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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第八部 転移装置探索編

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第一六七話「蝙蝠熱病」

――梯子を降りた先は一本道の通路です。小柄なわたくし一人が直立して頭が付くかどうかの狭い通路でした。照明石ランタンで照らすと数メートル先に扉が見えます。


扉はわたくしの腕力でも簡単に開きました。中はニメートル四方程度の小部屋で、奥の壁には一メートル四方程の金属板が据え付けられていて、その前に台座があります。


前もって蒐集(コレクション)していた魔術結晶を幾つか旅人の鞄から取り出して台座の窪みに置いてみます。しかし、どれも反応はありません。



(あ、そうです。うっかりしていました……)



わたくしはかつて辺境の浮き島の遺跡で託された青い立方体の魔術結晶の事を思い出し、それを台座の窪みに置きました。すると、台座から楽器を鳴らしたような音が聞こえます。


「やはりこれは古代遺跡の鍵の様な役割もするのですね……」


思わず口をついてポツリと呟いていると、魔術結晶の中に刻印された術式の紋様が淡く光り始めます。そして金属板には「指示、待つ」という光る古代文字が浮かび上がりました。わたくしは辺境語で問いかけてみます。



『装置の動力を入れて貰えますか?』



わたくしの問いかけに、金属板の文字が変化してよく知らない文字列になりましたが――所々「補う」「動かす」「力」などが読み取れます。


暫く金属板を眺めていると光る文字は「再び動く」「始める」などの文字に変わって行きました。やがて天井や壁の一部が光り、金属板に表示された遺跡内部と思われる図形に色がついて照らされて行きます。


「これは……遺跡が蘇ったのでしょうか?!」


驚いて見入っていると、入って来た方からわたくしを呼ぶ声がしましたので取り敢えず皆さんのもとへ戻ります。梯子を昇り、制御室へと戻ると部屋は照明の仕掛けに照らされていました。


「レティ、上手く行ったようね」


「はい、取り敢えずは……」


ハサラさんは照明のついた部屋をもの珍しそうにキョロキョロと見渡しています。ファナさんはまだ眠っている様でした。


わたくしはここ、制御室の台座の前に立ちます。埋め込まれた金属板には『建物、調べている』という光る古代文字と、下の装置で見たものと同じ遺跡内部の地図の様なものが示されていました。時が経つごとに図形は緑と赤に塗り分けられて行きます。


その図形の移り変わりに注視していると、背後から聞こえる皆さんの会話に違和感を感じました。


「ファナ、そろそろ起きなよ……ファナ?」


「え……何、凄い熱?!」


ハサラさんとウェルダさんが慌てているのでわたくしも何事かと振り返りました。


「――どうかしました?」


「ファナが起きないと思ったら苦しそうで……凄く身体が熱いのよ」


ファナさんが眉間にしわを寄せて呻いています。ウェルダさんはファナさんのローブのフードを捲って額や首筋に触れてそう言いました。



「取り敢えず治癒魔術を……」


ハサラさんはファナさんの手に触れて癒し(ヒール)休息(レスト)を唱えます。するとファナさんの表情は少し和らぎ、目を覚ましました。


「ファナ、具合悪かったの?」


ファナさんはウェルダさんに支えられながら少し身体を起こします。


「ううん、なんか妙に疲れるなと思って寝てたんだけど――そしたら体中痛くなってきて……」


ファナさんは咽るように咳き込むのでハサラさんは水袋を差し出しました。それを口にしたファナさんは表情が歪みます。


「喉が痛い……水飲むのが……辛いよ」


ファナさんは喉を手で抑えて辛そうな表情をしていました。


癒し(ヒール)もあまり効果が無いみたいね……毒か何か?」


「毒って言っても心当たりが……あ」


ファナさんが言うには大蝙蝠(ジャイアントバット)に引掻かれた事を思い出した様です。



「でも、手当て(キュアウーンズ)で傷治して貰ったけど……」


「ひょっとして蝙蝠熱病(バットフィーバー)……かも?」


ファナさんの言葉にハサラさんが思い出したように答えました。



蝙蝠熱病(バットフィーバー)……なにそれ?」


ファナさんは怪訝な表情でハサラさんに訊ねると――蝙蝠が病気の元を媒介する事が多いのでそう呼ばれているそうです。蝙蝠だけでなく鼠が媒介する事もある熱病で、鼠熱病(ラットフィーバー)とも呼ばれていると、ハサラさんは説明してくれました。


「通常なら発症までに数日かかるんですけど、大蝙蝠(ジャイアントバット)大鼠(ジャイアントラット)怪物(モンスター)ですので、持っている病気もより強くて発症も早いと聞きました」


「病気は、治癒魔法では一時的な症状の緩和しか出来ないわ。病気のもとが身体の中に入っているから、治癒魔法を使って症状を緩和しつつ本人の体力で病気のもとに打ち克って貰うしか……」



とは言いましても、ここは地下迷宮(ダンジョン)――古代遺跡です。こんな所で病人を療養させられません。



(近くの村まで戻るのが最善ですけど――ファナさんを背負ってここをどうやって脱出しましょう?)



まだ大蝙蝠(ジャイアントバット)も生息している可能性は高いです。ウェルダさんは厳しい表情をして考え込んでいます。すると、ハラサさんは鞄の中をゴソゴソと何かを探っていました。


「確か、蝙蝠熱病(バットフィーバー)に効く薬草は持っていたはずです……」


ハラサさんは古い本を片手に鞄から小袋を取り出し中身を確認しています。取り出したそれらは乾燥した植物やキノコの様に見えます。


「よし、材料はあるのでここでポーションを作ります」


「……ここで?」


ハサラさんの言葉にわたくしもウェルダさんも顔を見合わせました――。


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