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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第二部 冒険者編

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第五七話「書物大祭の開催」

――書物大祭(ビブリオフェスタ)の開催時間が近いと係員の方が触れ回っていますので、周囲の露店も殆どが準備完了して座りながら待っている状況になりました。



(そういえば、お隣にご挨拶していませんでしたね)



わたくしの居るは露店は並びの右の端ですので、左隣の露店主の方にご挨拶します。


「あの……隣の者です、宜しくお願いします」


お隣は新しく綺麗な本を並べているお店でした。よく見ると四冊のみですが、それぞれ写本が何部も作られているようです。


分厚いローブのフードを目深に被った小柄な方が座られていますが、反応がありません。わたくしは気持ち声量を上げてもう一度声をかけます。


「あの、すみませ……」


「わあ?! え、え、ワタクシですか?!」


椅子から転げ落ちそうになって驚かれました。その声から若い女性だと気付きました。


「すみません、驚かせてしまって……あの、隣りの店の者です。ご挨拶に……」


「え? あ、あぁ~!」


ローブの女性は袖で口元を拭うと立ち上がってフードを外しました。目元を隠すほど長く伸びた深翠色の髪の色白の小柄な方です。



(少女? 女性……でしょうか? わたくしより歳下にも同年代にも見えます……)



「あはは……ちょっと居眠りしていました、ごめんなさい。宜しくお願いします~」


そうして挨拶を交わしていると「書物大祭(ビブリオフェスタ)開催します! お客様入られますので注意してください!」という事を係員の方々が触れ回っています。



(注意してくださいとはどういう事でしょうか?)



わたくしは立ちあがって露店の前に出て会場入り口の方向を見ます。


「あのぉ、座っておいた方がいいですよ? 危ないので……」


すると何か地響きというか振動があり喧噪が聞こえてきます。わたくしはお隣の方に言われた通り露店に戻り座りました。大勢の人の話し声や足音がどんどん近づいてきて、やがて目の前を人が川の様に流れていきました。


「ええ……これは……」


「ね、危ないでしょ?」


驚いているわたくしを見て隣の方は楽し気に言いました。


暫くして人の流れが落ち着いてくると、隣の露店にはお客さんがちらほらと来られていました。その都度本が売れていきます。それに引き換えこちらは、手に取って見て行かれる方がいるものの声を掛けると本を閉じて行ってしまわれました。


人の流れが落ち着いてきたので露店の前に出て商品の置き方などを変えてみたりしていると、隣の方がわたくしの露店の本を手に取ってめくりました。


「帝国植物図鑑……東方大陸見聞録……辺境探索記……なるほどなるほど。これはじっくり内容を吟味したい本ですね」


わたくしが並べた本をあれこれ手に取りながら少し興奮している様子です。


「ええ、お好きな方は絶対居られると思って持ってきたのですが……」


「まあ、まだ始まったばかりで皆さん一番のお目当ての店を巡っているので、こういう掘り出し物系の本は午後から動きますよ」


「そうなんですか……あ、わたくしそう言えば名乗っていませんでした。レティ・ロズヘッジと申します。イェンキャストにある魔道具店・薔薇の垣根(ロズヘッジ)の店主代理です」


「あ、ああっ、ワタクシも名乗っていませんでした! テュシー・ロバイアと申します。帝都で……その、作家のような事をしています」


テュシーさんは「作家のような事」と言う時に少し照れたように控えめに言いました。



「ひょっとして、ご自分で書かれた本を売られているのですか?」


わたくしはテュシーさんの露店の本に手を伸ばします。するとテュシーさんは「はわわわ」と慌てる様な仕草をされました。


「え、駄目でしたか? すみません勝手に……」


「い、いえ! そんなことありませんよ! ……どうぞ」


テュシーさんに手渡された本を眺めます。



("放浪の令嬢、その愛"……何でしょう、恋愛小説でしょうか?)



わたくしはとりあえずあらすじを拝見します。その物語はといいますと――とある貴族令嬢が濡れ衣を着せられ追放された所に身分を隠して冒険者をしている王子に助けられて旅をする事になり、令嬢は王子に恋心を抱き始めるのですが、実は王子は男装の王女で……。



(な、なかなか複雑なお話ですね……。しかし、追放された貴族令嬢というのは……偶然ですよね?)



「このお話はご自分で全て創作されたのですか?」


わたくしが質問するとテュシーさんはニヤリと不敵な笑みを浮かべました。


「あ、いや、えっと、はい……実は、とある実話をワタクシなりに解釈して広げて書いたのですよ……」


「実話……ですか?」


「ワタクシも伝聞なのですが、とある貴族のご令嬢が無実の罪を着せられて追放されたけれども冒険者となって活躍されているという……」



(なんだか何処かで聞いたような……)



「そ、そんな話が……それは昔の話なのでしょうか?」


「いえ、半年前くらいに聞きました。お茶かぃ……いえ、風の噂で。そのご令嬢は他国の王子に見初められたとか、別の大陸に渡って異国の王家に嫁いだとか、様々な噂が流れておりますよ」



(ひょっとしてわたくしの事に尾ヒレがついて? そんな風の噂に聞こえる程広まっているなんて……)



「その……ご令嬢のお話はそんなに世間に広まっているのでしょうか?」


わたくしの言葉にテュシーさんはハッとされます。


「い、いえ……あくまで極一部の界隈で囁かれる噂です! ええ!」


「そうですか……」



(極一部というのがどの辺りなのか気になりますが、ズバリわたくしの事そのものではないので偶然の一致かもしれませんね)



テュシーさんはそそくさと席に戻られました。そうしていると「やっほー」というファナさんの声が聞こえました。


「レティって食べ物あったっけ?」


ファナさんに聞かれてわたくしは食べ物の事をすっかり失念していた事に気が付きました。途端に自分の空腹を意識してお腹が「くぅ」と鳴りました。わたくしが顔を赤らめて俯くと、いい匂いがしました。


「レティ多分食べるもの持ってなかったなって、買ってきたよ」


ファナさんはわたくしに布に包まれた、パンに炙り肉と野菜を挟んだものを渡してくれたました。


「向こうに食べ物の露店が沢山あったからね。あ、これは果実水を入れてるから」


一緒に赤い果実水の入った瓶も渡してくれました。


「ファナさんありがとうございます」


「気づいたのはシオりんだよ」



ファナさんが振り返るとシオリさんとアンさんがやってきます。アンさんは鶏のモモ肉のを炙ったようなものを食べています。


「本のお祭りっていうからあたしはヒマかなと思ってたら、結構食べ物も売ってて気に入ったよ」


「私は薬草のレシピ集を見付けたわ。ちょっと古い本だから読むのに時間がかかりそうだけど役に立ちそうだわ」


アンさんとシオリさんはニコニコしていました。


「レティは本売れた?」


ファナさんが核心を突く質問を無邪気にぶつけてきました。



「それが……まだ……」


わたくしの言葉に皆さん苦笑いされます。


「すまないがいいかね?」


アンさん達の後ろから声がしました。それは口と顎に手入れされた髭を蓄えた白髪の紳士でした。シオリさんはアンさんの袖を引っ張って「すみません」と一礼しました。紳士はわたくしの露店までやってきました。


「失礼、お嬢さん。案内によればこの露店は薔薇の垣根(ロズヘッジ)ということだが店主は居られないかな?」



(えっと、ガヒネアさんのお知り合い……でしょうか?)

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[良い点] ウス=イホンだ!(*⁰▿⁰*) そして御本人がそこにw
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