第一七一話「転移装置の調査」
転移装置から出現した人型蜥蜴を打ち倒したわたくしとウェルダさんは装置の調査を続けます。一通り調査したところ、もうこれ以上転送されてくるものは無く特に問題は無さそうに思えました。
(台座も金属板に浮かぶ古代文字も今まで見た転移装置とほぼ同じですね……状態も悪くないです)
次の段階は、この転移装置が利用できるか、という実験です。
(以前の様に騒ぎにするわけには行きませんよね……)
以前――わたくしの名前が刺繍された古いハンカチを送った所、私の身に何かあったのではと心配をおかけしてしまいましたので同じ轍は踏まない様にしなければなりません。
何か手近に無いか周囲を見渡すと、手のひら大の大きさに剥がれた板状に壁の破片がありました。持っていた蝋石でロズヘッジのサインと「イェンキャスト地方から帝都へ転移実験」という事を書き、円形に並ぶ石柱に囲まれた床の紋様の中心に破片を置きます。
(これが無事帝都の装置に転移出来れば……)
転移装置が利用できるようになればイェンキャストと帝都を行き来するのは、この遺跡からイェンキャストの街への一日くらいになります。
「ウェルダさん、転移装置を操作しますので念のため下がっていてい下さい」
ウェルダさんが部屋の隅に移動するのを確認し、台座を操作してテレポーターを起動させます。操作を試行錯誤していると、ファナさんとハサラさんも転移装置の部屋にやって来ました。
「ファナさん、大丈夫ですか?」
「うん、ごめんね……まさか蝙蝠熱に罹るなんて思わなくて」
ファナさんの顔色はかなり血色も良くなっています。
「って……レティ、何してんの?」
ファナさんは興味津々にわたくしのもとへ近づいてきました、ハサラさんもそれに付いてきます。
「これから帝都へ転移装置を使って物を送る実験をします」
わたくしが部屋の中央の床に置いた壁の破片を指さすと、ファナさんとハサラさんは怪訝な表情で顔を見合わせていました。
「レティ、本当に送れるの?!」
ファナさんはわたくしの肩に手を添えて肩越しに台座を見つめています。
「今までわたくし達は何度か転移装置で移動しましたよね? 今回はその行先を能動的に指定して実際に届くかという実験です」
「えー! じゃあ、ここから帝都までひとっ飛びできる?」
「理屈ではそのはずですが……先ずは物で試そうかというわけです」
ファナさんは「おー」と呟きながら興奮気味に目を輝かせています。わたくしは台座を操作して装置を起動させます。石柱と床の紋様が青白く淡く発光します。そして転移装置特有の低い笛の様な「ふおおお」という音が辺りに響き始めました。
「え、何?」
「うわ……」
ウェルダさんとハサラさんは驚いて辺りを見回しています。
「大丈夫だよ、転移装置が動くときはいっつもこんな感じだからね!」
ファナさんは腰に両手を添えて胸を張り、ニヤリと微笑みました。
「レティ、そうなの?」
「はい、通常の動作です」
「ならいいけれど……」
ウェルダさんは少し不安げな表情で転移装置を見回しています。
「つーじょーの? 動作だから大丈夫だって!」
「なんでファナが自慢げに言ってるんだよ……ちゃんと理解してるの?」
笑顔のファナさんに苦笑いするハサラさんを横目に、わたくしは装置に向かって辺境語で『指定した所に転移を』と指示しました。すると台座に据え付けられた金属板に光る文字で「転移」「始める」という言葉が浮かび上がり、その隣に数字が表示されて数がどんどん減っていきます。
そして徐々に石柱や床の発光が強まり、同時に笛の様な低い音も大きくなってゆきます。
「ちょっと、レティ?」
ウェルダさんが焦ったように問いかけます。
「もうすぐ転移します――5、4、3、2、1……」
わたくしが金属板の数字を読み上げていると、石柱の内側に青白い光の渦が巻き起こり眩しさで思わず目を閉じました。光が最も眩しくなり目を瞑った直後、大きく響いていた音も聞こえなくなりました。
「あ、無くなってる?!」
ハサラさんは紋様の中央、破片を置いていた辺りを指さします。
「――とりあえずこちらから送ることは出来たようです」
わたくしはホッと胸を撫で下ろしました――。
(あとは帝都に着いているかですね……)




