第二〇〇話「転移装置を目指して」
「あの、ザリウ様。提案があるのですけれども……」
わたくしはパーティーをふた手に分け、少数で転移装置を目指す組と、ここで魔獣を足止めと討伐をする組に分ける提案をしました。
「なるほど、このままじゃ消耗戦だからな。恐らく烈なる朱色もそれでヤバくなったのかもしれんし、速やかに元を断てば問題は解決だな」
「転移装置の周囲にもどれだけの──どんな魔獣が居るかは分かりませんが、装置を止められれば何とかなるかと思います」
「よし、じゃあ俺とレティ殿でここを突破して転移装置を探す。残ったメンバーで魔獣達を頼むわ」
ザリウ様の言葉にウェルダさんは驚きます。
「ザリウ様、私もご一緒します。レティさんを護るのが私の役目ですので──」
「あぁ、うん……それも分かるんだがな。ここを最短で突破出来るのは俺が単身で行くのが一番早い。そして、転移装置の仕掛けを扱えるのはレティ殿だけだ」
ザリウ様はパーティーのメンバーを見渡します。
「俺とレティ殿、さらにウェルダ殿まで抜けたらカリティの攻撃魔法やハシュリィの防御魔法だけでは手薄だ。クファーミンだけじゃ護れないだろうから前衛は残したい。それには神官戦士のウェルダ殿が適任だ」
「それは……そうですね」
「ウェルダ殿がレティ殿の護衛だという事は重々承知しているが、ここはこのパーティーのリーダーとしてお願いしたい」
ザリウ様は頭を下げられます。わたくしもウェルダさんも辺境伯が頭を下げられることに驚きました。
「辺境伯様、お止めください!」
ウェルダさんは困惑して懸命に訴えます。
「俺も、ウェルダ殿に嫁を三人護って貰わないといかんのでね、頼りにさせてくれないか?」
ウェルダさんはザリウ様に言われて顔を上げて振り返ると、クファーミンさん達側室の方々と目が合います。皆さん笑顔で頷いていました。
「ザリウ様、承知いたしました。身命を賭して必ず──」
ウェルダさんは直立して右拳を胸に当てる騎士礼を取りました。
「ウェルダ殿、感謝する。俺もレティ殿を護ると誓おう」
ザリウ様は胸の前で左手のひらで右拳を握る貴族の略式礼で返しました。
そして、このあとの作戦は──扉を開くと同時にウェルダさんと側室の方々は魔獣たちを引き付け、その間わたくしとザリウ様は魔獣たちとの交戦は最小限に、通路の奥へと進み転移装置を探し出して止める……というものです。
『……大いなる護り……疾き靴……疾風……身体向上……魔法抵抗強化……命の泉』
ハシュリィさんが沢山の支援魔法を唱え、身体にはその力を感じます。わたくしも首領の剣を構えていつでも魔剣を呼び出せるように心づもりしました。
「よし、レティ殿扉を開けてくれ」
ザリウ様に促されてわたくしは壁の文字盤を操作して扉を開きます。ゆっくりと開く扉の隙間からカリティさんの攻撃魔法、稲妻が疾走り、目前のインプや甲冑蜥蜴は焼け焦げて粘液になり、溶けてゆきます。
クファーミンさんは稲妻に巻き込まれなかったインプに対して矢を連続で射かけて処理してゆきました。
「よし、行くぜ!」
ザリウ様は掛け声とともに走り始めました。わたくしも“風の靴”の効果を発動させます。
疾き靴の効果と合わさり走るよりも速いのですが、ザリウ様はそれよりも速く走っています。何らかの魔道具を装備されているのかもしれません。
わたくしもザリウ様も、走るというよりも飛び跳ねる様に広い回廊を駆け抜けて奥へと進みます──。
ザリウ様はわたくしの前をステップするように走りながら蛇腹剣で進路に現れるインプ達を処理するように倒して行きます。
「甲冑蜥蜴は無視だ、奥へ進むぞ」
運が良いのか、ミノタウロスや見つめる魔眼等に遭遇する事無く、わたくしとザリウ様は広い回廊の向こうに見える通路の終わりを目指して進みます。
しかし、その前に立ちはだかる様に魔獣が居ました。
「甲冑蜥蜴? いや、ちょっと違うか」
それは甲冑蜥蜴の頭部辺りからまるで人の様に腕がある上半身の様なものを持つ魔獣……以前に地下迷宮で戦った人型蜥蜴です。
「ザリウ様、お気をつけ下さい。かなり厄介な相手でしたので……」
「厄介か、了解だ」
人型蜥蜴はわたくし達に気付いたらしく、こちらへと向かってきます。




