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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第九部 帝国西方編

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第二〇九話「乱戦」

『皆さま、ご準備はよろしいでしょうか?』


注意を促すように声を強めました。皆さんの手が上がるのを確認し、転送を開始します。


青い光の粒子が部屋の中央で渦を巻き、姿を現したのは甲冑蜥蜴(アーマーリザード)五匹と人型蜥蜴(マンリザード)二体。


「いきなり多いですね……大丈夫でしょうか?」


思わず心配を口にします──が。


エルミスさんは確認するや否や詠唱を開始。前衛二人は下がり、ウェルダさんは魔法の騎士盾ナイツマジックシールドで障壁を展開しました。


次の瞬間、長杖(スタッフ)の先から閃光がほとばしり、放物線を描いて稲妻が走ります。魔獣の中心にいた人型蜥蜴(マンリザード)に命中した雷撃は、瞬く間に周囲の甲冑蜥蜴(アーマーリザード)ともう一体の人型蜥蜴(マンリザード)へと連鎖しました。


範囲は広大で、ウェルダさんの盾が生んだ障壁にも火花が散り、激しい音を立てています。


「あれは……連鎖雷撃(チェインライトニング)!?」


五匹の甲冑蜥蜴(アーマーリザード)は瞬時に焦げ落ち、白煙を上げて倒れ伏しました。


ただ、人型蜥蜴(マンリザード)は身体が焦げながらも動きを止めず、襲いかかってきます──が、ガナルさんとドゥルガーさんが飛び出し、接近戦で仕留めました。


「鮮やかですね……」


その手並みに感嘆していると、台座から音が鳴り、金属板に「転送開始」の文字が明滅します。


『また来ます、気をつけて!』


視線を戻すと、表示された数字は一気にゼロまで減少していました。


「これは……」


次で最後。喜ばしい反面、強敵の可能性が高いとわたくしは悟ります。


『次で最後ですが、強力な魔獣の可能性があります。警戒を──』


青白い光が渦を巻き、眩い閃光の後に現れたのは、大量の甲冑蜥蜴(アーマーリザード)人型蜥蜴(マンリザード)



(そうきましたか?!)



転移装置(テレポーター)の部屋は、怪物(モンスター)烈なる朱色インテンスヴァーミリオンが入り乱れる乱戦に。


「クソったれ! 乱戦かよ!」


ドゥルガーさんは後衛を庇うように身体ごとぶつかり、魔術師(メイジ)のエルミスさんと治癒魔術師(ヒーラー)のナナンさんを押し退けました。


「ちょっ──!?」


エルミスさんは苛立ちましたが、直後に人型蜥蜴(マンリザード)の攻撃をドゥルガーさんが盾で受け止めたのを見て後退。


だが今度は、横合いから甲冑蜥蜴(アーマーリザード)が彼女に迫ります。


「てやっ!」


ナナンさんが頑丈そうな長杖(スタッフ)で横殴りにし、敵を吹き飛ばしました。大きな身体の彼女は戦士顔負けの手際です。


「ナナン、助かったわ!」


「いえ……でも状況は悪いですね」


前衛の戦士(ガナルさん)神官戦士(ウェルダさん)と、後衛の術者たちが分断されてしまったのです。


大盾の戦士(ドゥルガーさん)は近くに居て庇ってはいるものの、数で押される形に。


「これじゃ、攻撃魔法は撃てない!」


エルミスさんは仲間に聞こえる様に言います。確かに、敵味方入り乱れる中では光の矢(エナジーボルト)すら危ういでしょう。



(──悠長に構えている場合ではありませんね)



わたくしは首領の剣を抜き、階段を駆け下りながら魔剣に念じます。


牢よ開きて出でよ(お願いします)──戦輪(チャクラム)クリール!』


降り立つと同時に光の紋様が展開し、五つの戦輪(チャクラム)が姿を現しました。


魔剣よ切り裂け(行ってください)!』


剣で示した先へ、五つの戦輪(チャクラム)が高速回転しながら飛翔し、各々が異なる標的を切り裂いていきます。


「うおっ?! これは……」


「レティ!?」


ウェルダさんは魔剣を確認し、すぐに状況を理解して連携。彼女に倣い、フリードさんやドゥルガーさんも戦輪(チャクラム)と息を合わせて敵を倒してゆきました。



(皆さん、流石です──)



柔軟な対応は、一流の冒険者ならではです。やがて全ての怪物(モンスター)が討伐され、皆がわたくしのもとへ集まりました。


「皆さま、お疲れさまでした」


「これで……終わりかな?」


ガナルさんが苦笑混じりに問いかけます。


「はい、転移装置(テレポーター)の表示を見る限り、これで終わりかと」


安堵のため息をつきながら、その場に座り込む面々。ウェルダさんが近づいてきます。


「レティ、鑑定士って言うけど……やってること、冒険者と変わらないじゃない。イェンキャストの遺跡のときもそうだったでしょう?」


心配そうに見つめられ、わたくしは答えを探します。


「ええ……? いえ、今回は特別……でもありませんね、やはり毎回このような調査に……すみません」


言い淀みながらも、誤魔化すことはできず声が小さくなってしまう。ウェルダさんの眉間に皺が寄っていくのを見て、つい謝ってしまいました。


「毎回? レティ貴女ね、私が同行していない調査の時にもこんな危うい状況だったって事、言ってなかったわよね?」


「えっと、あの、ご心配おかけするかと思いまして……終わってみると無事でしたので──」


彼女は「はああ……」と深いため息を吐きます。


「それはただの結果でしょ? それに、事実を報告してもらわないと──それについてどう受け取るかは相手次第じゃない?」


「はい、その通りです……」


転移装置(テレポーター)の調査は公認鑑定士の責務だから仕方ないけど……もっと万全な態勢で挑むべきね」


「はい、ごもっともです……」


「私はあなたの護衛としてだけじゃない、相談役って言ってくれてたわよね? 冒険者をする以上、命がけな部分があるのは承知しているけれど、こうも頻繁に預かり知らぬ所でこういうことをされていたら私の立場はどうなるかしら?」


「はい、面目次第もありません……今後は報告と連絡と相談を密に──」


こんなに叱られたのは師匠のガヒネアさんくらいです──でも、こうして至らぬ所を指摘して貰えるのは歳を重ねると無くなるので有難く思えます。



そんなわたくしとウェルダさんのやりとりを、他の皆さんは笑みを漏らして見守っていました。


(うう……しかし、これは恥ずかしいです)

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