第一二八話「三人の冒険者、再び」
――こうして、探索の準備や同行を依頼する冒険者の手配にひと月程かかりました。その冒険者との合流は、帝都で待つよりも目的の遺跡に最寄りの町のほうが早いということで、帝都より北に馬車で三日程にあるトカヤムという町まで行き、町の酒場兼宿屋で待ち合わせしています。
酒場が見渡せる角の席に座って待っていると、見覚えのある冒険者風の三人組が入ってきます。その方々は暫く店内を見回し、わたくしを見つけると近づいてきました。
お一人は、二メートル近い長身で筋骨隆々とした戦士風の男性。無造作に伸ばした金髪を後頭部で結んでいます。革と金属製の胸鎧を着て腰には片手半剣を差しています。
もう一人は、その金髪の男性より背が高く、筋骨隆々とした褐色の肌に複雑な紋様の入れ墨があります。赤銅色の髪を複雑に編み込んでいる辺境民族風の男性――独特な形の腕輪や首飾りを身に着け、背中には大きな木製の棍棒を背負っていました。
そして、あと一人は女性ですけど、その二人と比較すると小柄に見えますが女性としては背が高く、わたくしよりも頭ひとつ以上は高そうです。長い黒髪を後頭部でポニーテールに結んでいて、黒い軟質革鎧と、動きやすそうな密着度がある露出の少ない黒い上衣と下履きを着ていました。武器らしきものは持っていない様です。
この方々は、かつて幻の秘薬を求めて辺境の地下迷宮に赴いた時に最深部で出会った冒険者の方々です。わたくしは立ち上がり会釈をして握手を交わします。
「久しいな、レティ・ロズヘッジ。出世したと聞いたぞ」
「お久しぶりです、ルーテシアさん。まさか貴女方でしたか」
まずご挨拶したのは、黒髪の女性はルーテシア・ペラーさんです。確か破術師という、対魔術の特殊な術を使う珍しい方です。古代魔法帝国の危険な負の遺産を処分して周っていると仰っていました。
「よお、鑑定士の嬢ちゃん。お仲間は忙しいのかい?」
「はい、本部周辺のイェンキャスト方面で怪物が沢山発生して動けないらしくて……申し訳ありません」
金髪の戦士はゲイルさんです。キマイラの脚で打たれたり炎の息吹に曝されたりしても傷一つ追わなかったということでしたが、何か魔道具などを身に着けておられるのでしょうか、お伺いしたいですね。
「レティ、姉が世話になっている。息災にしているか?」
「はい、お元気ですよ。お姉様には辺境語を通じて古代語の解読に協力頂いています」
この方はヤイ・ヲチャさんです。赤銅色の髪を独特な形に編み込んだ褐色の肌の巨漢の男性は辺境出身で、わたくしの所属する冒険者ギルド、おさんぽ日和の一員のウゥマさんの実弟です。
「バフェッジさんからお名前を聞いた時に驚きました。またご縁があるなんて」
「レティ、君が魔道具に係る者だと聞いていたから、いずれまた会うこともあるだろうとは思っていたよ」
わたくしは皆さんに着席を促してテーブル席につきました。
「嬢ちゃん、ここの払いも依頼主持ちかい?」
ゲイルさんは酒場のメニューが書かれた木の板を見ながらそう言いました。
「え、あ、はい。でも、予算も無限ではないので加減して頂けると助かります」
(確かこのパーティーはお三方とも前衛でしたよね……)
前衛を務める方々はとにかく沢山召し上がる、というのはわたくしの経験です。
「我々も普段から、それなりの依頼主にそれなりの報酬を貰っている冒険者だ。当然弁えているつもりだが、なあ? ゲイル」
「お、おう。当然だろうが、こんな嬢ちゃんに集るかよ。冗談に決まってるだろ……」
ゲイルさんはヤイ・ヲチャさんに言われて苦笑いしています。
「自分で払う分には構わないだろう? おい、注文を頼む」
ルーテシアさんは手を上げて給仕を呼びます。そして給仕に沢山の料理を注文していました。
――その後、沢山のお料理とお酒を容易く平らげるお三方を見ているとおさんぽ日和の皆との食事を思い出して、少し寂しさの様な感情が湧きました。
(また、皆さんと賑やかにお食事したいですね……)
食後のお茶を頂いているときに、わたくしはふとルーテシアさんが操る「破術」というものを思い出しました。かつて地下迷宮で出会い共闘した時に、ルーテシアさんは破術というものを使い、光の矢を躱したり魔法罠の拘束を自力で打ち破ったりしていました。
「ルーテシアさん、貴女の使う破術というものはどういうもの……でしょうか?」
ルーテシアさんは「ふむ」と腕組みをします。
「すみません、もし秘術で明かせないということであれば結構ですけれど……」
「君にも分かる様端的に言えば、魔術を破るために特化した系統の術だよ魔を破す術、つまり破術だ」
ルーテシアさんは腕組みをして右手を顎先に手を添えながらそう答えます。
「魔術を破る為の……魔法の盾や解呪とは違うのですか?」
「魔法の盾や解呪も結局は魔術だ、破術は術系統そのものが異なる」
通常なら光の矢などの魔法の矢は認識した対象を捉えたら、その対象に向かって飛ぶ。躱すことは出来ず、防ぐしかないのです。
「……どういう理屈なのですか?」
「それを説明して理解出来ればいいが、長くなるぞ?」
ルーテシアさんはさらりと言われます。
「ま、またの機会に……」
魔法の事は触りしか知らない――術師ではない専門外のわたくしには難しいのだろうと思い、苦笑いして話題を流しました。
 




