表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第七部 鑑定令嬢の日常編その二

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

153/214

第一五三話「レティの居ないギルドにて(前編)」

――レティが帝国公認魔道具鑑定士に就任し、拠点を帝都に移してから一年が経とうとしていた。私はシオリ・レンシャク、冒険者ギルド"おさんぽ日和(サニーストローラーズ)"に所属する治癒魔術師(ヒーラー)だ。


半年ほど前からこのイェンキャスト周辺で頻発していた、動く樹木(アニメイトツリー)による旅人や隊商(キャラバン)への襲撃はなんとか終息し、私達ギルドメンバーは、久しぶりにギルド本部である酒場(パブ)"小さな友(プチフレンズ)"ちょっとした打ち上げのような食事会をしていた。


メンバーは私を含めたいつもの五人。リーダーのマーシウ、遊撃兵(レンジャー)のアン(ねえ)精霊術師(シャーマン)のディロン、魔術師(メイジ)のファナだ。



「そういや、この五人で組み始めてもう何年だ?」


マーシウは久しぶりに少しお酒を呑むペースが早い。明日は突然怪物(モンスター)討伐に駆り出される事もないだろうという安心からだろうか、話題は思い出話に――。


「えーっと、レティと出会ったのは……もう五年位前か。その二年前だから、七年?」


アン姐は宙を見つめながら指折り数えていた。


「そんなになるか……時が経つのは早いな」


マーシウは微笑みながら小皿にのったツマミの山羊のチーズの欠片を口に放り込む。


「出会った頃はファナとかこんなんだったのにねえ」


アン姐は手のひらをテーブルの高さ位に合わせてひらひらと振る。


「そんな小さいわけないじゃん、あの頃はもう一一歳だったから!」


ファナは立ち上がって抗議の声を上げていた。ファナも、もう一八歳で背も私とあまり変わらなくなっている。


「もう多分レティよりも背、高いも~ん」


ファナは再び座ると、大きな口を開けて炙り肉を食べた。


「ああ、実際そうかもしれん。レティは小柄だったからな」


マーシウがそう言うと、アン姐は立ち上がって手のひらを胸の下辺りでひらひらさせる。アン姐は女性にしてはかなり大きい――一八〇センチ足らずくらいある。だからアン姐とレティが並ぶと大人と子供みたいに見える事もあった。


ファナも立ち上がってアン姐の手のひらの位置で自分の身長を確かめると、ファナの額の辺りだった。


「微妙だな……本人と並ばないと分からないね」


アン姐はニヤリと笑って座り、お酒に口を付けた。ファナはムッとした表情をして再び座るとマーシウの前の小皿のチーズを掴んで口に詰め込んだ。


「おいおい、俺のチーズ……」


「まあ乳で出来たものを食べると背が伸びるっていうけどさ――ごめんて、もう揶揄(からか)わないから」


アン姐も苦笑いしていた。



「あ、そういえば……レティどうしてるだろう? 久し振りに会いたいな~」


ファナは全く気にしていない様子で話題を変える。


そう、彼女――レティとはもう一年以上会えていない。定期的に伝書精霊(テレメント)で近況報告をしてくれるから元気なのは分かっているけど、やはり直接会って……こうして食事でもしたい、という気持ちは強い。




――レティとは調査依頼(クエスト)で訪れた辺境の地下迷宮(ダンジョン)で偶然出会った。その時の彼女は"ネレスティ・ラルケイギア"という子爵令嬢だと名乗った。私達も転移罠(テレポーター)にかかってしまった所だったので、彼女が何者なのか困惑していたけど……。


「アン姐、初見マジでレティにいきなり隠密接敵(ハイドアンドシーク)するからめちゃくちゃ緊張した~」


今度はファナがアン姐を揶揄(からか)うように笑っていた。


「いやあ、マジでレティが慣れるまでしばらくの間、あたしが後ろ通ったら"ビクっ"ってなってたから気まずかったよ……」


アン姐は苦笑いして照れ隠しするようにお酒を呑む。


「ま、シオリが真っ先に警戒しなくていいって言ってくれたからさ。あんたのそういう嗅覚は信じてるからね」


真っ向から言われるとこそばゆい気がするけど――私は人間の悪意など負の感情に敏感だ。だからいつもニコニコとして敵意が無い事を表明するように気を付けている。


「囚人服みたいなのを着た育ちの良さそうな娘が、あんなに怯えた表情をしていたらね――何か酷い目にあったのかと思うわ」


「実際、えげつない方法で殺されかけてたしな――」



無作為転送(ランダムテレポート)刑――古代の仕掛けである転移装置(テレポーター)によって執行される、無作為に何処か分からない場所へ飛ばされる処刑法だった。



(レティの無作為転送(ランダムテレポート)刑以降は皇帝によって禁止されたと聞いたけど――)



「まあ、そのお陰で出会えたんだけどね――ああ、レティに会いたいなあ~」


ファナは頬杖をついて唇を尖らせる。


「正直、あの娘といると退屈しないしね。新しい魔道具見つけた時にブツブツ言ってるのもなんか可愛いし」


アン姐はレティの魔道具の蘊蓄をそう言う風に見ていたのかと、ちょっと面白かった。


「でも、あそこで出会ったレティを連れていく云々の話をしてる時、ディロン迷惑そうな顔してたでしょ?」


アン姐は、さっきから黙ってお酒をちびちびと呑んでいたディロンへ急に水を向けた。


「えー!? 全然気づかなかった、なんでなんで?」


ファナは頬を膨らませてディロンに抗議の眼差しを向けた。



「今更その話をするのか? その事はレティ本人とも話をしたが――」


ディロンはアン姐を一瞥すると空いた器にお酒を注ぐ。


「ディロンのその態度は、あの場では当然だ。あの時は俺達も転移罠(テレポーター)にかかって命の危機だったからな」


マーシウが間に入る様に口を挟んだ。


「確かに、あの時は俺達もどうなるか分からなかった。だからディロンのその思考は当然というのも理解しているよ」


マーシウはディロンの発言をフォローする。彼はパーティーのリーダーとして必ずメンバー各々の考えを一旦受け止める努力を怠らない。様々な出自の人間の寄合所帯である冒険者パーティーのリーダーとして、彼が信頼出来るのはそういう所だと私は思っている。



「でも、レティの知識のお陰でファナ達助かったじゃん?」


ファナは納得いってない様子で不機嫌そうに言う。そんなファナの頭をアン姐がポンポンと撫でた。


「だから、ディロンは反対もせず黙ってたろ? その後にレティをちゃんと認めてたし」


ファナはアン姐に言われてハッとしてから少しバツの悪そうな顔をした。


「ディロン、ごめん。もうとっくに済んでる事なのに……わたし、やっぱまだ子供っぽいよね」


「気にしていない」



ディロンは珍しく微笑んだ。それを見てファナもホッとしている――その時、不意に酒場の扉が開いてギルドマスターが入ってきた。



「みんな揃っとるようだな。レティ、近いうちに帰ってくるそうじゃよ?」



開口一番のその言葉に私たちは驚く――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