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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第六部 公認鑑定士編

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第一二〇話「転移装置の調査」

――わたくしが帝国公認魔道具鑑定師になって一年程経った頃、宰相閣下からの指示で帝都、皇宮地下の転移装置(テレポーター)が限定的にでも使用可能にならないか調査して欲しいという依頼を受けました。昨年の温泉遺跡爆発災害を機に、迅速に対応するために古代文明を利用できないか、その調査の第一歩とのことです。



古代魔法帝国語辞典を片手に(片手に持てる大きさ、重さではないので比喩表現ですよ?)、古文書を掻き集め読み解くという作業に追われていました。


「レティさん、転移追放刑記録の閲覧許可が降りましたので持ってきましたよ」


「ありがとうございます、テュシーさん」


この方はテュシー・ロバイアさん。以前、書物大祭(ビブリオフェスタ)の露店でお隣同士になった方です。その時は存じ上げなかったのですが、本名はテュセイリア・ロンブロイン様で侯爵家のご令嬢でした。ロンブロイン侯爵家は歴代大臣を輩出している名家です。


その末妹である彼女は身分を隠して本を出版したり蒐集しているとのことです。わたくし同様小柄な方で、目元を前髪で隠しておられる幼さの残る顔立ちでしたので、歳下か同年代とばかり思っていましたが、お聞きすると歳上でしたので驚きました。


書物や言語、帝国史にお詳しいので、わたくしの補佐としてグルマイレン侯爵に依頼されたとのこと。こうして書物を探して一緒に内容を調べて頂いています。


本来わたくしは、口などきける立場では無い程まったく身分が違う方ですが、気さくで腰が低く、書物大祭(ビブリオフェスタ)でお会いした時と変わらぬ関係をお望みでしたので、その様に接させて頂いています。


「あ、あの……レティさん、この記録は、その……貴女が見ても大丈夫ですか?」


テュシーさんは何か不安そうな表情でわたくしの顔を見ています。


「はい、わたくしは帝国公認魔道具鑑定師として関係資料の閲覧は許可されていますので……」


「あ、いや、そうではなくて……これ、転移追放刑の執行記録ですよね? その、レティさんはかつて……」



(ああ、テュシーさんはわたくしにお気遣い下さっているのですね?)



「大丈夫です、もう過去の事ですので」


わたくしは一番新しい記録を開きます。そこには「ラルケイギア子爵四女ネレスティ、帝国不敬罪、詐欺罪により執行」と記されていました。そしてそれには訂正の線が引かれていて、末尾には「上記は冤罪であることが判明した為同人の罪は無きものとするが、刑は執行された故に記録として残すものである」とも記されていました。そして、これ以降の転移追放刑は執行されていません。



(良かった……陛下はこの装置を処刑に使う事を禁じられたのでしょうね)



わたくしはテュシーさんにそのページをお見せします。


「凄いですよ、こんな公的な記録に自分の事が書かれているなんて不思議な感じです」


わたくしは意識的に笑顔でテュシーさんに語りかけました。その様子を見てテュシーさんも安堵の表情を浮かべます。



(実際、もう考えてもどうにもならない過去の事ですし、今があるのはこの出来事の結果ですからね)



更に記録を幾つも読んでいくと、転移追放された人の殆どは帰らぬ人と記されています。中には皇宮の中に現れたという事例もありました。



(わたくしは浮き島よりここに転移してきましたよね?)



一方的に転移させる装置ではなくて、本来は転移装置(テレポーター)同士に関係があるのかもしれません。わたくしは転移装置(テレポーター)を操作して動力を入れます。床に描かれた直径一〇メートル程の紋様が青く淡く光を放ち始め、紋様の周囲に並ぶ人間程の太さと高さの円柱も同様に淡く光りました。


「れ、レティさん? 何をなさるのですか?!」


テュシーさんは驚き、引きつったような顔をされました。



(ああ、そうですよね)



テュシーさんは今まさにこの装置を使った処刑記録を読まれた所でした。以前のわたくしならばテュシーさんと同じ様な反応だったのかもしれませんけど……。



(冒険者として活動して、生命の危機に何度も遭遇していると、肝も座るということでしょうね)



それに、未知の事は恐怖ですから、逐一ご説明した方が良さそうです。


転移装置(テレポーター)の動力を入れました。何かを転移させる事はしないのでご安心下さい」


「え、あ……はい」


テュシーさんは少し落ち着かれましたが、不安そうな表情は変わりません。


「装置自体に記録されていないのか調べようと思います」


わたくしは補足で説明してから操作のため台座の前に立ちます。台座の上部は光る文字が明滅する金属板が埋め込まれていて、その前にある古代文字盤の文字が淡く光っています。


お借りしている転移追放刑に用いる手引き書を片手に台座の文字盤と金属板を眺めます。少し慣れてきたのか、テュシーさんは転移装置の光る円柱を興味深く觀察していました。


「あの、テュシーさん。わたくしも転移装置(テレポーター)については分からない事の方が多いので誤作動の危険がありますから、稼働させている時は少し離れていた方が……」


その言葉にテュシーさんは慌ててわたくしの元まで駆け寄って背中に隠れる様にしがみつきました。


「そ、そこまでは……」


苦笑いしていると、テュシーさんは金属板を指差します。


「これは、何と書かれているいるのです?」


「えっと、全部は分からないのですが……これは、転送、場所、定める……でしょうか」



(ということは、任意に場所を指定出来るということでしょうか?)



でも、手引き書には場所を指定する方法は一切書かれていませんし、触れられてもいません。


「もしかして、場所の指定が無かったから無作為な転移になってしまった……とか?」


「え、どういうことですか?」


わたくしが推測したのは、転移装置(テレポーター)同士が何らかの力で繋がっていて、それを魔術的な力で転移させているのでは、ということでした。


「レティさん、確かに失われた古代魔法の中には転移の魔法もあると聞いたことがあります」


今は失われていますが、魔術結晶に魔力や魔法を込める技術があったのは事実ですし、それらが魔道具として残っています。


「各地に残る転移装置(テレポーター)で、まだ生きているものもありました。それらが使える様になれば……」


「歴史が変わりますね、何日も何十日もかかる移動が一瞬で出来るようになりますよ!」


「しかし、現存する転移装置(テレポーター)の大半は古代遺跡の中にあります、つまり危険な地下迷宮の中です」


「え、あ……なるほど、確かにそうなりますね」


転移装置(テレポーター)の中には、どういう用途か分かりませんが、魔物を転送し続けるものもあります……まだまだ調査が必要です」


(この装置も喋りかけたら反応してくれるかもしれませんね)


転移装置(テレポーター)の場所は分かりますか? 教えて頂けませんか?』


わたくしは辺境語で装置の台座に話しかけます。


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