第二〇三話「竜角兵」
停止直前の転移装置から現れたのは──二メートルをゆうに超える、金と銀の鎧を纏った二体の巨大な骸骨騎士でした。手にはそれぞれ巨大な両手剣を握り、異様な前傾姿勢と鎧の隙間からは、歪んだ骨格が覗いています。
「竜牙兵……いえ、上位種の竜爪兵、あるいは更に上位の竜角兵かもしれません……」
古代魔法帝国の遺産であるなら、竜舎利を用いた"竜牙兵"の運用は当然あったでしょう。現在でも実力ある魔術師たちが護衛に使うほど、一定の技術体系として残されています。
竜牙兵用の竜舎利──歯の素材は、冒険者の間でも流通が多く、薔薇の垣根のような魔道具店でも扱われています。
しかし、竜爪兵以上の上位種となると話は別です。用いる魔術には高い熟練を要し、触媒となる爪や角の竜舎利も希少です。というのも、この系統の魔術では使用した素材が灰となって崩れる、すなわち使い捨てだからです。
歯ならまだしも、爪や角といった大型素材は、むしろ武具や魔道具への加工に回されるため、あえて消耗品に用いるのは非常に稀なのです。理にかなっている話ですね。
(……以前わたくし達を襲った竜爪兵とは形状が明らかに異なります。便宜上、ここでは竜角兵と分類しておきましょう)
こんな状況でも知識欲が顔を覗かせる自分に自己嫌悪を覚えつつ、けれど、それもまた自分の性分かと受け入れ始めている自分もおりました。
(混乱に飲まれるより、冷静に考える方が──役に立ちますから)
わたくしは制御室を出て、ザリウ様のもとへと戻ります。
二体の竜角兵に対し、ザリウ様と断頭石大剣は互角以上に立ち回り、まず一体を撃破。残る一体も二対一で仕留めました。
「結構骨のある奴だったぜ……あ、いや、その、洒落じゃねぇからな?」
ザリウ様が照れたように言われたので、わたくしはあえて何も言いませんでした。
『……まだだ』
頭の中に、不意に声が響きました。断頭石大剣の切先が、倒したはずの竜角兵の残骸へと向かいます。
「え……まだとは?」
思わず呟くと、ザリウ様も表情を険しくします。
「あ……」
残骸が淡く輝き、ふわりと宙に浮きました。やがて渦を巻くように回転し始め、光が激しく明滅します。
「レティ、隠れてろ!」
ザリウ様は腕で目を庇いながら叫び、わたくしを光の直線上から遠ざけようとします。断頭石大剣も、護るようにその前に立ち塞がりました。
やがて輝きが収まると、そこに立っていたのは──三メートルを超える、異形の竜角兵。
四本の腕を持つ、さながら骸骨の騎士です。四本の腕に両手剣二刀を携えていました。金と銀の鎧が入り混じり、元の二体の要素を色濃く残していますが──姿はもはや別物です。
「おい……こいつ、二体が合体でもしたのか?」
ザリウ様が言いますが、ただの融合というには変化が大きすぎます。まるで、全く別の存在に再構成されたかのような異形──。
そういえば以前、魔力を注がれた謎の調度品が変形し、竜舎利ゴーレムと化したことがありました。
竜舎利──古代の竜の遺骨にして、魔力によって形状を変える神秘の素材。その真価は未だに解き明かされていません。
(……古代魔法帝国の産物。まだまだ、わたくしの知らないものばかりです)
魔法によって親指ほどの竜の牙が竜牙兵になるのですから、これくらいの変異は想定内かもしれません。
「レティ、装置は止めたのか?」
「はい。ただ、最後にあの竜角兵が転移された直後に、停止しました」
「なるほど……ってことは、あの“合体鎧”で最後ってわけか。よし、行くぜ!」
ザリウ様と断頭石大剣が、異形の融合体へと飛びかかっていきました。
※竜舎利ゴーレム──第九七話参照。




