第一六五話「大蝙蝠の襲撃」
「く、こんな所で……」
ウェルダさんは飛来する大蝙蝠と対峙し、盾で身を庇いながら戦棍を振りますがヒラリヒラリと躱されてしまたした。
「当たらない?!」
大蝙蝠はウェルダさんの攻撃を避けながら飛び回ります。
「魔法で……っあ?!」
攻撃魔法を使おうとしたファナさんに大蝙蝠が変則的な動きで襲い掛かりました。
ファナさんは咄嗟に魔法の詠唱を止め、地面に転がって躱しました。大蝙蝠はファナさんを掠めて通り過ぎ、バサバサと旋回しました。
「お願いします!」
わたくしは咄嗟に四〇人の盗賊の本体である首領の剣を、ファナさんを狙っている大蝙蝠に向かって投げました。同時に首領の剣と対になっている右手中指の”首領の指輪”に左手を添え魔力を注ぎます。
放物線を描いていた首領の剣は急に方向を変えて大蝙蝠を追う様に飛びました。その隙にファナさんはわたくしの方へと退避してきます。
「レティありがとう!」
「いえ、大丈夫ですか?」
「ちょっと引っ掻かれたくらいだから大丈夫だよ」
ファナさんの手の甲に赤い筋がありました。爪か何かが掠ったミミズ腫れの様な跡でしたが、出血もありません。大蝙蝠の方を見ると、首領の剣の追尾をバサバサと躱しています。
(手数を増やしましょう……)
『……牢よ開け、出よ四〇人の盗賊』
わたくしが指輪に触れながら言葉を発すると、宙に直径三〇センチ程の光る紋様が五つ程浮かび上がり、そこからそれぞれ形状の異なる短剣が出現しました。
「お願いします!」
わたくしが大蝙蝠を指差すと五つの短剣はそれぞれ異なる軌道を描いて襲いかかりました。入れ替わる様に首領の剣はわたくしの手元に戻って来たので右手で掴みます。
大蝙蝠はそれでもバサバサと皮翼を巧みに羽ばたかせて短剣たちの追撃を躱しています。不味いことにもう一匹の大蝙蝠と戦っているウェルダさんの元にどんどんと近づいています。
「ウェルダさん!」
「もう、鬱陶しいわ……ね!」
ウェルダさんが半ば破れかぶれの様に粉砕の戦棍を振ると同時に「バン」という破裂音と衝撃波が発せられました。
すると、大蝙蝠二匹は弾かれる様に床に落ちて藻掻き始めました。
「はぁっ!」
ウェルダさんは間髪入れず、のたうち回る大蝙蝠の頭部に粉砕の戦棍を打ち下ろしました。
『敵を穿て!』
わたくしはもう一匹の大蝙蝠を首領の剣で指し示すと、宙を舞うに五本の短剣が取り囲み串刺しにし、地面へと落としました。
「――ふう、皆大丈夫?」
ウェルダさんは大きく溜め息をつくと、パーティーメンバーの無事を確認します。わたくしも含め、幸い怪我らしい怪我もありませんでした。
「あ、ファナ怪我してるじゃないか、ちゃんと報告してよ」
「こんなの掠り傷じゃん、大丈夫だよ」
先程ファナさんが大蝙蝠に襲われた時に付いた引っ掻き傷にハサラさんが気付いた様です。
「掠り傷でも化膿したりするんだから、ちゃんと治療しなきゃ――」
ハサラさんがファナさんの手の甲の傷に手当ての魔法をかけると、引っ掻き傷の赤い筋は綺麗に消えました。
「少しでも魔力温存した方がいいのに……でも、ありがと」
そんなやり取りをしている間にウェルダさんは周囲を警戒していましたが、取り敢えず他の大蝙蝠の襲撃は無さそうです。
「でも、まさか粉砕の戦棍の力が大蝙蝠に有効なんて思わなかったわ」
粉砕の戦棍に込められた見えざる力の魔法がヒラヒラと飛ぶ大蝙蝠に効果的というのは予想外でした。
「大蝙蝠はまだ居そうね、警戒して進みましょう」
――そして、わたくし達は制御装置と記された方向へと向かいます。
遺跡の通路は網目状の構造をしていますが、所々が崩落し通路を塞いでいますのでその都度迂回しながら歩きます。知らずに足を踏み入れれば迷うでしょうけれど、各所の壁に浮き彫りされた古代文字の表示に従って進みました。
途中で大蝙蝠に何度か襲われましたが、ウェルダさんの粉砕の戦棍とわたくしの四〇人の盗賊で難なく対処できました。
やがて、大きな扉の前に辿り着きました。扉の横には銘板があり「制御室」と古代文字で刻まれていました――。




