第一五九話「久々のギルド本部」
第八部「転移装置探索編」が始まります。
時系列として
第一四七話 → 第一五〇・一五一話 → 一五二話 → 今話 となります。単純に一四七話(第六部)からの続きと考えて貰ってもよいです。
――オークションが終了してから三か月程が過ぎました。
イェンキャスト方面の怪物の頻発が落ち着いたらしいので久しぶりにギルド本部へ戻る事にしました、その目的は――。
「久しいなレティ、息災で何よりだよ」
「長い間ギルドを離れていて申し訳ございませんでした」
わたくしはギルドマスター、ドヴァンさんの部屋に訪れ挨拶をしています。
わたくしが籍を置く冒険者ギルド、おさんぽ日和の本部である酒場、"小さな友の家"に戻ったのは約一年振り……くらいでしょうか?
「帝都で公認鑑定士として色々活躍しているようじゃな、儂も鼻が高い」
笑顔で顎鬚を撫でながら頷くドヴァンさん。こうやって手放しで褒められるのは少し気恥ずかしいです。
「久々の里帰り……というのはおかしいかな? 君にとっては帝都が故郷なわけだからのう」
「いえ、もうイェンキャストは第二の故郷ですので――」
(むしろ、今の様に帝都で再び暮らすことになる方が予想していませんでした……)
「それで、この辺りの遺跡の探索がしたいということじゃったな――魔道具か何かを探しているのかね?」
わたくしが今回イェンキャストに戻ったのは、この地域にも恐らく存在する転移装置の探索と起動です。もしそれが叶えば、帝都とイェンキャストの行き来に運河船でひと月弱程度かかる日数が一瞬になります。
(まあ、帝都側の転移装置は皇宮内ですからおいそれとは使用できませんが……)
「なるほどのう、一大国家事業が始まるわけじゃな。それは大仕事じゃな」
ドヴァンさんは深く頷いて感心している様です。
「そうなのですが、まだまだ霧の中を手探りで歩くといった所で――わたくしが存命の内に達成出来るかも分かりませんけれども。取り敢えずは一歩としてイェンキャストと帝都を結べればな、と」
ドヴァンさんは何度も「うんうん」と頷いておられました。
「今、丁度ギルドメンバー達は他ギルドのヘルプで出払っていてな、一昨日に伝書精霊でもうすぐ戻ると連絡があったから、じきに戻って来るじゃろう。レティの調査に同行したくてうずうずしていたからな」
探索に出掛けているのはウェルダさんとファナさんのようです。
マーシウさんは周辺地域ギルド連合の会合で近くの街へ出掛けていて明日には戻るそうで、シオリさんはイェンキャストに滞在中。アンさんとディロンさん、サンジュウローさんはまた別のギルドの応援に行っているとのことです。
「マーシウさんが会合に? マスターは行かれなかったのですか?」
「うむ、そろそろマーシウにギルド運営を任そうと思ってな、徐々に引継ぎをしていっているのだ」
(マーシウさんに運営を……それは?)
わたくしが考え込んでいると、マスターは言葉を続けます。
「あとな、メイダが身籠ったので秘書や受付事務をシオリに手伝って貰っているんじゃよ」
「メイダさんが? みごも――えっと、ご懐妊ですか?!」
突然のお話しにわたくしは声を上げてしまいました。さっき受付を通った時メイダさんと挨拶しましたが、全く気づきませんでしたので余計に。
「まあ色々あったんじゃが、身籠ったのが分かったのでそういうことになった。レティにも知らせようと思っていたが――こっちに戻ってくる事が分かったから、その時でと思っていたんじゃ」
(えっと、待ってください――ご懐妊、子供がお腹に?)
「あの……お相手は?」
「え? あ、ああそうか……レティには気付くタイミングが無かったか。マーシウじゃよ」
マーシウさんとメイダさんの間に子供が、という情報を唐突に聞かされて頭が混乱しています。
「え……っと、全く気づきませんでした。あ、あの……お二人が旧知の間柄というのは伺っていましたが……そういうご関係だったのですか?」
わたくしは本当に男女の関係というものには疎い事について、自分で自分が情けなくなります。
「詳しくは当人に聞くがよかろう」
ドヴァンさんは肩を竦めて微笑んでいます。
(わたくしが居ない間に親密になられたのでしょうか……)
「では、マーシウさんに運営を任せるというのは――」
「うむ。あれも父親になるからな、なるべくイェンキャストから離れずに済むほうがいいだろうと思ってのう……メイダも、となると事務方が居らんから儂一人では大変なんじゃよ」
マスターは苦笑いされます。
「それでシオリさんにも補佐を?」
「うむ。ハイトとウゥマの所も子供が生まれて大変そうじゃし。レティも帝都となれば――現場の冒険者が減っているからギルドの収入も落ちていてな、ああ、この前新しいメンバーを加えたんじゃ。戻ってきたら紹介しよう」
新しいメンバーは治癒魔術師との事ですのでお会いできるのが楽しみです。
「レティ、ここはもう良いから薔薇の垣根へ行くがよかろう。ガヒネア殿に顔を見せてあげなさい」
「はい、勿論そのつもりです」
――わたくしはギルド本部の小さな友の家を後にし、久々に古書魔道具店薔薇の垣根へと向かいました。
 




