第一四二話「謎の縮尺模型」
――セシィが開かないと言っている箱、材質は木のような金属のようなもので古代遺物などでは稀に見掛けます。
「箱の表に術式が刻まれていますね……」
わたくしは懐から丸い大きめの眼鏡を取り出して掛けます。
「レティ、それは?」
セシィが眼鏡に興味を持った様です。
「最近手に入れた魔道具の魔力視眼鏡です。一見何の変哲もない眼鏡ですが、これには魔法探知の魔法が込められているので、魔法探知の魔法を唱えなくても魔力や魔法をを診る事が出来ます」
セシィは興味津々にわたくしの顔を覗き込むので思わず照れてしまいました。
(いえ、これはわたくしの顔でなく眼鏡を見ているのですよね?)
わたくしは「こほん」と咳払いをして箱を見てから魔道具発動の言葉「見えざるものを見せよ」を口にします。これで一定時間効果が発動します。
眼鏡を通して箱を見ると、微かな淡く青い光が箱を包んでいるのが見えました。
「弱い魔力がありますね……」
わたくしはセシィやテュシーさんにも魔力視眼鏡を掛けて貰い確認して頂きました。そして、再び魔力視眼鏡を掛け直して箱に向きあいます。
「この反応は魔力で魔道具等が封印されている時のものです。中身を確認しないといけませんから開けても宜しいでしょうか?」
わたくしはテュシーさんとセシィに同意を求めます。テュシーさんはこの箱の申し込み書類を確認します。
「ええっと……さる地方領主の家に代々伝わる箱で詳細は不明……だそうです」
貴族同士の力関係等で忖度して鑑定内容に影響が出る可能性を考慮し、出展者の身分は鑑定士には極力伏せて欲しいとバフェッジさんにお願いしています。
「昔から家にあるけれど正体が解らないものを、ここぞとばかりに調査がてら出して来られている方が多いですよね」
セシィは苦笑いしています。
「……レティさん、開けて貰えます?」
テュシーさんはなんだか嬉しそうに言います。
「宜しいですか?」
セシィに目をやると「お願いします」と言って、目を輝かせています。もちろん、わたくしも中身が気になって仕方ありません。
「では、解呪しますね……」
わたくしは魔法発動体の指輪をした右手で箱に触れながら解呪の魔法を唱えます。
――すると、箱から「キン」という金属が割れる様な音がしました。蓋に触れると蝶番を軸に軽い力で開きました。箱の中には両手のひらに余るくらいの大きさの透明な球の中には城か砦の縮尺模型の様なものが入っているものが納められていました。
「硝子……水晶でしょうか? この中の模型は凄く精巧ですね」
眼鏡を通して視ると魔力を放っているのが分かります。しかし、そこまで強い魔力ではありません。
「縮尺模型? 美術品でしょうか、なんと可愛らしい……」
セシィは興奮を抑えられない様です。自分の専門分野の品物に出逢った時の興奮はとても理解出来ます。といいますか、わたくしもかなり興奮しています。
「詳しく見せて頂けます?」
セシィが縮尺模型の水晶球に手を伸ばした瞬間、光を放ちました。
「何の光?!」
わたくしは眩しさで反射的に目を瞑り手のひらで目元を隠しました。
「セシィ、魔道具は不用意に触れては……セシィ?」
光が治まったので目を開けると、セシィの姿がありませんでした。
「レティさん……ワタクシの見間違いでしょうか? 今、セシィさんがこの球に吸い込まれた様に思えたのですが……」
テュシーさんが呆然としながら言いました。周囲を見渡しセシィの名を呼びますが、やはり姿は見えません。魔力視眼鏡を通して水晶球を観察すると、さっきよりも魔力の光はハッキリと見えます。
「レティさん、何か中で動いていませんか?」
テュシーさんは城の縮尺模型の一部を指差しました。そこには城の屋上で動く小さな人形の様なものがありました――いえ、それは人形では無い様です。
「セシィ?!」
水晶球の中の城の縮尺模型の中に小さなセシィが居ます。服装も今日のセシィのものです。
「まさか……閉じ込められた?」
わたくしは水晶球を調べる為に手で触れました。その瞬間、まるで昇降装置に乗った時の様な浮遊感に見舞われました。




