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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第七部 鑑定令嬢の日常編その二

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第一五一話「レティとウェルダ 後編」

――久々にお会いしたウェルダさんとの話に花が咲きます。



「そういえばこの前、セソルシアさんと一緒に鑑定士として仕事をしたんですよ」


「ああ、すっかり身体も良くなった様で良かったわ。またお会いしたいわね」



ウェルダさんは、かつてわたくしを転移追放刑に追い込んだプリューベネト侯爵の姪で、でもその事に彼女は全く関りが無く、むしろ侯爵家の取り潰しと派閥の解体に巻き込まれた被害者だったという事がセソルシアさんのお茶会に招かれた時に判明しました。


しかし、セシィの計らいでウェルダさんとも打ち解けられて、今はこうして友人としてお付き合いできています。



「あと、同じく鑑定士としてロンブロイ侯爵令嬢のテュセイリア様ともお仕事を――」


ウェルダさんはわたくしからその名前を聞くと「え?!」と声を上げました。


「ロンブロイ侯爵家の令嬢――テュセイリア」


「お会いしたことが?」


「いえ、無いのだけれど――ロンブロイ侯爵家とは、また凄い繋がりが出来てるわね?」


ウェルダさん曰く、ロンブロイ侯爵家は大臣も歴任する名家で――プリューベネト侯爵家と対立する派閥の重鎮だったらしいです。その敵対していたプリューベネト侯爵家が取り潰されたので、帝国内部での発言権はかなり増したとのことです。


「貴女のことだから意図したわけではないと思うけど、着実に凄い後ろ盾を築きつつあるわね――」



わたくしは改めてそんな事を言われて「確かに」と身が引き締まる思いをしました。そして、いくらそう言った方々の後ろ盾があるとはいえ、そういう貴族の中で立ち回る必要がどんどん増えてくるという事も容易に想像出来ました。



その事を考えると、わたくしの口からふとした思いつきが漏れました――。



「ウェルダさん、"すぐに"ではなくて"いずれ"のお話しなのですが――」


わたくしは姿勢を正して口を開いた事でウェルダさんも真顔になりました。



「わたくしの――帝国公認魔道具鑑定士の護衛兼相談役としてウェルダさんを雇いたいのですが……」



その言葉に、ウェルダさんは目を丸くします――。



これは今、ウェルダさんとの会話の中で思いついた事です――以前から公認魔道具鑑定士として一人で現場に出向いて活動することには限界を感じていました。なので、つい勢いで口から出てしまいましたが、常日頃から考えていた懸案事項に答えを得た様に思えたのです。


「それは――冗談では無さそうね?」


ウェルダさんは真剣な面持ちでわたくしに聞き返します。


「はい、勿論です。魔道具の鑑定には冒険者並みの危険と背中合わせな所があります。そして冒険者と違い、貴族など身分の高い人たちとのやり取りも少なくないです。更に、同性であればプライベートな場所でも同行して頂けます。何より、そんな事を頼めるほど信用している人物でないといけません。わたくしの中でそれら全ての条件を満たしているのが――」



ウェルダさんは肩を竦めました。


「私、というわけね――理解したわ」


「どうでしょう?」


わたくしはウェルダさんの目を見つめます。ウェルダさんは視線を外してジッと思索に耽っている様子です。


「すみません、突然過ぎますよね……わたくしも今思い付いた事ですので、話半分で聞いて……」


わたくしが冗談として流そうとすると、ウェルダさんは真剣な表情で「今考えてるから」と仰いました。


「えっと……ウェルダさん? あの、勢いで言ってしまって申し訳ありません。聞かなかった事に……」


わたくしが話題を変えようとしましたが、ウェルダさんは怪訝な表情をします。


「え、本当に冗談なの? 取り敢えず、私の意見とか状況とかそういうものは置いて――貴女自身の理想形として、そう思うのよね?」


ウェルダさんはわたくしの目を見て真剣な表情で言いました。


「あ、あの……はい。先日も魔道具鑑定や古代遺物調査で危険な目に……それに、ウェルダさんの様に上級貴族社会の知識もありません。だからウェルダさんに側に居て頂けるならどんなに心強いかと妄想してしまいました……すみません」


ウェルダさんはわたくしの目をじっと見つめてから「フフ」と笑いました。


「貴女の事変わらないって言ったけど訂正するわ、変わったわね」


「えっ……と?」


戸惑うわたくしを見てウェルダさんは微笑みながら言葉を続けます。


「自分の主張をそんなにも具体的に言うようになった。まだ遠慮がちな所は生来の奥ゆかしさだと思うけど――」


「自分ではよく分かりません……」


自己評価が低いのは良くない事だとガヒネアさんにも言われていますけれど、こればかりはなかなか難しいです。



「良い事よ? 公認魔道具鑑定士として冒険者や貴族と渡り合っていく事になるのだから、そういうはっきり自分の要求を口にする押しの強さも――時にはね?」


わたくしは自分を評価されると、未だに恥ずかしいやら申し訳ないやらで困惑してしまいます。魔道具の鑑定ならはっきりと言えるのですけれど。



「話は分かったわ。貴女の申し出、前向きに検討しましょう。それには、冒険者になる為にお世話になったギルドマスターに話を通さねばならないから、私は一度イェンキャストに戻るわ」


「よ、宜しいのでしょうか? こんなわたくしの思いつきですよ?」


ウェルダさんは微笑むと小さく溜息をつきました。


「私が冒険者稼業を始めてもう五年が過ぎたかしら、色々あったけど正直楽しかったわ。でも貴女の話を聞いて、収まるべき所を見つけた気がしたの」


「収まるべき所、ですか?」


ウェルダさんは少し遠い眼をしました。



「元々、私は貴婦人を護衛する近衛騎士を目指していたの――」


ウェルダさんは帝国騎士学校出身でした。近衛騎士は帝都を守る衛士の代表で、普段は上級貴族の護衛や皇宮の警備などをするのが任務です。騎士の中でも選ばれた者しかなることができません。その中でも女性となると更に狭き門でしょう。


「しかし、それはもう叶わない。流石に私の様な紆余曲折を経てしまうと、正規の近衛騎士にはなれないしね」


近衛騎士は「やんごとなき方々」の命を守る存在ですので、身元や素行はとても重要視されます――ウェルダさんは少し寂しそうな表情をしました。


「でも、レティの護衛なら、冒険者としての経験も活かせるでしょう?」



(確かに、これから先も遺跡探索や遺物収集はありますし、危険な魔道具を取り扱う事も……何より皇帝陛下に任された転移装置(テレポーター)の探索任務もあります)



――それに、治癒魔術を扱う慈愛の女神(アヴァロ=スヴァラ)神官戦士(テンプルウォリアー)であるウェルダさんが側に居て下されば、心強いです。


「本当に……宜しいのですか?」


「何よ、貴女が言い出したんじゃない?」


ウェルダさんは少し呆れた様に笑います。


「直ぐには無理かもしれないけど、色々調整してみるわ」


「はい、宜しくお願いします」



久々にお会いして雑談や近況報告をしていたはずが、そんな方向に話が進むとは全く考えてもいませんでした――。

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