第一三二話「マンティコアとの戦い」
――転移装置から現れたマンティコアと対峙したわたくしとルーテシアさんでしたが、マンティコアが先制して光の矢の魔法を唱えました。その光の矢五つのうち三つがわたくしに、二つがルーテシアさんに向かって飛びます。
(棘付盾で防げるでしょうか?!)
そう思うや否や棘付盾はわたくしの目の前で淡い光を放ち、三つの光の矢を素早く動いて防ぎます。光の矢は破裂音と閃光とともに砕け散りました。
「ありがとうございます……」
やはり、四〇人の盗賊はそれぞれ魔力を帯びていますから攻撃魔法を防ぐ事が出来るのでしょう。一方ルーテシアさんは、軽やかな身のこなしで光の矢を回避していました。
(魔法で防ぐか自分自身の魔力で抵抗するしかない攻撃魔法を体術で回避……相変わらず不思議ですね破術というのは)
接近したルーテシアさんに向けて、マンティコアは身体を捻ってサソリの様な尾をしならせ、反動をつけて槍の如く突き出しました。ルーテシアさんはマンティコアの尾を自在棍で弾きます。マンティコアは弾かれてもまた素早く尾を突き出し、ルーテシアさんもそれをまた自在棍で弾きます。
ルーテシアさんとマンティコアは自在棍とサソリの尾を激しく連続で打ち合わせ、周囲にはその音が何度も響いていました。
(好機です!)
わたくしは大身槍をルーテシアさんの反対側からマンティコアを突き刺す様にイメージし、首領の剣で指し示します。
大身槍はマンティコアの背後から回り込み、放物線を描いて飛びました。すると、マンティコアはそれを察知した様で、跳躍し距離をとりました。
大身槍は床に当たり火花を散らしてから再びわたくしの傍まで戻ります。
「勘付かれた?!」
(これでは不意をつくのも難しそうです……)
「魔剣の魔力を察知しているのかもしれんな……む、魔法が来るぞ」
ルーテシアさんが警戒を促すと、マンティコアがまた呪文を囁きはじめました。
「あれは……稲妻だ! 気をつけろ、盾で防いでも周囲に電流が走るぞ!」
棘付盾がわたくしを護るように前に出ます。すると、マンティコアの目前に火花が散り、閃光と轟音が轟きわたり棘付盾が弾けて回転し、床や壁にぶつかりました。わたくしもそれを躱す為に飛び退きながら床に転がる様に伏せます。
危険な状況なので、伏せた時に床にぶつかった痛みをこらえながらすぐに態勢を立て直します。顔を上げると、ルーテシアさんがマンティコアと素手で対峙していました。
ルーテシアさんは、数メートル離れたマンティコアに向けて手で何か引っ張る様な素振りをしました、すると……。
「ええっ?!」
マンティコアは手綱を引っ張られたかのように突然「グイ」引き寄せられ、ルーテシアさんは引っ張る仕草から流れるような動きで身体を捻り、後ろ回し蹴りをマンティコアの顔面に入れました。
マンティコアは悲鳴の様な咆哮を上げながら後ずさり、悶えています。
(何ですか……あれも破術?!)
ルーテシアさんは床に置いていた自在棍を足に引っ掛けて蹴るように前方に高く跳ね上げました。跳躍しながらそれを掴むと、宙返りの遠心力で加速させた自在棍をマンティコアの頭部に打ち下ろします。
マンティコアは悲鳴を上げてのたうち回りました。ルーテシアさんはさらに追撃の態勢を取りますが、マンティコアのサソリの尾が別の生き物の様に動き、ルーテシアさんに向かってまるで蛇の様な動きで反撃してきました。それを自在棍で弾くと後方へ何度か軽く跳躍して距離を取ります。
「流石に魔獣は頑丈だな、そう簡単に攻めきれん。レティ、まだやれるな?」
「はい、大丈夫です!」
そしてマンティコアは再び囁き始めます。また魔法でしょうか……わたくしは警戒し、棘付盾を目の前に配置します。
様子を伺っていると、マンティコアの身体が淡い緑色の光に包まれました。
「癒しまで使うのか……一気に仕留めなければならん。奴の動きを封じる、そちらに引き付けてくれ」
「はい、わかりました!」
そのやり取りの間にマンティコアは癒しの効果で、ルーテシアさんに受けた傷が塞がり癒えている様でした。わたくしはマンティコアの注意を引く為に大身槍と棘付盾を合わせてガンガンと音を鳴らします。
「こっちです、来なさい!」
続けて首領の剣で指し示し、大身槍をマンティコアに向け飛ばしました。
マンティコアは大身槍の攻撃を躱しつつ、サソリの尾で大身槍と激しく突き合っています。わたくしは牽制に短剣を三本呼び出し、マンティコアに向けて放ちました。
すると、ルーテシアさんの言ったように魔力を感知したのか、短剣の方を見ずに回避しつつわたくしに向けて前脚を振り上げて飛び掛かってきました。
棘付盾が間に入り、マンティコアの前脚を防ぎます。わたくしは距離を取りつつ大身槍をマンティコアに向けて放ちますが、それも咄嗟に躱されました。
マンティコアは再び魔法の呪文を囁き始めると、その目前に火花が散ります。
「また稲妻?!」
ルーテシアさんがマンティコアとわたくしの間に入ります。そして両手を組合せて複雑な印を結びました。
「ゴアァァ!!」
魔法を唱えかけていたマンティコアが悲鳴を上げ見えない縄で縛られる様に硬直しました。
「動きを封じた。だが、長くは保たん!」
ルーテシアさんの言葉で、わたくしはマンティコアの頭上に向けて首領の剣を向けます。
『魔剣たちよ出でよ!』
マンティコアの頭上の天井辺りに光る紋様が幾つも浮かび、そこから偃月刀、戦斧、丸太棍棒、屠殺包丁、戦輪……そして無数の短剣が真下のマンティコアに向けて一斉に、雨のように降り注ぎました。
マンティコアにはまず戦輪と無数の短剣が身体中刺さり、悲鳴の様な咆哮を上げました。その直後に偃月刀や戦斧などが刺さってから頭部を丸太棍棒が衝くよう潰してしまったので、そのまま動かなくなりました。




