第一四話「ゴミという名の夢を探して」
――わたくし達おさんぽ日和は二手に分かれて行動します。アン様とディロン様は街の地下水路に巣食う大鼠退治の依頼を、マーシウ様、シオリ様、ファナ様、そしてわたくしの4名は"海岸の漂着物処理"という依頼をそれぞれ受諾しました。
「漂着物処理を受けてくれるのは助かります。ですが正直に申し上げますと、目ぼしい物はあらかた拾われてしまって本当にゴミ拾いになっていますが……それでもいいですか?」
冒険者ギルド組合の酒場、勇魚亭の一角には依頼受付のカウンターがありました。わたくし達が"海岸の漂着物処理"の依頼を受けようと申し出たのですが、受付の女性はそんな風に仰いました。
「ああ、うちのパーティーは駆け出しの冒険者がいるんでね、こういう危険の無さそうな依頼がいいんだよ」
マーシウ様がわたくしの顔を見て微笑まれました。
「わかりました、ではパーティー認識票をこちらへ」
皆様、懐から首にかけているパーティー認識票を取り出してカウンターに並べます。わたくしも慌てて取り出して置きました。並べたタグに受付の方が手をかざすと、タグが一瞬淡く光りました。
「……所属ギルドはおさんぽ日和、本部はイェンキャストですか……遠くまで来られたのですねぇ。マーシウ・マシュリィ、シオリ・レンシャク、ファナ・モンティ……えっとネレスティ・ラルケイギアさんは、ギルドメンバーではないのですね?」
「ギルドマスターの許可は貰っているのですが、まだ正式加入していないのです」
マーシウ様が説明してくださいました。
「……わかりました、ではその四名で受諾します」
受付の女性はタグに向かって手をかざすと、再び認識票が一瞬淡く光りました。
「では、お気を付けて」
受付の方がそう仰ると皆様各々に認識票を取って首にかけられます。
「えっと……今のは?」
「そうかレティは正式な冒険者ギルドの依頼受諾したことなかったな。このパーティー認識票はメンバーの証でもあるけど、個人の情報が記録されているんだ。名前とか所属ギルドとかね」
「それで受付の方はわたくしの事をご存じだったのですね?」
「そうさ。この認識票を渡した時に魔法で記録されるんだよ。まあ俺も詳しい仕組みはよくわからんけどね」
「なるほど、そうだったのですね。そういえばよく見ると皆様の認識票とわたくしの認識票は形が少し違いますね」
そうです、いままで比べた事無かったのですがわたくしだけ若干小さいですね。
「ああ、レティに渡しているのは臨時メンバー用の共用認識票だからね。正式加入の時にマスターから俺たちと同じギルドメンバー個人専用のを支給されるよ」
(なるほど、そういう事ですね。ギルドメンバー個人専用認識票ですか……楽しみです)
――依頼を受諾したわたくしたちは現場の海岸へやってきたのですが……。
「こりゃまた……なかなか酷いな」
おそらく白い砂浜で綺麗な海岸だと思われる場所ですが、船の残骸や流されてきた木箱などの漂流物で溢れかえっています。海岸ではすでに作業をしている方が何名もおられました。砂浜に入る手前に天幕があり看板が立てられていて"漂流物処理事務所"と書かれています。
「ちょっと話を聞いてくる」
マーシウ様は天幕の中へ入って行かれました。待っている間に周りを見渡すと、天幕の横では二名の係りの方が火を焚いて回収したものを選別したり燃やしたりしています。そして燃やせない物は大きな穴に放り込んでいます。
「これは確かにゴミ拾いね……」
シオリ様は苦笑いしています。ファナ様も口をとがらせて不機嫌そうな表情です。しばらくしてマーシウ様が天幕から出てこられました。
「詳しい話を聞いてきた。海岸のゴ……漂流物をとにかく集めてここへ持ってくるんだってさ。欲しい物は持って行っても構わないそうだ。要らないものはそこの係りの人に聞いて燃やすか穴に掘り込むかしてくれだって」
「ぶー……本当にゴミ拾いじゃん」
「ファナそう言うなって……持っていったら記録して、処分した分が報酬になるんだってさ」
「わかりました、じゃあ頑張りましょう!」
(そうです、わたくしも頑張って稼ぐのです、やっと私にも出来そうな依頼なのでやる気が沸いてきます!)
