山置いてあり、小屋中に独特な匂いが漂っていましたが不思議と嫌な臭いではありませんでした。


「師匠、お客さんですか?」


奥の炊事場らしき場所からエプロン姿の少年が顔を出しました。


「ハサラ、客人に飲み物を淹れてくれ」


ハサラと呼ばれた少年は「はい」と返事をして炊事場に戻ります。


「お弟子さんですか?」


「身寄りが無いというので預かっている。そのつもりは無かったのだが、覚えが良いのでつい色んな事を教えているが……で、何の用だ?」


「あの、それがですね……」


わたくしはスヴォウさんに友人セソルシアさんの病の事を話し、地下迷宮(ダンジョン)で見つけた古いポーション、レシピらしき文献をお見せしました。


「とりあえずそのポーションを調べよう。文献については俺は古代文字は専門ではないから教えてくれ。時間がかかるから、お連れさんは適当に待っていてくれ」


「分かりました。皆さんすみませんが……」


仲間達は笑顔で了承してくれました。スヴォウさんは地下迷宮(ダンジョン)で見つけたポーションを薬皿に少量垂らして臭いを嗅いだりかき混ぜたりしました。


「ふむ、発酵……いや、腐敗していてよくわからんな、まあ当然か」


次にレシピの様なものが書かれた文献をスヴォウさんと一緒に解読してゆきます。分からない専門用語が沢山あり、とても時間がかかりました。わたくしが直訳しているとスヴォウさんがそこから解釈して読み解いて行かれます。


途中で食事を摂りながらほぼ一日かけて何とか一定の部分までは判明しました。


「この文献に載っているのは、身体の働きを正常化させるものだな。伝説にもある"万病の霊薬イリクシア"というやつだ。様々な毒や病に効果があるとされる――実際にはどこまで効果があるのかは分からんがな」


「確かに。わたくしが見つけた、辺境探訪諸記という書物に記された万病の霊薬イリクシアを求めての旅なのですが、そもそも本当に奇跡の様な薬を作ることができるのか……根本的な疑問はあるのですが、わたくしも藁をもすがる思いですので……いえ、すみません。折角ご助力頂いているのに」


「まあ、有っても不思議ではないだろうよ。世界を一瞬で移動する転移装置(テレポーター)みたいなのを作っちまった奴らだ、どんな毒や病気にも効く薬を作ってもおかしくないだろう?」



(そうですね、古代魔法帝国の遺物は驚くべき物が多いですから……)



「材料だが、一般的な解毒や解熱などの薬草に使うものが大部分だが、一部入手が大変な物もあるな。それに製造過程で治癒魔法も必要な様だ」


スヴォウさんは文献を睨みながら独り言の様に仰いました。


「どういった材料でしょう?」


「むう、これは本来なら比較的手に入れ易いのだが……ううむ」


スヴォウさんが仰るには、ブロッへの北に広がる山脈に自生しているキノコらしいのですが……。


「何か問題が? 険しい崖に生えているとか……」


「いや、確かに高地の洞穴などに自生していて儂はその場所を知っているのだが――」


スヴォウさんは険しい表情をしています。


「最近、狐狼(フォックスウルフ)達が麓に近い所まで降りて来るようになったんだよ。本来ならそのキノコが生えている場所よりももっと山深い場所が縄張りのはずなんだがな」



狐狼(フォックスウルフ)……確かブロッへの手前で遠吠えを聞いた獣ですね?)



「そんなに危険なのですか?」


「いや、まあ危険は危険だが……お前たちの様なそれなりの修羅場をくぐり抜けた冒険者なら対処できるだろう。奴が出て来なければな」


スヴォウさんは立ち上がって窓の外を見つめました。その視線の先には北の山脈があります。


「奴、ですか?」


狐狼(フォックスウルフ)の中でも特に大きく恐ろしい奴がいると昔から言い伝えられていた。尾が二本有る事から双尾の主(デュアルテイル)と呼ばれている奴が。それが現れたのだ」


スヴォウさんのお話では、その狐狼(フォックスウルフ)双尾の主(デュアルテイル)はこの辺りの子供を躾ける為のおとぎ話の存在かと思われていたのですが、最近山の中腹にある集落が襲われてその姿が目撃されたそうです。


「冒険者ギルドに調査と討伐の依頼を出しているのだが、この地域には冒険者が少なくてな」


「あ、それならば……」


わたくしはキノコの採取と同時に狐狼(フォックスウルフ)の調査及び討伐の依頼の相談を仲間達にしたところ快く受けてくれました。


「儂はもう以前に膝を悪くしてな、山に行くのは無理だ。代わりにこのハサラを道案内に付けよう」


「宜しくお願いします」


ハサラさんはペコリと頭を下げます。



(ファナさんと同年代位でしょうか? 礼儀正しいですね)



――そして、その日はスヴォウさんのお家に泊めて頂き、翌早朝に出発することになりました。


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