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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第九部 帝国西方編

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第一八六話「歓迎会」

――ザリウ辺境伯の指示で椅子は部屋の端に寄せられ、テーブルが組み替えられて立食形式になりました。そこに大きな皿に盛られた料理がどんどん運ばれてきます。



「準備してたのなら最初からこうすれば良かったのにザリウ従兄(にい)様」


黒髪の側室、第二夫人のクファーミン様が少し呆れた様に肩をすくめました。聞いた話ではザリウ様とは従兄妹(いとこ)同士だそうです。


「旦那様なりの妹へのお気遣い、感謝致します」


ナーラ姉様はザリウ様に向けて礼をしました。


「あ、いや……うむ。嫁ぎ先が無作法で野蛮な所だとナーラに恥をかかせると思ってな……」


ザリウ様は照れた様に頬を赤らめて目を逸らしました。わたくしはふと四〇人の盗賊フォーティーバンディッツのたちの事を思い出して笑みが溢れます。



(どことなく似てますね……)



「ん、やはり可笑しいかな義妹殿?」


「わたくしも冒険者を営んでおりますので。こういった砕けた場は慣れております。重ね重ねお気遣い有難く存じます」


わたくしは頭を下げます。


「それと、私事で恐縮ですけれども……公的にはナーラネイア様の妹ネレスティは既に他界し、わたくしはレティ・ロズヘッジという別の人物にという事になっておりますので――」


「おお、そうだったな。だが、事実として君が義妹である事には変わりないから俺の中では区別出来んが……ではレティ殿と呼ばせて貰おうか?」


ザリウ様は腕組みして考えるような素振りで仰いました。


「はい、お気遣い感謝致します、ザリウ様」


わたくしは改めてお辞儀をします。ザリウ様はニヤリと笑みを浮かべながら盃に注がれたお酒に口を付けて満足そうにしておられました。




――そして、食事をしながら今回の依頼についてのお話になります。


「我がジャシュメル家は元々は西方からの侵略を水際で食い止める役目をしていたが、長い歴史の中で西方とも和睦し、その役目も主では無くなった……だが」


帝国北部にある広大な辺境の一部とも隣接している事から、古代遺跡やその地下迷宮(ダンジョン)があり、魔獣などが跋扈する土地柄です。戦争の為だった戦力がそちらに対応する為に使われる様になったとの事でした。


「帝国中央から遠いのもあってな、悪さをする冒険者紛いの奴らも多いんだ。だから、冒険者ギルドをジャシュメル家がとり纏めてるのさ」


「辺境伯様ご自身がですか?」


「ああ、俺もたまに地下迷宮(ダンジョン)に出向いたりするな」


ザリウ様はその辺をお散歩される位の口調で仰いました。領主様ご自身が冒険者の様な事をなさるのは初耳で驚きます。


「魔獣が湧き出る古代装置とかあってな、そういうの潰して回ってるんだ」



(やはり、転移装置(テレポーター)から魔獣が出てくるものがこちらにもあるのですね……)



「今回レティ殿を招いたのは俺が懇意にしてる冒険者達が持ち帰ったものの鑑定なんだが……それとは別に、以前ナーラとレティニアや家臣達の命を救ってくれた礼を言う為でもある。遅くなり大変失礼した」


ザリウ様は改まって真剣な表情で頭を下げられました。


「あ、いえ、はい。偶然でしたが大事が無くて良かったです。わたくし一人では無く冒険者の仲間達もおりましたので……」


「そうか、では冒険者ギルド宛に何か贈らせて貰おう」


「実は当ギルドのマスターよりの書状を家臣の方にお預けしていますので後でご確認下さい」



――ザリウ様とのお話が一段落すると、今度は家臣の皆さんが入れ代わり立ち代わりわたくしにご挨拶下さって中々大変でした。ウェルダさんが補助してくれたので何とか混乱を招かずに済みましたけれど……。


お酒はナーラ姉様を通じてザリウ様にお話していたので、ザリウ様がわたくしにお酒は飲まさない様に釘を刺して下さったおかげで、皆さん西方特産の果実水等をお持ち下さいました。


「こんなにもいろいろな飲み物があるなんて、感動しました」


「まあこの領は西方の食い物や香辛料とかが多く入って来るしな。果物なんざぁ、すぐ痛んじまうから帝都までは出回らんから珍しいかもしれんな」


お皿に盛られた見た事の無い果物を幾つか頂きました。星型の果実や頭より大きな果実など様々な果実はどれも新鮮な驚きでした。


「あとはこいつかな」


ザリウ様が陶器のカップに入った黒い飲み物を差し出します。その飲み物からは湯気と共に独特の香ばしい匂いが沸きたっていました。


「あの……これは?」


「西方から来た茶の一種でコーヒーというものだ。詳しくは知らんが、豆を煎って粉にしたものから煮出した汁を飲むんだ」


「コーヒー……話には聞いた事がありましたが、これがそうなのですね。確かにいい香りがします」


わたくしは少し口をつけてみましたが、苦さに思わず「う……」と声が出てしまいました。それをザリウ様はお笑いになりました。


「うはは、苦いだろ? 砂糖と山羊の乳をたっぷり入れると美味いぜ?」


そう言うとザリウ様はメイドに命じて陶器の壺に目一杯入った砂糖とポットに注がれた山羊の乳を運んで来させました。そして自分のカップのコーヒーへザクザクと砂糖を入れて乳で割ります。


「貴重な砂糖を……沢山お入れになるのですね?」


「西方大陸から沢山入って来るからここじゃそんなに高くないんだよ。まあ砂糖を帝国中に流すことでこの領じゃ結構儲けさせて貰ってるからな」


ザリウ様はコーヒーの香りを楽しみつつ一口飲むと満足気な表情をされます。


「最近は酒よりこっちにハマっていてな、コーヒーも豆の種類によって味わいが違うから色々試しているんだ」


ザリウ様の言葉に家臣の方々が「お館様はガキの頃から酒飲んでたからそっちは飽きたんじゃないですか?」と冗談とも本当とも取れる事を言って大笑いされていました。

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