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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第七部 鑑定令嬢の日常編その二

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第一五八話「ファナと薬師の弟子4」

引き続きファナ視点です。

――ハサラを伴ってイェンキャストに戻った私達。他のみんなはギルド本部へ報告しに行った。


私はハサラに頼まれてガヒネア婆ちゃんの店、魔道具店・薔薇の垣根(ロズヘッジ)に案内する。ハサラと二人で店に入ると、流石の私もいつもみたいに婆ちゃんにウザ絡みせず大人しくしておく。


ハサラはガヒネア婆ちゃんに名乗ると手紙を鞄から差し出した。


「師匠から預かった手紙です」


「そう、スヴォウが逝ったのかい……」


ガヒネア婆ちゃんは、そうポツリと呟くと封を開ける。懐かしむ様な淋しそうな……なんとも言えない表情で手紙を読んでた。


「ハサラと言ったか、わざわざありがとうよ」


婆ちゃんはハサラに微笑みかける。初対面の人に微笑むなんて見たこと無かったから驚いた。緊張した表情のハサラも婆ちゃんの笑みでホッと一息ついていた。

 

「僕は師を超える薬師を目指していて、スヴォウ師匠の世間を見ろと言う教えに従って旅をしています」


ハサラはスヴォウさんに「薬師が作るポーションは、治癒魔術師(ヒーラー)だけでは治療できない病を治したり、治癒魔術師(ヒーラー)が不在でもポーションがあれば助けられる事もある」と教えられたみたい。



(確かに治癒魔術師(ヒーラー)ってどこにでもいるわけじゃないしね)



「そうかい……世間を見るのは大事だよ。自分の了見を拡げるにはね」


ガヒネア婆ちゃんは穏やかな表情でハサラに話し掛けていた。まるでレティを見るみたいに。


「取り敢えず、ガヒネアさんに手紙を渡すという当面の目的を今果たしてしまったのでこれからどうしようか考えないといけないんですが――」



(ハサラには取り敢えずの目的が無いんだ……)



私はそれを聞いて咄嗟に口を開いていた。


「じゃあウチのギルドに入りなよ!」


私の言葉にハサラは目を丸くして驚く。


「え?! それって……僕に冒険者になれということ?」


「スヴォウさんも昔は冒険者だったんでしょ? 色んなものを見るには冒険者が一番早いよ、ねえ婆ちゃん?」 


私がガヒネア婆ちゃんの方を見ると、苦笑いしながら肩をすくめた。


「そうさね……アタシもスヴォウもかつては冒険者だったよ。出会った頃アタシは半人前の魔術師(メイジ)でスヴォウは駆け出し治癒魔術師(ヒーラー)だったけどね」


ガヒネア婆ちゃん曰く、後衛が引退したベテランの冒険者パーティーに誘われて、そこで出会ったみたい。


「ビシビシ叩き上げられた。色んな遺跡、地下迷宮(ダンジョン)に潜ったり、魔獣退治も護衛もした――やがてベテラン達も一人、また一人引退していってね、一〇年程経った頃にはアタシとスヴォウでパーティーを率いてたよ」


ガヒネア婆ちゃんは淡々と語る。


「なんやかんやあって、辺境にある地下迷宮(ダンジョン)に行く事になってね。アタシらはそこで辺境の洗礼を受けたさ。六人居たパーティーで生きて帰って来れたのは三人、アタシとスヴォウともう一人だけだったよ……」


婆ちゃんは眉間に皺を寄せる。


「アタシやスヴォウよりも若い奴らが死んじまった――そいつらは別に未熟だった訳じゃない、ただ運の天秤がたまたま傾いちまっただけだ」


少し黙ってから深い溜息を吐く。


「冒険者ってやつは死と背中合わせ――まあ分かってるだろうから止めやしないけどね。油断せず慎重に用心深くやりな。アンタの師匠、スヴォウはそういう冒険者だったからね」


「はい、ありがとうございますガヒネアさん」


「じゃあ、婆ちゃんはどんな冒険者だったの?」


私は気になって聞いてみた。


「さて……どうだったろうね」


婆ちゃんはニヤリと笑ってごまかした、相変わらず自分の事は話してくれない。



(でも、今回結構話してくれたよね――)



以前レティが、婆ちゃんは昔の事話してくれないって言ってたから――レティも知らない事だったらちょっと気まずい様な気もした。




――で、私たちは薔薇の垣根(ロズヘッジ)を出てギルド本部の酒場(パブ)小さな友の家(プチフレンズ)へ向かう。ハサラをギルドマスターのドヴァン爺ちゃんに会わせるためだ。


ドヴァン爺ちゃんの部屋にハサラを連れて行くと、そこには爺ちゃんとマーシウが居た。いつも爺ちゃんの座っている部屋の中央の席に座ってる。


「あれ、マーシウなんで……あ、そうか」


マーシウは次のギルドマスターになる為に勉強中だった。


「久し振りだな、ハサラ。ようこそ、おさんぽ日和(サニーストローラーズ)へ」


「お久しぶりです、マーシウさん。えっと、そちらがマスタードヴァンですか?」


ドヴァン爺ちゃんはマーシウが座ってるテーブルの脇にある椅子に座っていた。


「うむ。その節はマーシウ達やレティが世話になり感謝する。確かにまだ儂がマスターではあるのだが現在はこのマーシウに引き継ぎをしている所でな、面接はマーシウに任せる事にした」


爺ちゃんは微笑みながら口髭を撫でる仕草をしてた。マーシウは爺ちゃんを一瞥してからハサラに向き直る。


「面接と言っても、君の人となりはあの時ひと月程スヴォウさんの所でお世話になって分ってるつもりだよ。だから、喜んで君を歓迎したい」


ハサラは私の顔を見て「ぱあ」っと笑顔になった。私も一緒に笑う。


「実務的な事を言うと、君も知っている治癒魔術師(ヒーラー)のシオリがギルドの裏方仕事をする事になってね、現場に出向く治癒魔術師(ヒーラー)が新たに加わってくれてこちらとしても有り難いんだ」


「こちらこそ、お世話になります……」


ハサラは笑顔で頭を下げて一礼した。


「ま、私が面倒みてあげるから任せといてよ!」


私が「えっへん」と胸を拳で軽く叩くと、ハサラが「フフ」と鼻で笑った。


「なによ、文句あんの?」


「いえいえ、ファナ先輩宜しくお願いします」


ハサラは恭しく礼をしたけど、なんか逆に子ども扱いされてるみたいに感じた。でも、こうやって同い年でふざけ合える仲間が出来て嬉しなと思った。


(私とハサラも、歳を取ったらガヒネア婆ちゃんとスヴォウさんみたいな感じになるのかな?)



そんな事を漠然と考えながら、ハサラの歓迎会をどうしようかという事に思考が移っていった――。



第七部「鑑定令嬢の日常編その二」 終

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