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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第七部 鑑定令嬢の日常編その二

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第一五二話「セシィとホタル」

――ある日の午後、わたくしはセシィのお屋敷に招かれてお茶会をするためにお庭のテラスに来ています。わたくしが席でお待ちしていると……。



「レティさん、ごきげんよう」


もう一人の招待客であるテュシーさんが来られました。いつもの鑑定や調査の時よりも少し仕立てやデザインの良いお召し物を着ています。それに合わせて髪もきちっと整容されていました。


わたくしは立ち上がってスカートの裾を抓んで膝を曲げる淑女礼をします。


「ごきげんようテュシーさん。今日は素敵なお召し物ですね」


「あはは、ワタクシは気の置けない友人とのお茶会ですから、普段通りで良いと思ったのですけど……」



ふと、テュシーさんの後ろに見慣れぬメイド姿の女性が立っている事に気付きます。


「あの、その方は?」


わたくしの問い掛けにメイドは頭を下げました。


「初めてお目にかかります、ロズヘッジ公認魔道具鑑定士様。私はロンブロイ侯爵家御令嬢テュセイリア様の側仕え兼護衛を務めております、カノトと申します。以後お見知りおきを」


「あ、はい。宜しくお願い致します」


わたくしはカノトと名乗る方に淑女礼をしました。この方は濃紺色の髪を後頭部で束ねて眼鏡をかけています。



(髪色から恐らく東方大陸の出身とお見受けしますが――)



「カノト最近ちゃんとしろって口うるさくて……」


「親しき仲にも礼儀あり、と申しております。侯爵家の者が怠ったとあれば、不信感に繋がります。"上に立つ者程弁えよ"――お館様のお言葉です」


「ほら、この調子で……」


わたくしは苦笑いするしかありませんでした。


テュシーさんのお父上であるロンブロイ侯爵は、貴族の負の側面を地で行っていたプリューベネト侯爵閥と対立していただけあって、清廉潔白な方とお聞きします。


わたくし達がそんなやり取りをしているとセシィがやってきました。後ろには護衛騎士のガーネミナさんが付いていて、わたくしと目が合うと会釈されました。


「お楽にして下さい、今日は友人のテュシーさんとしてお招きしていますので……ですよね?」


セシィはテュシーさんに目配せしました。


「そ、そうです。今日はお忍びの無礼講ですよ!」


テュシーさんは腰に手を当てて胸を張りました。その姿にカノトさんは微妙な呆れ顔をしましたが、すぐに真顔になり「失礼致しました」と後ろに下がって控えます。


「さあ、こちらにお座り下さい」


セシィがテラスにあるテーブルに案内してくれましたので席に着くと程なくお茶会が始まりました。


「あの、レティ。最近読んだ本に書かれていたのですが……ホタルという虫をご存知ですか?」


「ホタル……ああ、ある季節のごく僅かな間に現れる、夜光る虫ですね」


「ワタクシも存じてますよ、とても幻想的な虫です。子供の頃何匹か籠に入ったものを見ました。確かウチの狩庭で見られたかと思いますが……」


「本当ですか?! 私、一度見てみたくて……」


「でしたら、鑑賞会をしましょう! ワタクシも久し振りに見てみたいですから」


「わたくしも宜しいでしょうか?」


ホタルはこの目で見た事が無いのでとても興味深いです。


「勿論です! 早速段取りを致しましょう」


わたくしは何かと忙しいだろうとお気遣い頂き、セシィとテュシーさんが段取りをしてくださりました。




――そして、数日後……わたくし達は帝都郊外にあるロンブロイ侯爵家の狩庭にお招きいただきました。わたくしは一人でしたが、セシィにはガーネミナさんが、テュシーさんにはカノトさんがそれぞれ付き添っています。


わたくしは灯りにと手製で人数分、照明石のランタンを作ってきました。といっても瓶に照明石を入れただけの単純なものですけれど。



(今日は月明りも無く、暗いですね……)



カノトさんの案内で狩庭にある渓流までやってくると、辺りで虫の声と渓流のせせらぎが聞こえます。


「この辺りに居るはずなのですが……見当たりませんねえ」


テュシーさんはキョロキョロと照明石ランタンを片手に周囲を見回しています。


「は、昨年は今頃に見られたと庭師から聞いております」


カノトさんが無表情で答えました。


「確か、水辺を好むと本には書かれていました。この辺りには……」


セシィは照明石ランタンを掲げて辺りを見回しています。


「えっと、確か沢がありましたよね。どっちでしたっけ……夜だと景色が違って見えてしまいますね」


テュシーさんもキョロキョロと辺りを見ています。わたくしは耳を澄まして音を聞きました。すると、さらさらとした水音が聞こえて来ました。


「こちらから水の音がしますけれども……」


テュシーさんもセシィも目を丸くしてわたくしを見つめます。


「ど、どうしました?」


「凄いですレティ! そうですよね、夜の暗闇で沢を探すのですから水音ですよね……」


セシィはわたくしの手を取って感動しているようでした。


「レティさん、流石に冒険者もされているだけあります!」


テュシーさんも興奮気味に仰いました――お二人は貴族の御令嬢ですので、音で水を探すなどは思いつかないのですね。



(わたくしも以前であればそうでした……)



そして、わたくしが先導して水音のする方向へと向かうと、水音が大きくなるにつれて、小さな緑色の光の粒の様なものが明滅しながらちらちらと舞っています。


「あ、これは?」


セシィはそれを指差して驚いています。


「これですよ、これがホタルです。身体の一部が明滅してるんです!」


テュシーさんも説明しながらも興奮が隠せない様です。


「皆さん、あちらから水音が――」


わたくしは茂みの向こうの渓流を指差します。そこは崖に囲まれた場所で、渓流が崖の間に吸い込まれる様に流れていく入り口の様な場所でした。


手前の水の流れが緩やかな場所を中心に周囲を夜空の星のように埋め尽くすホタルがキラキラと光っています。それはまるで小さな鬼火(ウィルオウィスプ)がふわふわと舞っているようにも見えました。


「凄い……綺麗ですね」


わたくしの問い掛けにお二人の反応が無いので振り返ると……テュシーさんは口元に両手を当てて目を見開いていました。


「これは……以前の場所に居たホタルが、集まってるのでしょうか、壮観ですね……」


テュシーさんは言葉を詰まらせる程驚いています。そして、セシィはその場に立ち尽くして涙を流していました。


「セシィ? だ、大丈夫ですか?」


わたくしはセシィの体調が悪いのかもと心配になり、肩を抱きます。ガーネミナさんも心配して寄り添います。



「レティ……テュシーさん……ありがとうございます。私、死ななくて……レティが秘薬を探してくれて……本当に良かった……こんな美しいものが存在するなんて……」



セシィは口元を両手で覆いながら涙を流していました。


「セシィ……」


わたくしはセシィの肩に手を触れて寄り添いました。それを見てガーネミナさんは口元を抑えて嗚咽を堪えている様に見えました。



本当に、秘薬が探し出せて――作り出せて良かったです。



(秘薬を作って頂いた薬師のスヴォウさんや弟子のハサラさんはどうされているでしょうか? また何かの折にお会いしたいですね――)



今までの事、これからの事――様々な事を想いながら皆さんとふわふわ飛ぶホタルを眺めていました。

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