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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第七部 鑑定令嬢の日常編その二

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第一四九話「余談 ~アンとディロンの昔話・後編」

森で弓の稽古をしている時に行き倒れた若い男の人を担いで隊商(キャラバン)まで戻ったあたしだったけれど――。



「なんですぐに人を呼ばないんだ!」


父親があたしを見て開口一番そう言った。


「担げそうだから担いだんでしょ、倒れてる人置いて離れられないじゃん!」


あたしが怒鳴り返すと、何か言いたそうにしてたけど溜息をついてから隊商(キャラバン)の人達に指示を飛ばしつつ歩き回っていた。



――本当なら翌日には出立するはずだったけど、この場所に二日程留まっていた。男の人の容態が回復するのを待っていたからだ。熱が下がると、まだ容態は完全には良くないけど取り敢えず起き上がれる様にはなったみたいだった。


あたしが様子を見に彼のいる馬車に行くと、丁度外に出て来たところだった。


「あ、身体は大丈夫?」


顔色はまだあまりよく無さそうだけど取り敢えずは大丈夫なようだ。


「ああ、君は吾輩を助けてくれたんだったな、感謝する。吾輩はディロン・ディロムスという旅の者だ」


ディロンという人は、あたしより少し歳上くらいなのになんだか堅い口調で変な人だなと思った。


「あたしはアン。ここの隊長はあたしの父親だよ」


「コーシィ隊長のお嬢さんか、了解した」



ディロンは故郷を出て旅をしているらしい。「変わり映えのない村で一生を終える事に疑問が生じた」とか、なんか言い回しがまどろっこしいけど……ディロンの話は要点を簡潔に説明してくれるからとても分かり易かった。


それに「決められた場所で何の疑問も無くずっと同じ事を繰り返す事」に違和感を持ったというのは、あたしにはとても共感出来た。



ディロンが起き上がれるようになったので隊商(キャラバン)は出発した。ディロン自身はまだ体力が戻らなくてふらついていたから、あたしの父親が暫く隊商(キャラバン)に居る様に言った。なんか、父親が若い頃に同じように旅の途中に死にかけた所を隊商(キャラバン)に助けられたから、その恩返しみたいなものだと言ってた。



あたしはディロンが今まで旅した時の話を聞いた。何度もグイグイ聞きに行くからちょっと迷惑そうにしてるのは分かってたけど、憧れだった知らない土地を自由に旅するという話にとても興奮した。


一〇日が過ぎてディロンの体調もすっかり良くなって、大きな街の近くなのでディロンはそろそろまた旅立つ事にすると言って隊商(キャラバン)のみんなに別れの挨拶をしていた。


――あたしはこのチャンスを逃さないと何日か前から具体的な準備を進めていた。ディロンが隊商(キャラバン)から離れて、車列が出立した所であたしもこっそりと隊商(キャラバン)を離れた。車列の動き始めはみんな忙しいし、一度動き出した複数の馬車はすぐには止まれない。あたしはこの瞬間を狙ってた。



(書き置きしてきたし、言っても反対するでしょ? ま、みんな元気でね)



別にいつでもこうする事は出来たかもしれない。けど、今まではそれが出来なかった。でも、今日この瞬間、あたしはあたしの人生を初めて自分で決めて飛び出した。



(ま、何とかなるっしょ?)



あたしはディロンに追いついて満面の笑みで手を振る。ディロンは眉間にシワを寄せて険しい表情をしてる様に見えた。


「どういうつもりだ?」


ディロンはやっぱり険しい表情、いかにも迷惑そうな顔だ。


「あたしも連れてってよ!」


あたしは臆せずに満面の笑みでディロンに言う。


「何故、吾輩がアン嬢を連れて行かねばならんのだ?」


ディロンは眉間にしわを寄せて溜め息をつく。


「命の恩人でしょ? それくらいいいじゃん」


「いや、そうだが……むう、しかしだな。お前の父、コーシィ殿に申し訳がたたん」


"命の恩人"――冗談半分で言った言葉にディロンは真面目に受け止めている様子だ。恩を着せるつもりは無かったのでちょっと心苦しい。


「いや、まあ……あたしが勝手に付いて行くからいいじゃん、大丈夫大丈夫。それに、一人旅でまた病気になったらどうすんの? 他にもなんかトラブルあるかもだし」


あたしの言い分にディロンは眉をひそめた。


「ぬ……直近でそのような事態に陥っているから反論できんな――仕方あるまい」


「オッケー! じゃ、改めて宜しくね」


あたしが差し出した右手をディロンは溜め息をついてから握り返してきた。



こうして、半ば強引だったけどあたしはあたし自身で選んだ人生の第一歩を踏み出した――。



(それからずっと冒険者やってるけど、ま……性に合ってるんだろうね)



馬車の幌の隙間からイェンキャストの街が見えていた。あたしは腹の虫が鳴るのを聞き、帰ったら何を食べようかとその事で次第に頭がいっぱいになっていった……。

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