第二〇四話「危機」
──二体が融合変異した四腕の竜角兵に向かって、ザリウ様と断頭石大剣が左右から仕掛けますが──四本の腕がそれぞれ別の大剣を操り、同時に対応してきます。
「くぅ、やるじゃねぇかコイツ!」
"金剛鎧装"を纏い、人型蜥蜴らを圧倒してきたザリウ様の攻撃すら受け流し、反撃までしてきます。
断頭石大剣にも一歩も引かず、攻撃を弾いて接近を許しません。一進一退の攻防ですが、次第に劣勢になり始めます。
(わたくし、もう、魔力が──)
魔剣四〇人の盗賊の中でも最強とされる断頭石大剣は、わたくしの魔力と集中力を容赦なく削っていきます。
(術者ではないわたくしの魔力では──)
動きの鈍った所に一撃を受け、魔剣は弾き飛ばされました。
「うあ! ううっ……」
目眩と疲労に襲われ、壁に手をついて身体を支えます。
ザリウ様は一瞬の隙を突いて双剣の竜角兵に拳を命中させ、体勢を崩します。
「──行くぜ、金剛連拳!」
ザリウ様は大きく踏み込んで懐に飛び込み、目にも留まらぬ速さで拳の連打を放ちました。金属が打ち合う音が響き、竜角兵はよろめきます。
「──まだ終わらんぜ?」
追い打ちを掛けようと更に間合いを詰めたザリウ様に向かって大剣の刺突が放たれました。
「がぁっ──?!」
ザリウ様は後方に弾け飛び床を二、三度バウンドし、膝をついて着地します。
「ザリウ様!!」
あちらは生物ではないため、体勢が崩れていても強引に攻撃を繰り出してきました。
「──あっ」
貧血のようなふらつきに見舞われます。いよいよ魔力が心許なくなってきた様です。魔剣の召喚は維持出来ていますが、床に落ちたまま動かす事が出来ません。
(召喚を解除して、もう少し消耗の少ない魔剣にすべきでしょうか?)
しかし、それでは余分に消耗するかもしれません──。
わたくしが迷っている間にザリウ様は立ち上がりましたが、今度は竜角兵がザリウ様に追撃を掛けます。
二本の大剣の連撃にザリウ様は回避で手一杯です。しかも疲労が蓄積しているのでしょうか……躱しきれず、大剣が鎧を掠めて火花を散らします。
そして、大剣二本による同時の斬撃を紙一重で回避したところに蹴りを受けてザリウ様は大きく弾け飛びました。
「ああっ?!」
(わたくし、何も出来ないのでしょうか?!)
すると、ザリウ様が飛ばされた場所には断頭石大剣が落ちていました。ザリウ様はそれを掴みます──が、魔剣は抗う様に暴れました。
「おいおい、ちょっと聞け! 別にお前を従えようなんざ思ってねぇよ」
ザリウ様は暴れる魔剣を両手で掴みながら話し掛けます。
「今はやべぇ場面だろう? 取り敢えず力貸してくれや」
ザリウ様の説得にもかかわらず、魔剣は暴れます。
もしかして、わたくしが語りかければ或いは──首領の剣を額に当てて祈る様に語りかけました。
(あの……断頭石大剣さん、でしたよね?)
(主、こいつフザけた事抜かしてやがる……)
魔剣の声が頭に響きます──他の魔剣よりも意思が強いからでしょうか、はっきりと聞こえます。
(あの、力を貸しては貰えませんか?)
(あ? いくら主の言葉でも「はいそうですか」って聞けねえ事もあんだよ)
(何故……ですか?)
(戦士の矜持だなんだ口先だけの野郎は苛々するんだよ──)
わたくしは兼ねてより思っていた事を言います。
(あなたもザリウ様も何処か似ていますよね? 折れない筋が通った所とか──)
(はぁ?! おい、主でも言って良いことと悪い事があるぜ?)
苛々した感情が伝わってきます。
(では、わたくしを斬りますか?)
(んなことするわけねえだろ……あんたには俺達を解放してくれた恩義があるからな──)
ふと、魔剣との絆を再認識します。そして、今なすべきことも。
(四〇人の盗賊が主、レティ・ロズヘッジの名に於いて命じる。断頭石大剣マルドゥよ我に従え)
わたくしは、敢えて命令口調で毅然とした態度を取りました。
(──承知した)
魔剣の声に笑みの様ものを含んでいた気がしました。
──ハッと我に返ると、ザリウ様が魔剣を担いでいました。今のやり取りは現実ではほんの数秒程度だったようです。
「急に大人しくなりやがったぜ……ひょっとして、レティが何とかしてくれたのか?」
「はい、一応魔剣の所有者ですので……」
「そいつは助かる……よし、行くかい魔剣さんよ?」
「ちなみに──その剣は、まだザリウ様を認めておりません。実力で認めさせてあげてください」
「ぶはっ?! そいつはいい……いいな。よし、やるか!」




