第一五五話「ファナと薬師の弟子1」
――私はファナ・モンティ。このイェンキャストを拠点とする冒険者ギルド、おさんぽ日和に所属する天才魔術師……まあ自称だけど。
一一歳の時に育て親のセレス婆ちゃんが死んで、遺言に従ってドヴァン爺ちゃんを頼りにして冒険者になった。そんな私ももう一八歳。今思えば、子供だった私を一人前に扱ってパーティーを組んでくれたマーシウやシオりんにはとっても感謝してる。
最初の頃は攻撃魔法数発で魔力切れして気を失ってた私だけど――流石にもう、そう言う事も無くなっていた。背も伸びて今では多分一六〇センチくらいはあると思う。
――で、今私は依頼でイェンキャストから徒歩で3日くらいの距離にある村に来てる。ここ最近問題になってる怪物頻発事件の一環で、村が動く樹木に襲われるので助けて欲しい、という依頼だった。
(治まったと思ってたのに、まだ沸いてくるのか……)
まあ、頻度は少ないけど動く樹木が発生することは稀にあるから仕方ないっちゃあそうだけど。取り敢えず、周囲の状況調査も兼ねて村周辺の見廻りをする。遊撃兵のアン姐と精霊術師のディロンが居るから森の中の行動はかなり楽だ。
「ファナも魔法探知頼むわよ? 動く樹木やあの系統の怪物は精霊術師のディロンでも探知しづらいから、貴女の方が良くわかるでしょ?」
今回はウェルダがリーダーとしてパーティーのまとめ役をやってくれてる。
もうすぐお父さんになるマーシウは、ドヴァン爺ちゃんから次のギルドマスターに指名されてその仕事で冒険には出ずに街に残ってギルドの運営ってやつをしないといけないみたい。だから最近は替わりにウェルダと組んでるんだ。
シオりんも妊娠中のメイダの替わりで事務とか受付とか任されてるから、神官戦士のウェルダに前衛兼治癒魔術師をやって貰ってるし、私も頑張らないとね。
「了解、ウェルダは目視でお願いね」
「ファナ、最近は変な仇名で呼ばないのね」
ウェルダの事以前は「ウェルる」って呼んでた。ていうか気分で親しくなりたい人に仇名つけてたけど……いい加減そういうのもマズいかなあと思って止めるようにしてる。
「何、呼ばれたかった?」
「フフフ……まあ、貴女もちょっと成長したなって思っただけよ」
知り合って数年経って、こんな事言い合える仲だからもう十分親しい仲間だよね。
――まあ、そんな事は置いといて。動く樹木とか動く岩石みたいな怪物は、自然界にある魔力の偏った蓄積で生まれるから、魔力探知で探すのが一番効率がいいんだけど……。
(効率的にやんないと魔力を無駄に消耗するからねえ)
最近私も結構魔力は増えて簡単には気絶しなくなったけど――でも限界はあるし。
「じゃあちょっとやるね……魔法探知」
長杖に意識を集中してから周囲に解き放つ。すると、森の中で魔力が異常に集まってる所がある事に気づいた。
(――しかも動いてる?!)
いきなり見つけちゃったかもしれない。皆にその事を伝えると武器を構えながら私の示した方へと向かう。
『……障壁!』
私達の向かう方から呪文を唱える声がする。
「誰か襲われてる!?」
アン姐は木々を縫うように凄い速さで先行した。
「動く岩石だ!」
アン姐の声が響く。駆けつけると、アン姐は動く岩石を弓矢で牽制しながら。距離を保ってる。
「こいつぁ厄介だね、矢なんか効いて無いだろうし……ディロン、支援魔法!」
「承知……」
ディロンが武器強化と鎧強化の精霊魔術を唱える。
「アン、一旦下がって!」
ウェルダも個人用の強化魔法を唱えながら盾と戦棍を構えて襲われていた人を盾で庇った。
この動く岩石は人型をしていて、人間の大男――二メートルくらいの大きさだ。動きはゴーレムっぽくて遅いのはいいけど、身体は岩だから武器に支援魔法を受けてるとはいっても厳しいかも。
(これ岩でしょ? なんの魔法が効くんだろ――)
「貴方は下がって!」
「はい、ありがとうございます!」
フードを目深に被った、多分魔術師。でも障壁の魔法を使ってたので治癒魔術系統の防御魔法が使えるみたいだから。治癒魔術師かもしれない。
(なんか声が聞き覚えあるのよね……)
ここは無難に光の矢をぶつけてみよう。私は長杖で動く岩石を指し示した。
『……光の矢ぉ!』
私は取り敢えず光の矢を動く岩石に向けて放った。構えた長杖の先端辺りの空中に青白い拳大の光の球が現れて、それを光弾として放つ。
光弾は動く岩石の胴にあたる部分に命中して「バン」という破裂音と閃光を発して弾けて消え、その衝撃でよろめいて立ち止まった。
「効いてる、行けそうだね!」
でも、次の瞬間に動く岩石は腕みたいな部分を振り回して人の頭くらいの大きさの石をこちらに向けて投げ飛ばしてきた。
(やば……)
大きな石が私に当たる軌道で飛んでくる事に気づいた。でも咄嗟の事で反応出来なかったけれど、誰かに体当たりで突き飛ばされた。
『障壁!』
それは助けた魔術師だった。私に体当たりして押し退けながら障壁の魔法を発動させて石を弾き飛ばした。その時被っていたフードが外れて顔が見えた――私と同年代の男の子、そして懐かしい顔だった。
「えっ……と、ハサラ?」
――数年前、レティと秘薬を探す旅をした時に秘薬を作ってくれたスヴォウって薬師の弟子だったハサラだ。あの時は子供だったけど、背も伸びて青年になっていた。
(私と同い年だから、まあそれはそっか……)
「え、ファナ?!」
私とハサラはお互いに存在に気が付いたけど、感動の再会を動く岩石が許してくれなかった――。
ハサラ(第八五話「薬師スヴォウ」参照)




