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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第五部 古代遺跡探索編

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第一一二話「レティと戦輪」

わたくしは噴泉亜竜(ゲイザードレイク)の囮になるためにその広い場所に立って待ち構えます。水柱を上げて温水溜まりから頭を出した噴泉亜竜(ゲイザードレイク)は頬を膨らませてわたくしに向けて熱湯を吐く挙動を見せました。


わたくしは首領の剣を噴泉亜竜(ゲイザードレイク)に向け、あらかじめ待ち構えて貰っていた戦輪(チャクラム)達に襲い掛かる様に指示します。


四方から一斉に噴泉亜竜(ゲイザードレイク)の頭部を斬りつける戦輪(チャクラム)の攻撃に、口の端から熱湯を垂れ流して藻掻きながらこちらに向かってきます。そして岸に身体を乗り上げ、わたくしに向かって再び頬と喉を膨らませました。隠れる場所が無いのでこのまま熱湯を噴き掛けられたらわたくしはただでは済みません。


「伏せろ!」


ディロンさんの叫び声でわたくしはその場に伏せました。


『……凍結(フリージング)!』


伏せると同時に激しい水音と、ファナさんが魔法を唱える声が聞こえました。周囲の空気が一気に凍てつき、そしてわたくしの上から大量のぬるま湯の様なものが降ってきました。


『……水の投擲槍(ウォータージャベリン)


直後にディロンさんが精霊魔術を唱えたようです。激しい水音と「バキバキ」と何かが固まる音、そして何かが肉に突き刺さる嫌な音がひと時に響き渡りました。


わたくしが顔を上げると、噴泉亜竜(ゲイザードレイク)の口の中には氷の杭の様なものが刺さっています。恐る恐るその様子を観察すると、氷の杭は口の中から頭の後ろまで貫通していました。噴泉亜竜(ゲイザードレイク)の大きな身体は力を失くしていて、口からは大量の温水が流れ出てきて氷の杭はみるみるうちに溶けて小さくなってゆきます。


「精霊たちは噴泉亜竜(ゲイザードレイク)は死んだと言っているな」


ディロンさんは精霊探知(エレメンタルセンス)で精霊に聞いたみたいです。わたくしはファナさんがどちらに居るのか見回すと、瓦礫にもたれて座り込んでいました。


「ファナさん!?」


駆け寄って身体を確かめるために顔に触れると、ファナさんはわたくしの手に手を重ねました。


「やったね……なんとかなったね、レティ」


「ファナさん!」


「大丈夫……魔力切れだから……眠いだけ……」


ファナさんは寝息を立て始めました。わたくしは溜め息をついてファナさんの横に座りました。アンさんは無事治療が終わった様で、マーシウさんとディロンさんと一緒に噴泉亜竜(ゲイザードレイク)の死骸を調べています。



(良かったです……みんな無事ですね……)



安心してわたくしもいつの間にか意識を失います。



――ふと気が付くと、わたくしはまた霧か靄の中で横になっていました。起き上がると隣には浅黒い肌で長い黒髪と無精ひげの精悍な顔つきの中年男性……四〇人の盗賊フォーティバンディッツの首領さんが座っていました。


「よお、(あるじ)。なかなかヤバかったじゃねえか?」


「ここは……また貴方たちの心の中ですか?」


首領さんは無言で微笑むとして「おい、主に挨拶しな」と霧の向こうへ声をかけました。


「主、お初にお目にかかります……」


わたくしは後ろから声を掛けられて「ひゃぁ?!」と素っ頓狂な声を出してしまいました。


「失礼いたしました……ずっとこちらに控えておりまして……お気づきかとばかり……」


振り返ると、そこに赤銅色の髪を複雑に編み込んだ褐色の肌の長身の女性が片膝をついて控えていました。わたくしの知る辺境民族のような容姿の方です。


戦輪(チャクラム)のクルール、以後お見知りおきを――」


クルールさんの腰のベルトには確かに戦輪(チャクラム)が四つ下げられていいて、それは先程のものと同じです。


「先ほどは有難うございました、こちらこそ宜しくお願いします」


わたくしはクルールさんに向き直って頭を下げました。すると眩暈がして意識が遠のきます。






「……レティ、レティ?」


わたくしは名前を呼ばれて目を醒まします。シオリさんとファナさんがわたくしを見つめていました。


「あ……わたくしもファナさんと一緒に気を失ってしまったようです、恐らく魔剣や魔道具の使い過ぎかもしれません」


シオリさんは短く溜め息をついて微笑みます。


「身体は、大丈夫?」


わたくしは「はい」と返事をしながら立ち上がり、腕を回したり腰を捻ったりして身体の具合を確かめます。すると、アンさんの「おーい」と呼ぶ声がしましたので、わたくし達はそちらへ向かいます。


それは噴泉亜竜(ゲイザードレイク)の居た広い温水溜まりの対岸です。瓦礫を避けながらなので、少し時間が掛かりましたがなんとか辿り着くと、アンさんとマーシウさんとディロンさんが居ました。


「レティ、ごめんね……肝心な時に大怪我しちゃってさ」


「いえ、アンさん。それは全然……何か見つかったのですか?」


アンさんが指さした方には部屋の入り口の様なものがあり、中は直径二〇メートル程度の半球形の部屋です。中央の床には直径一〇メートルくらいの紋様が描かれていて、それを囲む様に直径一メートル、高さ二メートル程の円柱が並んでいて、そのうちのひとつは腰ほどの高さの四角い台座になっていて約一メートル四方の金属板が縦に設置されていました。


もはや見慣れた気もする古代の装置、それはおそらく転移装置(テレポーター)でしょう。


「レティ、これは……アレか?」


マーシウさんが少し険しい表情で部屋の中を見つめながら言いました。


「はい、十中八九そうでしょう。今まで見たものと同じ造りですので……少し調べてみましょうか?」


わたくしは皆さんに伺うようにそれぞれの顔を見ます。皆さん目配せをしてから頷きました。


「慎重に頼むよ……」


マーシウさんは苦笑いしていました。流石のわたくしももう不用意に触れることはしませんけれど……。


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