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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第二部 冒険者編

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第四〇話「蜘蛛の巣窟」

――わたくし達はウゥマさんとサンジュウローさんが見つけたという、村からさほど遠くない森の中にある刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)の巣と思われる場所に向かいました。


森の中の小高い丘の一部が崩れていてそこは明らかに古代遺跡と思われる人工的な遺構が口を開けていました。その周囲には餌になったと思われる動物の骨が散乱しています。そして蜘蛛の糸の様な白い綿状のもので所々が覆われています。わたくし達は遠巻きにそれを眺めています。


「アレ、ヤツラのス」


ウゥマさんは槍の穂先でその入り口を指しました。入り口の幅は人が二、三人並んで入れるくらいの大きさです。あれから皆さんを交えて立てた作戦は――入り口で火を焚いて煙を送り込み、出てきた刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)を仕留めていくというものです。そしてある程度数を減らしてから様子をみて突入して卵を産む女王刃爪蜘蛛ブレードスパイダークイーンを倒すという事ですが……上手くいけばいいのですが。


わたくし達は薪になる枯れ木や枯れ枝を集めます。そしてウゥマさんの指示で煙が出やすいという種類の葉のついた枝をその上に積みました。そして刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)の巣の前で火を焚きます。ウゥマさんが教えて下さった葉は確かに煙が凄くでました。それを村から持ってきた木の板や青葉の繁った枝などで蜘蛛の巣に向かってみんなで扇ぎました。ウゥマさんは精霊魔法「そよ風(ブリーズ)」を唱えて風を送り込みます。それに合わせて風精の加護(ウィンドベール)という精霊魔法でわたくし達の身体の周りは煙に巻かれないように緩やかな風で包んでくれました。


煙がどんどん遺跡の中へ送り込まれていきます。皆さんそれぞれ武器を構えたり、付与魔法(エンチャント)を唱えて待ち構えます。わたくしは村でみなさんが刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)退治の準備をしている間にウゥマさんに教えて頂いて、ミリス銀の短剣を木の棒に固定して槍にしたものを構えます。



(これなら農具のフォークよりは軽いですし刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)の硬い身体に有効ですよね)



しばらく経ちましたが反応がありません。準備に時間がかかったので日没まであまり猶予は無いのですが……そう思っていた矢先、穴の奥から悲鳴にも似た鳴き声が多数聞こえてきました。



「クルゾ!」


ウゥマさんが叫びます。すると穴の奥から刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)がワラワラと出てきましたが、煙に巻かれて混乱しているようです。飛び出してきた刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)をウェルダさん、サンジュウローさん、ウゥマさんが一匹ずつ仕留めて行きます。わたくしもハイトさんと共に刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)に油壺を投げつけた所に発火(ティンダー)で火を点けてそれを手製の槍で突いてトドメを刺していきます。


煙はやがて穴の入口だけでなく、色々な場所からもくもくと上がりはじめました。


「見た目でわからなかった細かな穴があるようですね。皆さん、大きな他の穴が無いか注意を、刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)が他の穴から――」


ハイトさんがそう言おうとしたその時、ウゥマさんが駆け出しました。別の場所にも穴があって、刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)が逃げ出してきた様です。


ウゥマさんは槍を横に構えて穂先を指でなぞりながら魔法を詠唱しています。


「……火精の刃(ファイアウェポン)


すると燃えている蜘蛛の死骸から火の粉がウゥマさんの槍の穂先に集まり炎を纏いました。ウゥマさんは燃える槍で別の穴から這い出てくる刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)を一匹ずつ仕留めて行きます。サンジュウローさんとウェルダさんもウゥマさんに続きます。


しばらくすると、正面の穴から這い出てくる刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)は居なくなりました。しかし、ウゥマさん達のいる正面の反対側の斜面から散発的にまだ刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)が這い出てくるようです。


「ハイト、コッチコイ!」


ウゥマさんが大きな声で呼んでいます、わたくしとハイトさんは声のする方へ向かいました。するともうもうと煙が上がる大きな縦穴があり、戦士の方々が武器を構えつつ穴の中を覗いていました。


「こんな所にも大きな穴が……中に繋がっているのですね?」


わたくしは思わず皆さんに聞いてしまいました。その時ウゥマさんが叫びます。


「ナニカ、クル、オオキイ!」


わたくし達は縦穴に注目しました。すると穴の下の方から悲鳴のような咆哮のような嫌な音が聞こえてきました。そして何か恐ろしいものが上がってくる、そう感じました。


「レティ君、油壷を投げ入れて!」


ハイトさんの指示でわたくしは油の瓶を投げ入れ、その後に枯れ枝に発火(ティンダー)で火をつけたものを投げ入れました。すると「ボゥ」と引火した音が聞こえ、直後にまた嫌な悲鳴のような咆哮が聞こえました。しかしそれはどんどん近づいています。そして縦穴から炎が噴き出し、燃えた枯れ葉や木片をまき散らしながら大きな影が飛び出してきました。


刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)!?」


わたくしはその姿を見てそう叫びましたが、更に倍以上大きな個体でした。


刃爪蜘蛛の女王ブレードスパイダークイーン!」


ハイトさんはそう叫びました。確かにそれは刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)の女王と言うべき大きさで、身体もトゲトゲしくより凶悪な感じに見えます。さっきわたくしが投げ入れた油が身体に当たって火がついていますが、その大きな身体には効果が薄いように見えます。


ハイトさんが早速刃爪蜘蛛の女王ブレードスパイダークイーン麻痺(スタン)を唱えますが、一瞬動きが止まった程度であまり効果が無さそうです。


「この図体では麻痺(スタン)は難しいですか……」


ウェルダさん、サンジュウローさん、ウゥマさんが刃爪蜘蛛の女王ブレードスパイダークイーンを囲むように位置取りします。女王は前脚を鎌のように上げて襲い掛かってきますが、身体が大きい為森の木々が邪魔になり、動きが制限されているようです。


刃爪蜘蛛の女王ブレードスパイダークイーンの攻撃の合間を突いてサンジュウローさんが両手剣(トゥーハンドソード)を突き入れています。サンジュウローさんも木々が邪魔で長い両手剣(トゥーハンドソード)を自由に振り回せないのですが、刺突攻撃に絞って木々の合間から攻撃しつつ、少し木々の間が広い場所に来ると両手剣(トゥーハンドソード)を縦に振り下ろすなど、長い得物を巧みに使って戦っています。


しかし、刃爪蜘蛛の女王ブレードスパイダークイーンは木々で動きが制限されているとはいえ、器用に木の間を縫う様に移動して襲い掛かってきます。


『……疾風(ヘイスト)……護り(プロテクション)……湧き上がる力(モアパワー)……命の泉(リジェネレ―ション)


ハイトさんは支援魔法を唱えます。すると皆さんの攻撃が刃爪蜘蛛の女王ブレードスパイダークイーンの硬い外皮に傷をつけられるようになりました。しかし刃爪蜘蛛の女王ブレードスパイダークイーンは多少の傷は厭わずに攻撃しているようです。前脚だけでなく合計八本の脚がそれぞれ別の生き物のように動き、ウェルダさん達を牽制して近づかせません。



(今、わたくしに出来る事……)



わたくしは灯かり(ライト)の魔法を唱えて女王蜘蛛の行く手に先回りをします。そして光を女王に向けます。女王は動きを止めて嫌がる素振りをみせます。



(よし、刃爪蜘蛛の女王ブレードスパイダークイーンでも強い光は嫌がるみたいです。このまま足止めを……)



不意に後ろで枯れ葉や枝を踏みしめる音が聞こえた気がしたので振り返ると、刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)がわたくしに鎌のような前脚を振り上げて襲い掛かろうとしていました。咄嗟に横に躱しますがそこには大きな木がありぶつかってしまいました。


「ぐ……あぁ!」



(いけませんこれは……)



全身が粟立つ感覚――そして、いつでしたか……自分に向かって飛んでくる瓦礫がゆっくり見えた時の様な感覚が再び訪れます。鋭い刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)の爪がゆっくりこちらに向かってくるのが見えました。



(これは……屈めば?)



わたくしは木を背にしたままその場でストンと屈みます。するとわたくしの髪を掠めて刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)の爪が木に刺さりました。刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)は爪を抜こうと踏ん張っているのか動きが止まりました。


「へやぁっ!」


わたくしは無我夢中で刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)の頭部目掛けて手製の槍を突き入れました。しかし、急所が外れたのか刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)は悲鳴のような声を上げながらもう一方の前脚の爪を振り回します。わたくしはそれを寸で躱しますが爪の先が腕を掠めて斬り裂かれ、その瞬間痛みが走りますがそれも徐々に弱まり傷口も少しずつ塞がってゆきます。



(ハイトさんが唱えて下さった命の泉(リジェネレ―ション)のお陰ですね……)



刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)は木に刺さった爪を抜き、わたくしに襲いかかろうとしました。


「……麻痺(スタン)!」


ハイトさんが刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)麻痺(スタン)の魔法を唱えてくれたようです。わたくしは動けなくなった刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)に手製の槍を突き立てました。刃爪蜘蛛(ブレードスパイダー)は悲鳴を上げながら絶命しました。


「あ、ありがとうございます!」


「傷は大丈夫ですね? 前衛の支援をするよ!」


「は、はい!」



刃爪蜘蛛の女王ブレードスパイダークイーン、何としても倒さねば……)

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