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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第六部 公認鑑定士編

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第一四六話「不思議な城からの脱出」

――新たに召喚された魔剣四〇人の盗賊フォーティバンディッツ十傑の一人、流星錘(メテオハンマー)のファ・フォンさんは鮮やかな動きで鎖の付いた鉄球を変幻自在に繰り回し、動きまわる剣歯虎(スミロドン)の青銅像を攻撃していました。


しかし生き物ではないからでしょうか、攻撃を受けながらこちらに向かってきます。


「セシィ、身を隠していて下さい!」


わたくしが隠れる様に促すと、セシィは元々剣歯虎(スミロドン)の青銅像が置かれていた台座の陰に隠れました。セシィが隠れるのを見届けて振り返ると、剣歯虎(スミロドン)がわたくしに向かって飛び掛かってきました。


「駆けよ、風の如く!」


わたくしは風の靴(ウィンドシューズ)の効果を発動させて跳躍します。わたくしの立っていた場所に剣歯虎(スミロドン)が着地し、芝生と土が弾け飛びました。


その着地した剣歯虎(スミロドン)に向かって「ブン」と低い風切り音が鳴り、流星錘(メテオハンマー)が命中しました。そしてファ・フォンさんはこちらに向かって走りながら鎖を巧みに操り、剣歯虎(スミロドン)の身体に鎖を巻き付けます。


剣歯虎(スミロドン)は咆哮を上げ、鎖を振り解こうと藻掻き、ファ・フォンさんはそうはさせまいと鎖を引いています。小柄な女性とは思えない膂力(りょりょく)で踏ん張っておられましたが、身体の大きさが違い過ぎるので身体ごと振り回されてしまいました。しかし、鎖は絡まったままなので剣歯虎(スミロドン)は自由を奪われています。


門を開きて出でよ(お願いします)丸太棍棒(グレートクラブ)ウガルム」


わたくしは、剣歯虎(スミロドン)が青銅像だという事、そしてそれをねじ伏せられる力が必要だと判断し、丸太棍棒(グレートクラブ)を呼び出しました。地面に直径二メートル程の光る紋様が現れて丸太棍棒を担いだ巨躯に不釣り合いな少年のようなお顔立ちの若い男性が現れます。丸太棍棒(グレートクラブ)のウガルムさんです。その身体はやはり淡い光の様に透けています。


「お願いします!」


わたくしが首領の剣で剣歯虎(スミロドン)を指し示すと、ウガルムさんは丸太棍棒(グレートクラブ)で殴り掛かりました。


丸太棍棒(グレートクラブ)で殴られた青銅像の剣歯虎(スミロドン)は「ガツン」と鈍い音をさせて倒れます。


そこに追い討ちをかけ、ウガルムさんは丸太棍棒(グレートクラブ)を下に向けて衝く様に打ち下ろしました。生き物であればかなり致命的な威力がありそうですが、動く像(リビングスタチュー)なので意に介さない様に鎖に絡まって藻掻いています。


「ゴーレムであれば核となる魔術結晶を砕けば停止しますが動く像(リビングスタチュー)はどうすれば……」



(ルーテシアさんの破術であれば、像を動かしている魔力に直接干渉したり出来るのでしょうか?)



そんな取り留めのない事を考えていると、像の台座の陰に隠れていたセシィが何かに気付いた様です。


「レティ、これは魔術結晶でしょうか?」


セシィはわたくしにそれを取り外して見せてくれました。手のひらに乗る位の大きさの赤い宝石で、中には紋様や術式の様な物が薄っすらと光って見えるので、確かにセシィの言う通り魔術結晶でしょう。


わたくしは剣歯虎(スミロドン)に視線を向けます。さっきまで暴れていま剣歯虎(スミロドン)は固まったまま動かなくなっていました。しばらく観察していましたが動く気配がしません。


「止まった……ようですね」


わたくしの言葉にセシィは大きな溜め息をついてその場にへたりと座りました。恐る恐る青銅像に近付き地面に落ちていた小石を投げつけてみましたが、青銅像は小石が当たっても金属音がしただけで、ピクリとも動きません。


戦いが終わったと判断して首領の剣を鞘に納めると、丸太棍棒(グレートクラブ)のウガルムさんと流星錘(メテオハンマー)のファ・フォンさんは煙の様に消えまました。


「その魔術結晶が制御していた様ですね……ありがとうございます、助かりました」


わたくしはセシィの横に膝をついて魔術結晶を握っている手に手を添えます。


「え? あ、いえ……たまたまですけれども……これ、戻すとどうなるでしょう?」


わたくしはセシィと相談して、何か異常があればすぐに取り外す事にして、魔術結晶を台座に戻してみました。すると、剣歯虎(スミロドン)の青銅像はゆっくりと歩き始めて元通り台座の上に座りました。


「……どうやら動く前に戻ったようです」


魔術結晶の中の術式は輝きをなくしました。ホッとして周囲を見渡すと、石畳の先には開いた門があり虹色の光を放っています。


「あれは……出口でしょうか?」


「とにかく行ってみましょう!」


セシィは早足で門に近付いて行きます。


「気を付けて下さいね……」


わたくしもセシィのすぐ後を追いました。門の手前でセシィは立ち止まり、虹色の光を見つめます。


「行きましょう、レティ!」


セシィはもう飛びこむ気満々です。正門なので明らかにここが出口だとは思います。


「分かりました、行きましょう……」


わたくしはセシィと手を繋いでタイミングを合わせて門をくぐりました。目の前が眩しい光に包まれ、浮遊感に見舞われて自分がどこを向いてどの様な体勢なのか分からなくなりました。


セシィの手がわたくしの手を強く握ります、やはり怖いのでしょうか……手汗が凄いです。その時、意識が遠退きました。




「……ティさ……レティさん! セシィさん!」


名前を呼ぶ声に目を開くと、そこは元の鑑定をしていた地下室でした。


「レティさん! セシィさん! 良かった……ご無事ですね?」


すぐ目の前にテュシーさんが目に涙を浮かべながら立っていました。


「テュシーさん、どのくらいの時間が経ちました?」


「え、あ……っと。先ほどお昼の鐘が鳴りましたので一時間余りでしょうか?」


この手の魔道具は内外で時差が発生することもよく聞きますが、わたくしが中で感じていた時間との差は感じませんでした。わたくしとセシィはテュシーさんに縮尺模型(ミニチュア)の中であったことを伝えます。


「ええっ?! それは大変でしたね……あ、そういえば東方大陸の文献で似たような物を読んだ事があります。それは壺の中に村や町があるものでしたけど」



(聞いたことがありますけど、この魔道具との繋がりは不明ですね……)



「レティ、このままオークションに出品するには危険な品な気がします……」


セシィの意見にわたくしもテュシーさんも同意しました。


「このような魔道具はわたくしもあまり見識がありませんでしたので、もっと調べなくてはいけませんね」



わたくし達はこの縮尺模型(ミニチュア)の魔道具の取り扱いについてはバフェッジさんに報告してからという事にしました。

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