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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第一部 追放令嬢編

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第二〇話「ウォディ―高地を越えて」

――わたくし達は追っ手に見つからないように人目に付きやすい街道を避け、アンさんの道案内で険しい山脈へと向かいます。


「この先のウォディー高地という所は町や村さえ無い、険しい山が連なっている山脈さ。だから街道はそれを迂回しているわけね。確かに無茶苦茶険しいルートだけど……景色がすっっごく綺麗なんだよ!」


アンさんは景色のくだりで目をキラキラと輝かせていました。それを横目にディロンさんが「やれやれ」といった様子で肩をすぼめています。他の皆さんも心なしか苦笑いされています。


「アンさんは景色がお好きなのですか?」


わたくしがそうお尋ねするとアンさんは口笛を「ひゅぅ」と吹いてから人差し指を一本立てて左右に揺らしながら舌を「チッチッチッ……」と鳴らしながら首を横に振りました。


「好き……じゃなくて、大好きなのよね!」


子供のような満面の笑みを浮かべるアンさんに他の皆さんは少々呆れた様子です。



(この温度差は何なのでしょう……)



どうやらウォディ―高地に行かれた事があるのはディロンさんだけのご様子で、ディロンさんに詳細を尋ねています。


「この季節なら雪は降らないと思うが、それなりの寒さは覚悟した方がいい。マーシウ殿、徒歩移動の予定では無かったから保存食はあまり持ち合わせていないがどうする?」


「そうだな、高地に着くまでに狩りや採取で食料を確保しようか」



――わたくし達は三日ほど森の中を歩きながら食べられる木の実やキノコを採ったり、小動物を狩って肉を塩漬けにしたりしながらウォディー高地まで辿り着きました。細い登りの山道を歩いていくと、木々が徐々に少なくなりやがて木と言えば茂みくらいの高さばかりになり、両側が岩肌の崖が続く曲がりくねった道になりました。日も傾きつつあります


「坂道きついし、崖ばっかりの殺風景な場所だねー」


ファナさんは口を尖らせて退屈そうにされています。わたくしは以前よりは流石に歩けるようになりましたが、まだまだ皆さんのようにはいきません。そろそろ疲れが溜まってきました。


「まあまあ、もうちょっとだからさ。この先にお楽しみがあるんだよね……」


「お楽しみ……ですか?」


「この坂を上りきった所だよ!」


アンさんは子供の様な笑顔でニコニコされています。わたくし達は言われるがままその坂を上りました。そして坂の頂上で両側の崖が切れていて景色が一気に広がりました……。


「こ……これは……」


景色を見た瞬間、わたくしは言葉を失いました。坂を上った先にあったのは、切り立った崖と峡谷を挟んで向こう側も同じ様な規模の崖になっていて、ところどころが崩れて巨大な遺跡と思われる人工の壁や柱が露出していました。そしてその遺跡の一角から滝の様に水が大量に崖下へ流れ落ちていました。その滝には夕日に照らされて虹がかかっています。


「すっごーい!!」


「これは……こんな綺麗な場所があるなんて……」


「凄いな……これは絶景だ……」


ファナさん、シオリさん、マーシウさんそれぞれ目を見張って驚いています。わたくしはあまりに凄い景色に言葉を失っていました。


「どう? ここ、何年も前に見つけたんだよね。でもしょっちゅう来れる所じゃないから是非みんなに見せたくてね」


「言葉にならないくらい凄い、絶景ですね……こんな場所があるなんて……」


アンさんは皆さんの顔をみて満足そうにしていました。


「まあ、ここが見つかるまでアンに付き合わされてこのウォディ―高地を一〇日程彷徨ったんだが……」


ディロンさんだけは無表情でした……。アンさんは絶景巡りが趣味で色んな場所を探して周っているそうです。そしてそれを他の人に見せるのが何より好きだと仰っていました。しかし大体の絶景は行くのが大変な場所にあるそうです。



