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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第九部 帝国西方編

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第二〇七話「帰還そして改めての依頼」

──地下迷宮(ダンジョン)より帰還した翌日、わたくしはザリウ様の書斎に呼び出しを受けたので参りました。そこにはザリウ様と、烈なる朱色インテンスヴァーミリオンのリーダー、ガナルさんが居られます。


「疲れてるところ悪いな、二人とも。これがガナル達に頼んでいた地下迷宮(ダンジョン)探索の報告だ。目を通してくれ」


ザリウ様は紙の束を書斎机に置きました。


「では、拝見します──」


そこに記されていたのは先の地下迷宮(ダンジョン)の地図、そして魔獣が湧き出る部屋──転移装置(テレポーター)の位置情報でした。


「これは……すでに地図作成(マッピング)済みなのですか?!」


「ああ、ウチの斥候兵(スカウト)は仕事が早いんだ」


と、ガナルさんは当然のように言います。


通常、地下迷宮(ダンジョン)地図作成(マッピング)座標探知(アクシス)の魔法に頼ります。しかし稀に、優れた方向感覚や土地勘を持つ者がいて、魔法を用いずともそれを行う──と、聞いたことがありました。


魔法や技能(スキル)ではなく、生まれ持った才能(タレント)──。


今までは「個性」と考えていましたが、数多の人々と出会い共に行動する中で、それが特別な資質であると気づかされます。



(師匠のガヒネアさんが生前おっしゃっていたわたくしの鑑定眼も、或いはそうなのかもしれませんが──)



自ら「鑑定眼があります」などと名乗るものでもありませんから、心の片隅に留めておきます。


「俺達もあの部屋を見つけたんだが、インプが大量に湧いてきてな。撤退せざるを得なかったんだ」


思索に耽っていたわたくしの耳に、ガナルさんの声が続きます。


「インプを倒しても、次は甲冑蜥蜴(アーマーリザード)、さらに人型蜥蜴(マンリザード)、極めつけは見つめる魔眼(ゲイザーアイ)まで現れた。流石にこれは危険すぎると判断して、撤退して伝書精霊の切手(テレメントチケット)で救援を要請したわけです」


伝書精霊(テレメント)の設備不要で、その場から任意の場所へ手紙を送れる希少な魔道具──伝書精霊の切手(テレメントチケット)。その製法は失われ、現存品のみがとても高値で取引されます。



(その殆どは収集品(コレクション)として使用される事はありませんけれど──)



わたくしは改めて魔獣が湧いていた理由、そして転移装置(テレポーター)についてガナルさんに説明しました。


「なるほど、閉ざされた地下迷宮(ダンジョン)で魔獣が湧くのは、そういう仕組みだったのか……」


ガナルさんは考える様に低く呟きます。


「レティ、転移装置(テレポーター)からは、まだ魔獣が現れるのか?」


「取り敢えず停止していますので今は問題ありません。ただ、表示された数字を見る限り……稼働させれば再び転移されてくるでしょう」


ザリウ様はわたくしの答えを聞き、顎に手を当てて考え込みます。


「数字……ってことは、終わりがあるわけだな?」


「わたくしが確認した転移装置(テレポーター)では、その数字がゼロになると魔獣の出現は止みました」


「──よし。なら残りを片付ければ、あの転移装置(テレポーター)は使えるようになるってことか」


「過去の例からすれば、その通りですが……」


わたくしの返答に、ザリウ様はニヤリと笑みを浮かべます。


「レティ、残りの魔獣を討伐し、転移装置(テレポーター)を稼働可能にして欲しい。これは俺から──いや、辺境伯としての正式な依頼だ」


「ザリウ様?」


「レティも、公認鑑定士として皇帝陛下から転移装置(テレポーター)の発見と調査を任されているだろ?」


その問いに「はい」と短く答えました。


「このジャシュメル領と帝都が転移装置(テレポーター)で結ばれたら……とんでもないことになる、だろ?」


確かに。すでにイェンキャスト近郊の遺跡とは非公式ながら接続されており、そのおかげでおさんぽ日和(サニーストローラーズ)ギルド本部と帝都の往来は格段に便利になりました。


西方大陸からの交易品や情報が時間差無く伝わるようになれば──これは革命的です。



(急激な変化は影響も大きいはずですが──)



しかし、陛下や宰相閣下がわたくしに各地の転移装置(テレポーター)の稼働を指示されたという事は、それを望んでおられるのでしょう。その深謀遠慮はわたくしの知識や視野で推し量れるものではありません。


「陛下との話は俺が請け負う。レティにはあの転移装置(テレポーター)を任せたい」


「それは承知しましたが……わたくしと護衛のウェルダだけでは、力不足かと」


烈なる朱色(こいつら)を使え。いいな、ガナル?」


「ええ、願ったり叶ったりです。冒険者としても、あれでは依頼(クエスト)失敗のままだ。再挑戦(リベンジ)は望むところ!」


ガナルさんは嬉しそうに拳を手のひらに叩き付けました。


「ま、クフィ達も行きたがるだろうが……家臣達の心労も限界でな。何度も連れ出すわけにはいかねえ」


辺境伯とその第二から第四夫人までが未踏の地下迷宮(ダンジョン)に行ってしまうなんて、家臣の皆さんの心中は察して余りあります。


「実のところ、俺も行きてぇんだがな──昨日帰った後、嫁に……ナーラにえらく泣かれちまってな」


「姉さ──いえ、奥方様がですか?」


「ああ、なだめるのが大変だったぜ……このままじゃ三人目が出来ちまいそうだったので自重したわけだ!」


ザリウ様は「ガハハ」と大きな声で笑いました。ガナルさんは「やれやれ」といった様子で苦笑していましたが、わたくしは笑いどころが分からずキョトンとしているのに気づきハッとしました。


「ザリウさん、レティさん引いてますよ──未婚女性にそういうのはマズイですって……」


「あっと──すまん、ガナルがいるとつい冒険者時代に戻っちまうんでな」


「ひでぇ、俺のせいっすか?」


お二人はそう言って笑い合っていました。




──こうして、わたくしは再びジャシュメル近郊の遺跡にある転移装置(テレポーター)へ向かうことになりました。

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