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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
幕間その二

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第二一九話「廃墟の調査と異変の予兆」

──中央大陸南東部の山岳地帯を越える為の街道がある。けれど、現在そこには来るものを止める砦、関所が設けられていた。駐屯している兵士はここの領主の兵じゃなくて帝国正規兵、つまりは皇帝陛下直轄軍の兵士だ。


(話にゃ聞いてたがマジか──)


アタシはリウィルナ・ギールィ。イェンキャストを拠点に活動してる冒険者ギルド、"花咲く食堂(ブルーミングキッチン)"のギルドマスターで、斥候兵(スカウト)さ。


関所の兵士に、あらかじめ依頼主(クライアント)から預かっていた手形と認識票(パーティータグ)を差し出す。


「連絡の通りだな、通ってよし──」


兵士が関所の門を開き、アタシらは堂々と中に入る。この砦の向こうには以前「キャリシゥマ」という宿場街があった。湯けむりが立ちのぼり、物見遊山の旅人たちでにぎわう風光明媚な温泉の街──だが、今は見る影もない。


今回はイェンキャストの冒険者ギルド組合(ユニオン)絡みの依頼(クエスト)で、アタシらのギルドにご指名がかかった。守秘義務契約付きの案件だ。元々アタシはべらべら喋る性質(タチ)じゃないから問題はないけどね──冒険者にはそういう"信用"が一番の財産、百も承知さ。


「……すっかり荒れ果ててるね。三年前は人で賑わってたって話だけど」


”元・温泉の街キャリシウマとその先にある古代遺跡の調査”って依頼(クエスト)を請け負ってここまで来たってわけなんだけど──。


「綺麗な街だった……石畳も湯煙も、情緒があってね。よく骨休めに来たんですよ──」


短い黒髪、整えた顎髭を撫でながら懐かしむように言うのは、治癒魔術師(ヒーラー)のマークルゥ・スレッティン。以前から何度も訪れたことがあるらしい。


「やはり、このあたりの魔力……自然じゃないな。不自然に濃い──空気そのものが重たい気もするしな」


細身の褐色肌で、一八〇センチを超える長身の魔術師(メイジ)、ザッキライン・ザッハが眉をひそめて呟く。長い銀髪をかき上げ、長杖(スタッフ)を掲げて魔力探知(センスマジック)で辺りを調べていた。


「全部焼けちまってるな。建物も、街道も、まるごと消し炭じゃねぇか。いったい何があったんだ?」


二メートル程の巨躯、赤銅色の髪を獅子のたてがみ(・・・・・・・)みたいに逆立てた戦士(ファイター)のガイエイ・ガランが怪訝な顔でぶつくさ言いながら、地面に転がる炭化した柱を踏み砕く。その音が、乾いた風の中に空しく響いた。


「これはあんまり大きな声じゃ言えないけど……三年前、近くの古代遺跡が爆発したらしいよ。そのせいで起きた地震と火災で街ごと飲まれたって話だね──」


「そんな大事(おおごと)、なんで知られてねえんだよ(あね)さん?」


ガイエイがでかい声で喚いた──こいつにとっては普通の声なんだろうけど、体格(なり)と同じでいちいち声がデカい。


「皇帝陛下じきじきに軍隊出張らせてるんだ、秘密にしときたいんだろうさ」


「お前みたいないちいち声のでかいヤツに知られん為だろ?」


「オメエこそ、いちいちうるせえなザック! その頭ぁ、この消し炭みたいに踏み割るか?」


ガイエイとザッキライン──こいつらのガキみたいな口喧嘩はギルド(ウチ)の名物みたいなもんだ。まあその通りこいつらはガキの頃からつるんでる(・・・・・)らしくて、現場での連携に文句は無い。マークルゥは流石に人が出来てるから軽く流してるしね。


そんなメンバー同士のじゃれ合いを横目に、アタシは腰のポーチから地図を取り出した。地図には赤い印で「地下遺跡・封鎖区域」と書かれている。これは依頼主(クライアント)から渡された秘密の地図だ。


依頼(クエスト)はその爆発とやらの跡を調べるってわけだろ……そういうのは地味で面倒くせえなぁ」


「まあそう言うな、ガイエイ。金になる依頼(クエスト)というのは、だいたい面倒なものだよ」


マークルゥが苦笑しながら肩をすくめる。


「そうさ、万年金欠ギルドのウチとしちゃあ調査だけでたんまり貰えるんだ、願ったり叶ったりだよ──」


今回の依頼(クエスト)みたいなのは、ギルド(うち)にとっちゃ有難い話だ。(じか)受けじゃなくて組合(ユニオン)通ってるから、依頼主(クライアント)もちゃんとしてるって事だからさ。


そうはいっても、どうやら最初は"おさんぽ日和(サニーストローラーズ)"に向けてのものだったらしい。連中、別件で出払ってたから代わりにウチを推薦したってことだった。


「なんたってご指名なんだからさ、気合い入れてやんのよガイエイ?」


「へっ、そりゃいいけど……(あね)さんと違って調査とか細けぇ仕事は苦手なんだよ、俺は」


「じゃあその分、前を歩きな。前衛として存分に働かせてあげるよ」


「おうよ。怪物(モンスター)でも出たらまとめてぶっ飛ばしてやるぜ」


ガイエイは力こぶを作って大きな声で笑っていた。それを見てアタシは溜息をつきながらも、微かに笑みを浮かべる。



(ま、正直アタシも、もういい歳だからあんまりガッツリと戦闘とかは遠慮したいんだよね──)



