表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第九部 帝国西方編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

205/216

第二〇五話「魔剣とザリウ」

──四本腕の竜角兵ドラゴンホーンウォリアーが、ふた振りの大剣を振り上げ、ザリウ様へ斬りかかります。


しかしその猛攻を、断頭石大剣エグゼキューションソードで角度をつけて受け流しつつ、そのまま身を捻ると剣は加速し──敵の左脇腹へと叩き込まれました。


金属がぶつかり、ひしゃげる音が重なって響きます。


魔剣の切っ先は敵の胴鎧に命中し、板金を割って脇腹へ深くめり込みました。勢いに押された竜角兵ドラゴンホーンウォリアーは横によろめきます──が、すぐさま残った腕のひとつで間近のザリウ様を殴りつけました。


「ああっ……っ!」


思わず短く悲鳴を漏らしたわたくしをよそに、ザリウ様はその一撃を魔剣で受け流しながら、敵の背後へと素早く抜け出しました。


「腕が四本もあるんだ、そりゃ警戒するさ」


その言葉どおり、竜角兵ドラゴンホーンウォリアーは背を向けたザリウ様へ右手の大剣で横薙ぎに斬りかかります。けれどそれもまた魔剣で受け流し、そのまま円運動に転じて──背中へ斬撃を叩き込みました。


「ゴシャア」と重い打撃音が響き、その強烈な一撃が敵の肩口の鎧へ魔剣を深く食い込みませます。


「これでどうよ──」


ザリウ様は魔剣を引き抜くと、間合いを取って距離を置きました。


その瞬間、竜角兵ドラゴンホーンウォリアーのひしゃげた鎧が青白く光り、光が収まる頃には傷ついた箇所が元通りに修復されていたのです。


「ゲェっ、なんだコイツ!? 効かねえのかよ……」


自己修復する竜角兵ドラゴンホーンウォリアーと魔剣を振るうザリウ様が、再び正面から剣戟を交わし始めました。わたくしは慌てて記憶と知識を総動員し、思考を巡らせます。


「面白え戦いなんだがな──生憎、あんまり時間が無いんだよ。なあ、相棒?」


そう言ってザリウ様は魔剣に目を遣ります。



(わたくしの魔力消耗を気にして下さっているのでしょうけれど──)



けれど、ザリウ様ご自身も連戦と魔導具鎧の負荷により、そう長くは保たないはずです。



(何か、突破口になる知識を……)



思考を巡らせて、ふと思い出したのは以前鑑定した例の「竜舎利(ドラグリブ)ゴーレム」。あれは内部の魔術結晶を破壊することで動きを止めました。


しかし、竜牙兵ドラゴントゥースウォリアーであるこの敵には、通常そのようなコアは存在しないはず……。



(──そもそも、使役する術者の存在が感じられません。ならば命令や魔力は、どこから?)



ならば、それらを司る中枢──つまり(コア)が存在してもおかしくはありません。


合体・変形・戦闘・自己修復をすべて自律してこなすのであれば──古代魔法文明において、魔術結晶による制御が最も合理的です。


「ザリウ様、(コア)があるはずです。ゴーレムのような──」


「ゴーレムの(コア)……おう、あれか。仕留めたことあるぜ、了解だ!」


そう言って、ザリウ様は防御と回避へと動きを切り替え、敵の動きを観察し始めました。


「これってあれか、自律甲冑(アーマーゴーレム)ってやつと同じ構造か?」



自律甲冑(アーマーゴーレム)、久しぶりに聞きましたね……)



わたくしが初めて出会った怪物(モンスター)です。


それは置いておき──魔術結晶ならば、魔力視で探知できるはずです。わたくしは懐から魔力視眼鏡(グラムサイトグラス)を取り出し、敵を観察しました。



(見えますね……青白く輝く、ふたつの魔力の塊──)



「ザリウ様、左右の胸部です! 肺のあたりに、それぞれひとつずつ──」


「そりゃまた厄介だな……狙いづらい上に、一番固い部位じゃねえか」


「弱点ですから、当然ですね」


「でもまあ、中身が狙いならやることは一つだ」



ザリウ様は前に構えていた魔剣を肩に担ぎ、前傾姿勢を取ります。



「えっと、それは──」


「行くぜ、相棒?」


ザリウ様の動きが変わりました。守勢から一転、攻撃に転じます。敵のふた振りの大剣をギリギリでいなしつつ、反撃。さらには蹴りで体勢を崩し、畳み掛けるように連撃を加えていきます。


そして、敵が両腕の大剣を同時に振り下ろした瞬間──ザリウ様はそれらを足場に跳躍し、魔剣を真っ直ぐ頭部めがけて振り下ろしました。



『──斬岩砕鋼(ざんがんさいこう)!』



竜角兵ドラゴンホーンウォリアーの身体が、頭から股下まで一直線に断ち割られました。



(ああっ!?)



あまりの豪快な一撃と、見たこともない破壊力に息を飲みます──が、敵の身体が再び、青白く輝き始めました。


「まさか、あの状態から自己修復!?」


やはり、(コア)を残している限り再生してしまうようです。


「させねえよ──!」


ザリウ様はすかさず、裂けた胴体に両腕をねじ込み、内部の輝く結晶をひとつずつ掴み出します。


「ザリウ様、まだ再生が止まりません!」


「しつけえな、これでどう……だ!」


ザリウ様は、両手で握りしめた魔術結晶同士を思い切り叩きつけて砕きました。次の瞬間、竜角兵ドラゴンホーンウォリアーはガラガラと崩れ落ち、ただの瓦礫と化します。



「ヒュゥ……さすがに終わったか。助かったぜ、なあ──相棒?」


ザリウ様は(コア)を掴み出す時に手放した断頭石大剣エグゼキューションソードを拾い上げようとしました──が。


「うわっ、痛ぇっ!?」


魔剣はザリウ様の手を振り払い、頭を軽く小突いたあと、わたくしの元へ戻ると霧のように消えてしまいました。


「……なんだよ、まったく。なかなか荒っぽい魔剣だな、レティ?」


「す、すみません……ザリウ様の実力は認めたのでしょうけれど、『相棒』という呼称だけは否定したかったのかと──」


「なるほどな……ワハハハ!」



ザリウ様は、腰に手を当てて大きく笑いながら立っておられました。まるで、あの激戦の疲労など存在しなかったかのように──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
断頭石大剣がツンデレっぽい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