「レティ元気だねえ……」
「ほらファナ、私たちもやりましょう」
――そしてわたくしは頑張って重い船の残骸や細かな破片などを集めて何回か持って行ったのですが……
「こ、これは……なかなか……大変です……」
わたくしは息が上がってしまったので立っていられず砂の上で仰向けになりました。腕もパンパンに張っています。
「か、身体が……痛くて動きません……」
「……休息」
シオリ様がわたくしの額に触れて魔法を唱えられました。すると疲れて筋肉が悲鳴を上げていた身体が楽になってきます。
「あ、ありがとうございます……」
「無茶しないでね? 大きなのは、ほらマーシウが運んでくれているから」
マーシウ様はご自分の身体ほどある船の残骸を運んでおられます。
「え……凄いです……」
「まあ普段から重い鎧着て、おっきな盾を持って戦ってるからねー」
「レティは細かいものをお願いするわ」
「わ、わかりました」
(仕方ないですね、無理してご迷惑をかけてはいけませんし。細かい物も拾わないといけないですものね)
日が傾く頃まで小さな残骸を拾っていました。ふと周りを見渡すと、わたくしの近くでマーシウ様が何かを掘り出そうとしていました。
半分砂に埋まっている、人の脚程度の大きさの流木のようなものでした。わたくしは近くにあった木の板で周りの砂を掘り、マーシウ様が埋まっているものを前後に動かしながら引っ張るとなんとか抜けました。
「レティありがとう、助かったよ。しっかし何だこりゃ? 流木……にしてはえらく硬いな」
マーシウ様は拳で軽くノックします。それは長さが一メートルくらい、太さは直径二〇センチ程で砂まみれだったのでわかりにくかったのですが、少しボコボコしている真珠色で少し湾曲した太い棒に見えました。
(……これは何処かで見た記憶が?)
「よいしょっと、結構重い……木というより石っぽいな。こりゃ燃えなさそうだから穴に埋めるやつかな?」
マーシウさんが肩に担いで持って行こうとした時にわたくしの脳裏に記憶が蘇りました。
「マーシウ様、それを見せてください!」
「え、レティどうしたんだよ? まあいいけど……」
マーシウ様は担いでいる太い棒状の物を砂の上に立てるように降ろしてくれました。わたくしはそれを舐める様に隅々まで観察します。そして手で触ったり、ノックしたりしながら自分の頭の中の様々な記憶と知識をぐるぐると巡らせます。
「れ、レティ何を……」
「お静かに。今、集中しております」
「あ、はい……」
――そしてわたくしの今までの鑑定経験の中から結論を導き出しました。
「これは"竜舎利"です! 古の竜の骨とされ、魔術などの触媒や古代魔法帝国でも武具や魔法具に使われた素材です……今でも稀に発掘されることがあり、高額で取引されています。わたくしも何度か鑑定したことがありましたのでわかりましたが、確かにこれは竜舎利です。しかもこの大きさで目立った傷も無いので……これは魔術関係の商人に売ればかなりの値がつくかと……」
「なんだって……?」
マーシウ様は急いで竜舎利を旅人の鞄に押し込んでシオリ様とファナ様を呼び、わたくしにさっきの説明をするように仰いました。お二人とも半信半疑の顔をされていました。
「とにかく、この依頼を清算してこいつを売りに出してみよう」
(まさかこんなものが落ちているなんて……でももし偽物だったら皆様になんとお詫びしましょうか……)
わたくしはそんな不安を胸に皆様の後をついて行きました。




