第一三九話「ラルケイギア家のお茶会」
――わたくし達が話をしている間にも、ニム姉様はお茶とお菓子を召し上がっていました。
「ニムルディ、はしたないですよ。あなた、まさか先方でも粗相していないでしょうね?」
二ム姉様は「てへ」と舌を小さくぺろりと出して微笑みます。
「お母様、家族だけのお茶会だから――ですわ。向こうのお家ではしっかりと、やってます」
ニムルディ姉様の笑みは本当に朗らかで、その容姿と相まって舞踏会では殿方がダンスのお相手にと列を成したと聞いています。
こうして、わたくし達姉妹三人とお母様のお茶会が始まりましたけれど……まずニム姉様にせがまれてわたくしが転移追放された時の話やその後の冒険者生活や鑑定士になった経緯もお話しました。
「あ、そうでした。今日は鑑定士としてお呼びだと聞きましたが……」
わたくしの言葉にお母様と姉様達は顔を見合わせて微笑みました。
「それは方便というものよ。今はお互いに立場上は関係のない他人だから口実が必要なの。子爵家とはいえ貴族と平民が私的に会うと、痛くなくても何かと勘繰られますので」
ヌーシェリア姉様が説明してくれました。
「ましてや、もはやニムルディは侯爵家、ヌーシェリアは伯爵家……ナーラネイアに至っては辺境伯という上級貴族に嫁ぎましたからね。ネレスティ、お忙しい公認鑑定士のあなたもこの方が来やすかったでしょう?」
(わたくしがラルケイギア家に対して気まずく思っている事を、お母様はちゃんと見透かしておいでですね……)
「お気遣い有難う存じます……」
「子供の頃はネレスティの事が掴みかねていました……男児が生まれないというプレッシャーもありましたし、貴女の後にはノアケインが生まれてそちらで手一杯だったので、貴女をちゃんと理解してあげられなくてごめんなさいね……」
(家族から変わり者として腫れ物扱いされている、と思っていたのは何よりもわたくし自身だったのですね……)
名目上家族では無くなってから、やっと家族と向き合えた気がするのは皮肉なのでしょうか。
(いえ、そんな今だからこそ……と思いましょう)
その後は子供の頃の思い出話に花が咲きました。自分の記憶を姉様やお母様の視点から聞くと全く違ったものに思えてとても楽しい時間です。
「そういえばレティ、いい感じの殿方はいないのかしら? 貴族ではないのだから自由恋愛できるのよね?」
なんだかとても瞳を輝かせて二ム姉様がわたくしに詰め寄る様に話し掛けました。
「え? そんな……わたくしお仕事で手一杯ですので、特にそのような事はありませんけれども……」
「二ム姉様、レティがそういったものに興味無いのは知っていますでしょう?」
リア姉様は落ち着いた様子でお茶を飲みつつ仰います。
「二ムルディ、はしたないですよ。母はレティが元気であればそれで十分です……。でも、もしそういう方が現れたら密かに紹介して貰いたいですわ」
「お母様も気になっているじゃない~」
二ム姉様が声に出して笑い、リア姉様は溜め息をついて含み笑いしていました。
「それは……親ですもの、仕方ありません」
お母様は照れたように目を逸らしました。
(わたくし多分そういったものとは縁遠いと思っていますので、お母様やお姉様方のご期待には沿えそうにありませんけれど……)
――楽しい時間は過ぎて、お茶会もお開きになりました。帰り際にお母様が命じたメイドがわたくしに紙袋を渡してくれました。
「あの、これは?」
「今日のお菓子の残りですけれども、ベルエイルに持って帰ってあげて?」
お母様は微笑んでいました。
「あの子は、再び貴女の元で働いてくれているようですね」
このお茶会に際して連絡を取り持ってくれたのはベルエイルですから、ご存じなのは当たり前ですね。
「はい、とても助かっています」
「彼女にも以前は嫌な思いをさせてしまいました、宜しく伝えて頂戴?」
(わたくしが追放されたときに暇を出されたことでしょうか?)
「はい、伝えておきます」
もっと早く母や姉様達とこうしてお話出来ていれば……と思いましたが、今のわたくしだから出来ているのかもしれないとも思います。「もし……であれば」というのは考えても仕方のない事、今こうして楽しくお話出来るという幸せを噛みしめよう、そう考えるようにしました。
 




