第一三四話「甲冑亜竜」
――鱗鎧の如き銀色の鱗を纏った暴君亜竜……もとい、甲冑亜竜が威嚇の様な咆哮を上げます。
「来るぞ!」
ゲイルさんが叫ぶタイミングで甲冑亜竜は突進してきました。文献に記されていた通り、見た目より素早い動きです。前傾姿勢のまま長い尾でバランスを取るようにして口を開き、噛みついてきます。
三人はバラバラに散開して距離を取りました。
(かなり硬そうですね……しかも素早い)
甲冑亜竜はそのまま動きを止めず、踵を返してゲイルさんに向かって行きます。
ゲイルさんは甲冑亜竜の牙や脚の攻撃を躱しつつ戦斧で反撃しますが、硬い鱗に当たって火花を散らしています。
「硬ぇっ! こんなの岩じゃねえか?!」
ふと、自分の身体に付与魔法の効果を感じました。ヲチャさんの精霊魔術です。更に両手を組合せて印を結び、呪文を唱えて自分自身もに付与魔法をかけている様です。
その間、甲冑亜竜はゲイルさんを執拗に狙います。その後ろからルーテシアさんが自在棍を棒高跳びの様にして跳躍し、空中から打ち下ろすように攻撃しました。
ルーテシアさんはそのまま甲冑亜竜の背中に着地します。そして背中を足場にして跳躍して距離を取ります。甲冑亜竜はルーテシアさんが跳んだ方に向き直り、ゲイルさんから目標を変えました。その流れで甲冑亜竜の行動に隙が生まれます。
「気ぃ反らしたな!」
ゲイルさんは甲冑亜竜の腹部に戦斧を真っ向から打ち下ろしました。腹部には鱗が無いので戦斧の刃がめり込み、流石の甲冑亜竜も悲鳴の様な咆哮を上げます。
「もう一丁!」
ゲイルさんは打ち下ろした戦斧をそのまま振り上げました、しかし甲冑亜竜は身体を捻ったと思うと、太い尾で鞭の如く薙ぎ払いました。
攻撃態勢にあったゲイルさんは、人の脚よりも太く数メートル以上はある大きく長い尾の一撃をまともに受けて弾け飛びます。「バキン」という金属音が割れる音と「グシャリ」という肉と骨が砕ける音が聞こえ、部屋の外壁に激突しました。
「ゲ、ゲイルさん!?」
ゲイルさんが叩きつけられた壁には大量の血糊が飛び散り、倒れたまま動きません。甲冑亜竜はゲイルさんを一瞥するとルーテシアさんに向かいます。
「ルーテシアさん!」
「君は君の出来る事を!」
甲冑亜竜の猛攻をルーテシアさんは体術で躱していますが反撃せず、回避に専念している様です。
(わ、わたくしに……出来る……事……)
ゲイルさんの安否が気になります、しかもかなり不味そうな音が聞こえました。「もしかしたら」そんな悪い想像が浮かび、手が震え思考が混乱しています。
(駄目です、冷静にならなくては……)
「ヲチャさん、どうすれば……」
わたくしは居ても立っても居られずヲチャさんに助けを求めます。
「ゲイルなら大丈夫だ、君は装置の制御に専念してくれ」
(大丈夫と言われましても……いえ、わたくしが悩んでも仕方ないです)
わたくしは台座に設置された金属板に注視します。先程の数値が0になった事の意味は、推測では転移してくる魔獣の事だとは思いますが、確信は持てません。
(今この瞬間に新たな魔獣が転移してきたら、堪ったものではありませんよね)
『転移を止めて下さい』
わたくしが台座に向かって辺境語で話し掛けると、金属板の光る文字が「転移」から「停止」に変わりました。転移装置の部屋の中心にある石柱と床の紋様の光が消え、低く響いていた音も止まりました。
「取り敢えず装置は止めました!」
わたくしは声を張って皆さんに伝えます。
『……鬼火』
ヲチャさんの周りに光の球……精霊、鬼火が幾つも現れました。
(え、ええ! 鬼火をそんなにも!?)
一〇以上の鬼火達はヲチャさんの指示で様々な軌道を描き、甲冑亜竜を囲む様にして全方位から襲い掛かります――。




