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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第九部 帝国西方編

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第一八三話「最西端の街」

――帝都より、先方が用意して下さった船と馬車を乗り継ぎ、ひと月足らず。ジャシュメル辺境伯領の首都ミドゥルに到着しました。港には帝国の船や西方大陸からの船、そして様々な人々で賑わっています。



「これがジャシュメル……凄いですね」


わたくしは異国と帝国の混じり合った雰囲気に圧倒されていました。帝国の主要な貿易都市には大体訪れたことはありますが、このミドゥルはそのいずれとも違う独特の空気があります。


「そうね、私も初めて来たんだけど。西の果てというからもっと寂れていると思ったわ……帝都やファ=シーンと同じかそれ以上の賑わいね」


ファ=シーンは書物大祭(ビブリオフェスタ)も行われている商都で帝国第二の都市ですが、それを凌駕するほどとは思いませんでした。


「ファ=シーンは東方大陸との貿易拠点だけど、ここは西方大陸との貿易拠点みたいね」


ウェルダさんが注釈を入れてくれました。わたくし達が周囲を見回していると名前を呼ばれたので振り返ります。


「レティ・ロズヘッジ様ですね、またお目にかかれて光栄です」


帝国騎士服を着た女性でした。はっきりとは思い出せませんが、確にお会いした記憶はあります。


「申し訳ありません、何処でお会いしましたでしょうか……」


わたくしは正直に申し上げました。


「以前は名乗らず失礼致しました。私はナーラネイア辺境伯夫人の警護を勤めております騎士ミリスエイナ・ルビモントと申します」


そう言われて思い出しました。数年前に秘薬を求めて辺境へ向かう途中、ナーラ姉様が黒妖犬(ブラックドッグ)に襲われている場面に偶然遭遇した際に、姉様の護衛をしていた方です。


「あ、はい、そうでした。こちらこそ忘れてしまって申し訳ありません……」


ミリスエイナさんと挨拶を交わしていると、ウェルダさんはミリスエイナさんを見つめていました。視線に気づいたミリスエイナさんはウェルダさんと目が合うと顔色を変えて跪こうとしたのをウェルダさんが止めます。


「ウェルディアナ様お久しゅうございます、息災であられましたか?」


「いや、あの……ちょっといいかしら?」


ウェルダさんはミリスエイナさんを連れて少し離れ、何やら話をしてから戻ってきました。


「それではロズヘッジ様、ウェウェル様、迎えの馬車にご案内致します」


わたくし達はミリスエイナさんと馬車に乗りました。


「あの、先程は……」


「彼女は帝国騎士学校の後輩なの。あの頃とは私は立場が変わってるから、軽く説明させて貰ったわ」


「なるほど……」


昔のウェルダさんを知る人がこんな所にもいるのは驚きです。


「はい。帝国公認魔道具鑑定士付護衛のウェルダ・ウェウェル様と承りました」


表情を崩さず自然な態度、流石は護衛騎士としての教育を受けておられるからでしょう。身分や立場への理解が早いです。



「ふと、思ったのですけど。ウェルダさんとお知り合いの女性騎士が多いなと……やはり顔が広いという事ですか?」


するとウェルダさんもミリスエイナさんも苦笑しました。


「女性で護衛騎士となる場合は大体が騎士学校出身者なのよ。身分や素行は明らかだし、何より道が限られているしね」


ウェルダさんは肩を竦めて言います。


「女性に門が開かれたのもこの二〇年足らずですから、現役の女性騎士は大体顔見知りが多いですね」


ミリスエイナさんは微笑んでそう言いました。



(そういう事情があったのですね……)



──そしてわたくし達は辺境伯のお住まいである、ミドゥルの中心部にある城砦へと入りました。ミリスエイナさんの案内で来賓室に通されて暫く待っていると、扉がノックとともに開きました。


「レティ、久しぶりね!」


扉が開くと、貴婦人がわたくしに駆け寄って手を握り、抱き締めました。長姉のナーラネイア姉様です。


「は、はい……お久しぶりですナーラネイア姉様」


姉様の勢いに少し気圧されてしまいました。


「あ、ごめんなさいね。私ったらはしゃいでしまって……」


「姉様、お元気そうでなによりです」


そう答えると姉様は抱擁を解いてわたくしを見つめます。


「レティも、公認魔道具鑑定士だったかしら? 凄いわね、皇帝陛下にお会いしたそうじゃない? 私も晩餐会で辺境伯との婚姻をご報告差し上げた時に一度お目通りしただけよ」


「は、はい。とても光栄です……」



(割とよく呼び出されていると聞いたらどう思うでしょうか……)



「レティそちらはお連れの方?」


「はい、お初にお目にかかります。ロズヘッジ公認鑑定士の護衛をしています、騎士ウェルダ・ウェウェルと申します」


「ウェルダ……ウェウェルさん?」


ナーラ姉様はウェルダさんを見つめています。


「どうされました?」


「いえ、何処かでお会いした様な気がしていて……」


姉様は口元に手を当てて考え込む仕草をしました。


「以前は護衛騎士として貴族の御婦人や御令嬢の護衛をしていましたので、何処かでお目に掛かっているかもしれません」


ウェルダさんは涼やかな笑みで答えました。


「そうですか、だとすると人の縁というものは面白いですね」


「まこと、左様にございます」


ウェルダさんは頭を下げ礼をします。


「それじゃあレティ、お夕食の時に詳しい話をしましょうまた後でね」


ナーラ姉様は退出されました。


「ウェルダさん、ナーラ姉様と面識が?」


「いえ、記憶に無いのだけど……私も騎士学校に入る前は何度か叔父上に頼まれて舞踏会や晩餐会に出たことがあるから、その時に見掛けたのかもね」


ウェルダさんは軽いため息をつきました。


「ナーラ姉様、人の顔を覚えるのがとても上手なんです」


「貴族夫人としては中々役立つ能力ね。流石、辺境伯に見初められただけあるわ……あ、失礼ねごめんなさい」


「いえ、実際に社交会ではそのお陰で上手く立ち回れてるとナーラ姉様も仰ってました」


「なるほどね……」


ウェルダさんも元は侯爵令嬢なので、かつての社交界との繋がりにはわたくしも気を付けなければならないと肝に命じました。

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