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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
幕間その二

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215/219

第二一五話「テュシーとセシィ」

友人のセシィさんの突然の来客に──。


取り合えずお茶を淹れようと、部屋付きの小さな給湯室(キチネット)へ向かい、ティーカップに茶漉しをセットして茶葉を入れ、魔術結晶の付いたミリス銀製の薬缶(やかん)から湯を注ぎました。


「え……どうしてお湯がもう?」


セシィさんは目を丸くし、湯気の立つ薬缶をじっと見つめています。


「これは湯沸し薬缶(ボイラーケトル)と呼ばれる魔道具です。中に水を入れて"温まれ"と念じるだけでお湯になり、保温までしてくれるのですよ」


「まあ、そんな便利な魔道具が……一体どこで?」


「以前、書物大祭(ビブリオフェスタ)で偶然見つけまして。当初は"沸かすだけ"しか分からなかったのですが、レティさんにお見せしたら詳しく調べてくださって……保温機能もあると分かり、とても助かっています」


その瞬間、セシィさんの瞳がきらりと輝きました。


「……今、何と仰いました?」


「え? ええと……湯沸し薬缶(ボイラーケトル)、のことですか?」


「いえ、その……手に入れられた場所を」


どうやら薬缶そのものより、別の言葉に反応したようです。


「……書物大祭(ビブリオフェスタ)?」


「それです!」


セシィさんは身を乗り出し、思わず声を弾ませました。


「私、ずっと書物大祭(ビブリオフェスタ)に行ってみたかったんです。レティは行ったと聞いて羨ましくて……」


「実は、ワタクシとレティさんが出会ったのも書物大祭(ビブリオフェスタ)だったんですよ」


「やっぱり……四年に一度の大祭ですよね。ああ、一度でいいから参加してみたいです……」


セシィさんは両手を胸の前で組み、祈るようにうっとりとした表情を浮かべます。



(そういえば、以前はご病気で外出もままならなかったのでしたわね……)



「ちょうど今年が開催年ですし、ワタクシも参加予定です。もしよろしければご一緒なさいます?」


「えっ……テュシーさん、本当に……ですか?!」


「え、ええ。これまで何度か参加しておりますの。販売者(ディーラー)としてはこれで二度目ですが」


販売者(ディーラー)……レティが言っていた、売り手としてお店を出すことですね?」


「その通りです。……あの、もしご興味がおありでしたら、ワタクシのお手伝いという形で同席してみませんか?」


「よ、良いのですか?! 本当に?!」


セシィさんは椅子をきしませて立ち上がり、満面の笑みでワタクシの手をぎゅっと握りました。


「え、ええ……はい。ただ……実は少々、危険な事が起こる可能性も──」


「危険……? あ、そういえばレティから聞きました。書物大祭(ビブリオフェスタ)でキマイラと戦ったと──」


「き、キマイラ?! ……そういえば、ワタクシが帰った後に魔物図鑑から魔獣が飛び出して暴れたと耳にしました。レティさんも関わっていたのですね……」


魔道書や魔導具の暴走は、ある意味この祭りの"名物"のようなもの。けれども、実際に巻き込まれると笑い事では済みません。



(それにしても、レティさんの所にはそういう荒事がしょっちゅう舞い込んでくるのですね──)



以前、皇宮地下の転移装置(テレポーター)の調査に協力したときに現れた獅子蟻(ミルメコレオ)を魔剣を使って倒したレティさんの勇ましさを思い出します。



(レティさんが殿方だったらワタクシ、たぶん求婚していますわ──)



そういえば、オークション品鑑定の時にセシィさんとレティさんが奇妙な縮尺模型(ミニチュア)の魔道具に吸い込まれて、そこでもレティさんに助けられたと聞きました──セシィさんもレティさんに対して並々ならぬ親しみを持っておられるのも納得です。



(レティさん恰好良すぎでしょう──)



聞く限り凄く波乱万丈な人生を送っておられる様ですので、物語にすればとても面白いものになると思っていますが──まあそれはまた別の機会に……。


「では、セシィさん。詳しいお話は追ってご連絡差し上げますので予定を開けておいてくださいね」


「はい! よろしくお願いいたします──」


こうしてワタクシは、セシィさんと共に書物大祭(ビブリオフェスタ)へ出店することになったのです。

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