──そしてアタシたちは、焼け焦げた街を離れ、さらに徒歩で数日かかるという古代遺跡があったという山岳地帯へと向かった。その山道は樹木も無く、崩落や落石の跡だらけで想定以上に進むのが困難だった──それは、まるで山そのものが息絶える寸前みたいな荒れようにも感じられた。


途中、動く樹木(アニメイトツリー)動く岩石(アニメイトロック)の襲撃も何度か受けた。けどまあ、ここ二年ほど街の冒険者総出でこいつらの討伐をやってきたアタシらには、お馴染みの相手ってやつだ。


「っと……こいつら、まだ湧いてやがるか」


ガイエイが戦斧(バトルアックス)動く樹木(アニメイトツリー)の幹を叩き割りながらぼやく。


「気を抜くなバカ。前方、魔力の残滓が漂ってる。まだ増えるかもしれんぞ?」


「んだとザックてめぇ……バカは余計だバカ!」


ザッキラインはガイエイの言葉を意に介さず、長杖(スタッフ)を軽く振る。魔力探知(センスマジック)で周囲にまだいないか調べている。


「これで打ち止めの様だ──」


「ふう……どうにか片付いたな」


マークルゥは息を整えながら手斧を腰ベルトにしまい、ガイエイが受けた細かい傷の具合を確かめながら治癒(キュアウーンズ)を唱えていた。



──そんな道のりを終え、ようやく山の稜線に辿り着いた時……アタシたちの眼前に広がった光景に、思わず息を呑んだ。


「……なんだい、こりゃあ!?」


そこには、すり鉢状に抉れたような巨大な穴があった。稜線だと思っていたのは爆発でできたクレーターの外周だったようだ。すり鉢の斜面、崩れた岩の間から人工の柱や石壁がのぞいている。多分それが遺跡の跡なんだろう。


「暑っちぃな……茹っちまうぜ」


ガイエイが汗を拭いながら顔をしかめる。確かに、辺りはもうもうとした熱気に包まれていた。底には水が溜まり、もくもくと湯気が立ちのぼっている──あれは多分熱湯、巨大な温泉溜まりってところか。


「リウィルナ(ねえ)さん、この底が一番魔力が強いな。あの水溜まり、いや熱湯溜まりか? そこが一番濃い──」


ザッキラインが長杖(スタッフ)ですり鉢の底を指し示した。


「遺跡の残骸も見える、ここが例の古代遺跡か……だとすれば、その爆発は何が引き金だったんだろうな?」


マークルゥが顎髭を撫でながら呟く──その時、地面の奥から「ゴゴゴ……」と低い響きが伝わってきた。


「なんだ……揺れてね?」


ガイエイが呟く。その瞬間──肌が粟立つような怖気が走って、アタシは咄嗟にしゃがみ込んだ。他の三人も慌ててそれに倣う。


「うわっ!」


地面が大きく揺れ、山肌の岩が崩れ落ち、転がる音が響く。幸い、アタシらの位置は高台だったから、直撃は免れたが──背筋に冷たい汗が伝う。


「……な、なんだあれは!?」


ザッキラインが指差した先。すり鉢の底で熱湯がボコボコと泡立ち、沸騰するように水蒸気が噴き上がって、湯気がもうもうと広がってゆく。


「姿勢を低くして下がれ、湯気も吸うな。何が含まれてるかわからん!」


いつもとは違う、マークルゥの鋭い声にアタシらは一斉に後ずさる。


『──抗毒(レジストポイズン)


マークルゥが魔法を唱えたその瞬間──再び、強烈な揺れが。


「うわっ、またかよっ!」


ガイエイが叫ぶ。地面が波打つように揺れ、立っていられず尻餅をつく。その時、アタシは──濃霧のような水蒸気の向こうに、"何か"が動くのを見た。


大きく黒い影。人の形でも、獣の形でもない、巨大な"輪郭"。まるで山でも動いたような、それほど大きく見えた。


「な、なにあれ……っ──うわぁっ!?」


更に激しい振動が襲い、アタシらは思わず身を伏せた。耳鳴りと土砂の音。世界がひっくり返るような、数刻にも感じる時が過ぎ──やがて、静寂が戻った。


どれくらい時間が経ったのか──濃霧のような水蒸気は風に流れて視界がある程度開けた。アタシたちは身体中に降りかかった土埃を払いながら慎重に立ち上がり、再びすり鉢を見下ろす。


「……おいおい、さっきと景色が違うぞ」


ガイエイが指差す。すり鉢の対岸は崩れ、地面には巨大な亀裂と、まるで"何かが這い出たような跡"が残っていた。


「さっきの地震で崩れたんだろう……たぶんな」


マークルゥの声は落ち着いていたが、眉間の皺は深かった。



(──そんな、単なる地震じゃないわね)



「みんな、なんか水蒸気の向こうで動かなかった? とてもデカい──」


しかし、他の三人は顔を見合わせて首を横に振っていた。あの酷い揺れと水蒸気でアタシは何か見間違いでもしたのだろうか──しかし、胸の奥のざわつきは治まらず、これ以上の調査は危険と判断した。地震で岩の崩落にでも巻き込まれたら元も子もないからね。


(あの黒い影──本当にアタシの見間違いだったのかねえ?)


何かあれば砦の帝国兵も対応するだろう──そう思って、アタシたちは見たものや起きたことを記録し、静かに山を下り始めた。



冒険小説でありがちな「これが後に起きる大きな事件の始まりだった──」なんて、まさか自分がその目撃者になるなんて、自分の孫に寝物語で聞かせてやるのは、まだずっと先の話だ──。

幕間その二は今回で終了です。次回より新章、本編再開です。

花咲く食堂(ブルーミングキッチン) 第九五話~第九八話参照

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