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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第三部 幻の秘薬編

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第八三話「野盗の襲撃」

――秘薬の製法を読み解く為、師匠のガヒネアさんからの手紙で紹介された薬師を訪ねて帝国領西部にあるブロッへという町を目指します。


徒歩では一〇日以上かかるということで、わたくし達はブロッへの手前にあるヒドゥアという街まで戻るという荷馬車に乗せてもらう事になりました。


荷馬車は行き帰りにそれぞれ荷物を積む場合と空荷で元の街に戻る場合があるそうです。空荷で戻る場合は儲けが無い分、わたくし達の様な冒険者が相乗りする事は、運賃収入が得られ、さらに護衛にもなるので歓迎されるそうです。



(わたくし達冒険者も移動手段を得られるので持ちつ持たれつ、ということですね)



荷馬車のご主人が仰るには、ファッゾ=ファグ周辺は冒険者が多いのでこの地域では比較的治安が良いそうなのですが、少し離れると怪物や野盗の類も出没するそうです。


「野盗ですか……そういえばまだお会いした事ありませんね」


わたくしのひと言に皆さん何故か笑いました。


「お会いした事か、まあそんな丁寧に扱う奴らじゃないけどね」


アンさんは掌を小さく振って苦笑いします。


「俺たちがやってきた帝国領東部は冒険者ギルドが活発で、帝国の治安も比較的行き届いているから野盗をするリスクの方が高いし、そういう輩とはあまり出くわさないよな」


マーシウさんが説明してくれました。


「この西部は野盗の類が出るそうだ。東部より遺跡などが少ないから訪れる冒険者の絶対数が居らず、野盗対策が後手になっているらしい」


ディロンさんが付け加えました。



(移動中も油断出来ないということですね……)



そんな風に皆さん言っていたのでわたくし緊張していましたが、二日間は何事もなく過ぎました。三日目になると緊張していたのもあってわたくし睡眠不足で、昼間でも荷馬車に揺られながら気付いたら眠ってしまっていたようです。


わたくしは腰に差している首領の剣が振動している事で目を覚ましました。辺りを見渡すと荷馬車は止まっていて荷台では仲間達も眠っていました。


「えっと……皆さん起きて下さい?」


わたくしはとりあえず目の前で横になって眠っているアンさんを起こします。そして御者の老夫婦に声をかけますが、やはり眠っているようでした。



(馬も眠っているのでしょうか?)



「これは……一体?」


その時わたくしの口をアンさんの掌が塞ぎました。アンさんは唇に人差し指を当て「静かに」というジェスチャーをします。そして囁く様に言いました。


「……静かに皆を起こして。襲撃かもしれないから」


「襲撃ですか?!」


「多分魔法で眠らされたね、ディロンもシオリも食らってるから強い魔術師や精霊術師がいるかも……」


アンさんはそう告げるとポーチから襟巻きを取り出して首に巻きました。


地下迷宮(ダンジョン)で拾ったやつ、使ってみるよ」


アンさんはそう言うと座って俯いたまま動かなくなりました。わたくしはアンさんに手で触れてみますが手には感触が無く通り抜けてしまいます。



(これは……揺曳の襟巻(フラッタースカーフ)の効果ですね)



揺曳の襟巻(フラッタースカーフ)は辺境の地下迷宮(ダンジョン)でマーシウさんの灼熱の直剣(ブレイズヒート)と共に見つけたものです。所有者の意思で残像を残したまま姿を消し、一定時間行動できるという魔道具です。



(試しに使った際にも見ましたが、この残像見事ですね……などと感心してる暇はありません)



わたくしは大きな声を出さないように一人ずつ仲間達全員を起こして状況を説明しました。皆さん魔法での睡眠だった為か、起きてすぐに意識ははっきりしているようです。



「殺すつもりならもう仕掛けて来てるだろう。眠らせてる間に奪っていくつもりじゃないか?」


マーシウさんが意見を述べているとわたくしの持つ風の振鈴が頭の中で警告を鳴らします。


「囲まれています……少なくとも三つ」


「アンの魔道具はまだ効果があるな、よし……皆毛布を被るのだ」


ディロンさんの指示でわたくし達は毛布を被り様子を窺います。荷台にはアンさんが座ったまま眠っている幻影が鎮座しています。



「御者と馬は眠っているな」


「荷台を確認しろ」


といったやり取りが聞こえて来ました、どうやら本当に野盗の様です。賊が三人、荷台の幕をめくり中へと侵入してきました。そしてアンさんの幻影を縛ろうとした時に気が付き「罠だ!」と叫びます。


『……蔦の戒め(ペタルバインド)


ディロンさんが被っていた毛布をめくり、ポケットから取り出した植物の種を賊に投げつけました。種から急激に芽が出て蔦が伸び、賊を縛ります。


『……麻痺(パラライズ)


ディロンさんの少し後のタイミングで毛布をめくったファナさんは長杖(スタッフ)をもう一人の賊に向けて麻痺(パラライズ)の魔法を唱えます。賊は一瞬硬直してから目を見開いたまま崩れるように倒れて動けなくなりました。もう一人の賊は逃げようとしますが、マーシウさんが後ろから後頭部を殴って気絶させ、賊三人を制圧します。