(それで皆さん最初は微妙な表情をされてたのですね……)



――わたくし達は陽が落ちてきたので絶景の近くに崖がくぼんで浅い洞穴のようになった場所で野営することにしました。今日がウォディ―高地での初めての野営だったのですが……。



(さ、寒いです……昼間はそうでも無かったんですが、陽が落ちると急に寒くなってきました……)



ご晩飯はここに来るまでに採取したキノコと炙り肉の塩漬けを煮込んだ物でとても温まったのですが、時間が経つとやはり寒くなってきました。わたくしはファナさんと一緒に毛布にくるまって焚火の前で震えています。


「はいこれ、毛布の中で抱いていると温かいから」


シオリさんが沸かした湯を入れた水袋を手渡してくれました。



(ああ……これは凄く温かくて気持ちいいです)



そうして湯入りの水袋を抱いて毛布にくるまっているといつの間にか眠っていたようでした。目が醒めると外がうっすらと明るくなっています。



(疲れていてぐっすり眠ってしまったようです……もうすぐ夜明けでしょうか?)



わたくしは一緒に毛布にくるまっていたファナさんを起こさないようにそっと毛布を抜け出して洞穴の外に出ました。



(寒いですね、夜よりも空気が肌を刺すように冷たい……)



外にはすでにアンさんが起きていて、カタナを軽く振りながら身体を動かしていました。


「レティ早いね、眠れた?」


「はい、シオリさんに頂いた湯の入った水袋が温かくてよく眠れました……アンさんは?」


「あたしもちゃんと眠れたよ。ちょっと前にマーシウと見張りを替わったんだ」


そんな話をしていると、崖の間の峡谷の向こうから朝日が昇ってきました。夕日も綺麗でしたが、朝日を浴びた渓谷や遺跡や滝はまた色合いが違ってとても美しいです。アンさんと2人で朝日を暫く眺めてから朝食の準備をして皆さんを起こしました。



――ウォディ―高地に入って二日目は延々と崖づたいの細く曲がりくねった道を歩きます。所々崖が崩れた個所から遺跡のような人工の建築物が露出しています。半日ほど歩いていると、アンさんが急に立ち止まって人差し指を唇に当てる「静かに」というジェスチャーをしました。そしてアンさんは耳に掌を当てて聞き耳をたてています。


「鳥の声がしない……」


アンさんはそう言うと鼻をスンスン鳴らして臭いを嗅いでいます。


「何か匂う……嫌な気配だなあ、みんな急ごうか」


アンさんとマーシウさんはアイコンタクトをしています。マーシウさんが小声でみんなに「急ぐぞ」と仰いました。パーティーは歩く速度を上げます。わたくしも早歩きをしますがちょっとキツイです。


道が大きく曲がっている所を先に進むと、先頭を行くアンさんが腕を横にして「止まれ」のジェスチャーをしました。


「こりぁなんかいるね……前に来た時はこんなんじゃなかった」


アンさんは周囲を見渡していますのでわたくしも真似をしてあちこち見ていますと……崖などの所々に大きな何かで引っ掻いたような跡が見受けられました。


「何だありゃぁ……」


マーシウさんは怪訝な表情でそれらを見つめています。すると遠くの方から獣の咆哮のようなものが聞こえました。


「伏せて!」


アンさんの掛け声でわたくしも皆さんと同様にその場にしゃがみました。しゃがみながら辺りを見回していると、再び獣の咆哮のようなものが聞こえますがさっきより音が段々と大きくなってきました。それに「バサッバサッ」という翼のはばたきのような音も聞こえてきました。



(これは……なにかが飛んでくる?)



そしてわたくし達の頭上を大きな影が通過しました。それは首と尾が長く、鱗で覆われて、手の替わりに大きな皮の翼をもつ怪物(モンスター)……。



飛竜(ワイバーン)!?」


アンさんがそう呟きました。


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