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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第九部 帝国西方編

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第一九三話「急報」

――城砦裏口に戻ったわたくし達を出迎えたのはクファーミンさんの侍女達とザリウ辺境伯、それと第三、第四夫人のお二人でした。


「クフィ、いい獲物を獲ってきたじゃねえか」


ザリウ様は馬に括りつけられた恐狼(ダイアーウルフ)の毛皮をひと撫でします。


「リーガリウにこいつの毛皮で色々作ってあげて、従兄(にい)様」


リーガリウはザリウ様とナーラネイア姉様の二人目の子供で男児、つまり辺境伯の長男です。


「まだ乳飲み子だが、じきに帽子や襟巻が要るからな。有難く使わせて貰うぜ」


ザリウ様は近付いて来たクファーミンさんの頭を撫で、自然な流れで抱き寄せて口づけをしました。わたくしはその様子を何気なく見ていたのですが、ハッとして目を逸しました。



(ご夫婦なのですから当然ですよね……)



思えば、わたくしの両親は家族の前ではこういうスキンシップはしていなかった事を思い出しました。帝都の貴族社会では(はした)ないというイメージが一般的でしたし。


ふと第三夫人ハシュリィさん、第四夫人カリティさんのお二人に目を遣りましたが、特に気にしておられる様子も無く、ごく自然な事なのだと認識しました。



(色々な価値観や道徳観があるのですよね……)



師の言っていた「世間を広く見て回れ」という言葉を思い出します。


「この恐狼(ダイアーウルフ)はレティさんの力添えもあって狩れたから、二人の獲物なの。ね、レティさん?」


クファーミンさんはわたくしにウィンクをしてニッコリと微笑みました。


「え、あ、はい。まあ、少し手助けはさせて頂きましたが……」


「凄いのよ、魔剣を四つも呼び出して恐狼(ダイアーウルフ)の動きを封じてくれたから、アタシが急所に矢を一撃で仕留められたんだから!」


「ほう、魔剣を……俺も見たかったぜ」


ザリウ様は目を輝かせてわたくしを見つめます。


「ま、またの機会に……」


「んじゃ、その機会ってやつを作ろうかねえ?」


ザリウ様はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、わたくしは苦笑いするのみでした。



そういうやりとりをしていると家臣がザリウ様に近寄り、何か小さな紙きれを渡しました。それに目を通したザリウ様は困り顔でため息をつきます。


従兄(にい)様、何かあったの?」


ザリウ様は紙切れをクファーミンさんに渡します。すると、第三夫人ハシュリィさん、第四夫人カリティさんのお二人も一緒に小さな紙切れに注目していました。


「うそ、烈なる朱色インテンスバーミリオンが?!」


カリティさんは驚きの声を上げました。


どうやら、件の地下迷宮(ダンジョン)に派遣していた冒険者ギルドのパーティーが遭難しているみたいでした。


「その方々は精鋭なのですか?」


「はい、この領を拠点とする冒険者の中では一番ですね」


わたくしの問にハシュリィさんが答えてくれました。



(これは……どうなるのでしょうか?)


「まあ、これを送れるってことはまだ生きてるって事だが……さて」


「あの、直接この手紙を送って来られたのですか?」


「あいつら、取っておきの魔道具の伝書精霊の切手(テレメントチケット)を使ったってことは結構差し迫ってるみたいだな」


伝書精霊の切手(テレメントチケット)とは、紙束の綴りになっている魔法の札で、一枚ずつが伝書精霊(テレメント)に変化します。


本来は伝書精霊(テレメント)ギルドに敷設された魔法陣同士での行き来しか出来ないのですが、この魔道具は送る事のみ可能なのです。しかし、札は一枚につき一回しか使えませんし、現在製造法は失われていますのでとても貴重なものです。


「どうなさいますか?」


家臣に問われたザリウ様は不敵な笑みを浮かべました。


「生半可な冒険者を送り込んでも二重三重遭難になるかもしれん、ここは俺が出る」


ザリウ様はご自分でも地下迷宮(ダンジョン)探索されると仰られていましたが、まさか本当に出られるとは思いませんでした。


「お一人で、ですか?!」


「まさか、いくらなんでもそりゃ無謀ってもんだ、なあ?」


ザリウ様はハシュリィさんとカリティさんに目配せをしていました。お二人は嬉しそうにしています。


「レティ殿、これを読んで見てくれ」


ザリウ様は先程の紙切れを差し出されました。丁重に受取り読むと、地下迷宮(ダンジョン)内部に魔獣が湧き出る魔法陣を見つけ、そこから出てくる沢山の魔獣のせいで動けないと言う事でした。


「恐らく転移装置(テレポーター)かもしれませんね……」


わたくしはこれまでに対処した転移装置(テレポーター)の事を説明しました。


「じゃあ、レティ殿ならその装置をなんとか出来そうなんだな?」


「現物を見ていないので確約は出来ませんが、これまで対応したものと同種であればなんとかなるかもしれません」


わたくしの返答にザリウ様は「よし」と頷きました。


「レティ殿、すまねえがその装置を止めに行くの、付き合ってくれねえか?」


わたくしは皇帝陛下より転移装置(テレポーター)の探索と調査を任じられています。


(これは義務の様なものですね)


なにより、古代遺跡に赴く事はわたくしにとって代えがたい人生の目的のひとつです。


「わたくしがお役に立てるなら喜んでお引き受け致します」


「すまない、助かる。よし、段取りを始めるぞ」


辺境伯は家臣たちに指示を飛ばし始めました。

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