わたくしは御者の老夫婦を起こして荷台の方へ来てもらいました。馬はまだ眠っているらしくすぐに荷馬車は動かせそうにないので、マーシウさんとディロンさんは外に出て周囲を警戒します。わたくしとシオリさんは御者席から見える方向に注意を払います。ファナさんは荷台の上に乗ったまま周囲を警戒しています。


すると、荷馬車を囲むように周囲の茂みから野盗と思われる男たちが現れます。見えるだけで一〇人はいるでしょうか? 一気に間合いを詰めずにじりじりと警戒しながら包囲を縮めているようです。



「なんだ、あいつら……数で囲んでいるのに来ないな?」


「……マーシウ殿、術師がいるのだ!」


ディロンさんは野盗たちが距離を詰めてこない理由に気付いた様です。シオリさんは即座に対魔法結界アンチマジックフィールドを唱えました。すると何かの術が結界に触れたのか、荷馬車の周りに半球状の光の薄膜が見えてそれに干渉した魔法が「バチバチ」と火花を散らしています。



「これ痺れる雲(スタンクラウド)だ! ファナと同じかそれ以上の魔術師(メイジ)だよ!」


ファナさんがその様子を見て叫びます。



(確かに痺れる雲(スタンクラウド)はファナさんが扱える魔法でもかなり高位のものです――)



そして魔法探知(センスマジック)で魔法が使用された方向や位置を調べようとしますが、対魔法結界アンチマジックフィールドの中なので使えないそうです。



「クソッたれ向こうも魔術師(メイジ)がいるのか?!」


「聞いてねぇぞ」



(なんだか野盗の方も計算外だったようですね……)



突然、藪をかき分ける「ガサガサ」という音がしました。わたくし達だけでなく野盗たちも驚いてそちらを見ました。藪から出てきたのはアンさんで、ローブを着た人を縄で縛って引きずってきました。



(アンさんの幻影がいつの間にか無くなっていますね……この魔術師(メイジ)を一人で探していたのでしょうか?)



「おい、これお前らの仲間だろ?」


その様子を見て野盗たちはたじろぎますが「クソ、こうなったら殺るしかねえ……」と言って殺気が満ちた視線をこちらに向けました。


「おいおい、お前らの仲間どうなってもいいのか?」


アンさんは縛っている魔術師(メイジ)にカタナを向けていますが野盗たちは「殺りたきゃ殺れ、お前たちも道づれにしてやる」と吐き捨てるように言いました。



「くそ、仲間の犠牲なんざぁどうでもいいってか?」


「厄介だ、こう言う奴らは……こっちは一人の犠牲も出せんのにな」


アンさんとマーシウさんは苦虫を嚙み潰したような表情です。



(人間相手に魔剣を使う? でも相手はこちらの命を奪う気でいますから甘い事は言っていられませんよね……)



わたくし達と野盗たちが睨みあっていたその時、兵士たちが上げる様な(とき)の声と馬の蹄の音が多数聞こえてきました。野盗たちは慌てて逃げ始めますがそこに騎兵が現れました。逃げ道を塞がれて右往左往していると武装した兵士が駆け付けて賊は次々と捕らえられました。


わたくし達が呆然としていると、兵士たちの後ろから騎兵がやってきました、指揮官でしょうか? 騎兵が指揮官の周りに集まります。指揮官が何か指示を出すと騎兵が二騎周囲の探索に出ます。そして一騎は来た方向に戻って行きました。指揮官が下馬すると残った二人の騎兵もそれに付き従って下馬します。


「君たちか、襲われていたのは?」


指揮官はそう言いながらこちらへ向かってきます。老夫婦が指揮官に対して涙ながらに礼を言っていました。指揮官は「無事で何よりだ」と兜を脱いで微笑みかけています。そこにマーシウさんが指揮官の前に歩み出て数センチ程度の大きさの金属板の首飾り(ペンダント)、冒険者の証である認識票(タグ)を見せました。


「我々は冒険者ギルドおさんぽ日和(サニーストローラーズ)所属の冒険者です。この方たちの荷馬車に護衛として同乗していました」


指揮官はマーシウさんから認識票(タグ)を受け取り目を通すとマーシウさんに返しました。


「イェンキャストの冒険者か、遠路はるばるご苦労だな。私はこの地域の警備隊長、カルーフレンだ。最近、眠りの魔法を使って荷馬車を襲う野盗が出没しているという事で探していたのだ」


(カル―フレン? 確かセシィの護衛騎士のガーネミナさんの姓はカル―フレンだった様な気がします――)


「あの……カル―フレン様、ガーネミナさんという方をご存じですか? ヴィフィメール子爵家でご令嬢の護衛をなさっているのですが――」


わたくしはカルーフレン隊長に思い切って聞いてみました。


「!? 君は私の姉を知っているのか?」


「やはり……ガーネミナさんの弟君が地方で警備隊をしていると仰っていたのでもしやとおもいまして……わたくしはレティ・ロズヘッジと申しまして、ヴィフィメール子爵家ご令嬢のセソルシア様と懇意にさせて頂いている者です」


「なんという……私はレーグオル・カル―フレン、騎士ガーネミナ・カル―フレンは私の姉だ」

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