第一六四話「地下遺跡への降下」
――わたくし達はファナさんの魔法、落下軽減を使って遺跡付近にあった縦穴を降りました。魔道具の"照明石ランタン"で周囲を照らしながら下降します。
下っていくと徐々に陽光が弱くなっていきますので、照明石ランタンに灯かりの魔法で灯を入れます。
「やはり、地中に構造物がありますね……この材質は古代遺跡でしょう」
縦穴は途中から土や岩だけではなく、明らかに人工のものも埋まっているように見えました。
「下に着くよ」
わたくしは埋まっている人工物気を取られていましたが、ファナさんが着地のタイミングを教えてくれたので躓かずに降りられました。降り立った場所の周囲は直径数メートル程の空洞で、足元は石造りの床です。
何もない袋小路の様な空間と思いましたが、床と思っていたものには五〇センチ四方程度の崩れた穴があり、中を灯かりで照らすと部屋か通路の様な構造物が見えます。
「これは……今わたくしたちが立っているのは元々は遺跡の屋根か天井部分の上のようですね。長い年月で土に埋まったみたいですが」
わたくしは崩れた穴の中を照明石ランタンで照らしながら観察しました。
「こっちも崩れていますよ。下は通路か部屋に見えますけど――降りられそうです」
ハサラさんは灯かりの魔法で光らせた魔法発動体の指輪で照らしながらこちらに手招きをしていたので見に行くと、瓦礫が崩れて穴が開き、人ひとりずつ降りられるくらいの急な傾斜になっていました。
「ここから降りられそうですね……」
ハサラさんが下を指さしたので目を凝らすと、下は通路の様に見えます。
「やはり、遺跡の様ですけど――どうしましょう?」
ここからでは内部の様子は殆どわかりませんが、危険がある事は容易に予想できます。
「地下迷宮なんですね……」
ハサラさんは生唾を飲み、表情には緊張が窺えます。
「ハサラ、ビビってんの?」
ファナさんは茶化すようにニヤリと悪戯な笑みを浮かべます。
「な……いや、うん。地下迷宮は初めてだからね、緊張もするよ」
ハサラさんはファナさんの言葉を真剣な表情で返します。ファナさんはその顔を見て少しバツが悪そうにすると、咳払いをしました。
「ま、未知の地下迷宮に挑むのが私達冒険者だかんね、みんなで一緒に行こうよ」
ファナさんは明るく笑顔で言いました。
(そうですね……未踏の遺跡に挑むのが冒険者ですよね)
「皆さん、慎重に参りましょう――」
わたくしの言葉に、ファナさんは満足げに頷きます。皆さんも迷いの無い表情で頷いてくれました。ハサラさんは心なしか緊張よりも意を決した表情に変わっている気がします。
わたくし達はいよいよ探索を開始しました。
(遺跡の照明の仕掛けは……壊れているのでしょうか、真っ暗ですね)
古代魔法帝国由来の遺跡である地下迷宮には、詳しい原理は分かりませんが内部を照らす照明の仕掛けが設置されている事が多いのですが、ここにはそれが無いのか、もしくは機能していない様です。
(千年も前のものなので当然といえば当然ですが……)
わたくし達は崩れた瓦礫を足場にして遺跡内部へと降りてみると、そこはやはり通路の様でした。幅は三メートル程、天井の高さは五メートルは有りそうです。
殆ど陽光も届かないのでかなりの暗さです。
「やはり、遺跡の機能が止まっている――なんとか照明の仕掛けだけでも動かせないでしょうか?」
わたくしは何か手掛かりが無いか周囲の壁等を照明石ランタンで照らしながら調べていました。すると、苔むした壁に浮き彫りの様なものを見つけ、苔を剥がして露出させます。
(矢印と――昇、降、機……制、御、部屋……)
「レティ、何かあった?」
ウェルダさんが背後からわたくしに声を掛けます。
「あ、はい。案内表示らしきものを……」
わたくしは見つけた浮き彫りを皆さんに教えます。
「恐らく、あちらが昇降機で、こちらに制御の部屋と書かれています」
わたくしが通路を指さしながら説明すると、ハサラさんが目を丸くしていました。
「レティさん、本当に読めるんですね……確か、秘薬づくりの時も古代文字で書かれていた古文書も読んでましたっけ――」
ハサラさんは顎に手を当てながら思い出すように呟いています。
「そうだよ、レティは古代文字読めるんだから!」
驚くハサラさんに対してファナさんは腰に両手をあてて胸を張ります。
「だから、なんでファナが威張ってるんだよ?」
すかさずハサラさんが呆れたように言いました。
「別に威張って無いし〜 ねえ?」
とぼけた表情で口笛を吹くファナさんを、ハサラさんは呆れた表情で見ていました。
「どうする? 取り敢えず昇降機を目指す?」
ウェルダさんはわたくしに話しかけつつ周囲への警戒を怠らない様子です。
「この様子だと、この遺跡自体が停止している様なので制御装置を探す方が先かと思います。もう制御装置も壊れてしまって機能しないかもしれませんけれど――」
その時何か「バサ、バサ、バサ――」という羽音の様なものが聞こえました。
「皆、警戒して――」
ウェルダさんは武器と盾を構えて臨戦態勢を取ります。すると、通路の奥から宙を舞う何かがが現れました。
「大蝙蝠?!」
翼を広げると一メートル以上はありそうな大きな蝙蝠がニ匹ほど襲い掛かってきます。




