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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
第四部 鑑定令嬢の日常編

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第一〇四話「余談 ~ファナの場合」

――わたしはファナ、ファナ・モンティ。天才魔術師(メイジ)……まあ自称なんだけど、覚えた魔法に自分の魔力がついていかないから、しょっちゅう魔力の使いすぎで倒れちゃうのよね。


でも、少しずつ背も伸びて大人になってるし、最近は魔力もだいぶ増えてきたから本当の意味で天才魔術師(メイジ)になる日は近い……のかな?


今日は育ててくれたセレス婆ちゃんの命日で、イェンキャストの街外れにある墓地に来てる。


「もう、何年だろ。ええっと、七年かな。セレス婆ちゃん、なんとかやってるよ。最近使える魔法も増えたよ。婆ちゃん死ぬ前に一通り教えてくれたのにね、ファナの魔力がついていかないからまだ半分も使えないけど」


こんな風にセレス婆ちゃんの墓に最近あったことを話しかけてるんだ。まあそれで色々頭の整理とか出来るし、死んだ婆ちゃんと話ししてる気がして好きな時間なんだ。


「ファナ、今日がセレス・モンティ師の命日だったかな」


後ろから呼びかけられて振り向くとドヴァン爺ちゃんだった。少し離れたところにメイダが居てわたしに小さく手を振ってる。爺ちゃんの護衛だから出かける時は大体付いてくるんだよね、メイダ。


「爺ちゃんどうしたのこんなとこで?」


「ファナと同じだよ、儂も祈らせて貰っていいかな?」


ファナが「いいよ」と言うと爺ちゃんはお墓の前に膝をついて手のひらを胸の前で合わせる仕草をした。確か、これは帝国貴族の最敬礼だってレティが言ってた。


「ありがと。でもさ、ドヴァン爺ちゃんってその……凄く偉い人なんだよね? なんでセレス婆ちゃんと知り合いだったの?」


ドヴァン爺ちゃんは「ふむ」って言いながら顎髭を撫でた、爺ちゃんが考える時の癖だね。


「セレスほどの魔術師(メイジ)は帝国でもそう居らんかったからのう、魔術の顧問をして貰っていた事もあったんじゃよ」



(爺ちゃんて昔、帝国の宰相をやってたんでしょ? その魔術顧問って……)



「婆ちゃん凄かったんだね……」


「でも、彼女には貴族社会や(まつりごと)に関わる事で嫌な思いをたくさんさせてしまったからな、申し訳なかった」


ドヴァン爺ちゃんは普段は見ないしょんぼりとした顔をしてた。わたしはちょっと気まずくなって話題を変えることにした。


「でもでも、ファナは爺ちゃんの事大好きだよ?」


わたしがそういうとドヴァン爺ちゃんは微笑んで「そうか――」と呟いて空をみつめてた。


「セレス婆ちゃんて若い頃はどんなだったの?」


「出会ったのは若い頃だ、彼女の方が年上だったが背は低かったな。ちょうど今のファナくらいか――」



(背が低いかあ、わたしも最近結構背が伸びてレティをちょっとだけ追い越したんだけどなあ……)



「小柄だったが気風(きっぷ)が良くはっきりと物を言う性格で、当時の皇帝陛下にも物怖じせず儂も何度肝を冷やしたか分からんかった」


「婆ちゃん怒ると怖かったけど、若い頃からそんなだったの?」


「ああ。儂が若くして二〇で宮廷書記官を任ぜられた時セレスは二二だったかな、宮廷魔術師の一人だった。先々帝陛下は既にかなり高齢だったが、とても厳しく威厳のあるお方じゃった。その陛下にもズケズケと間違いを指摘し周りが青い顔をする中、陛下は笑っておられた」


「うわ……でもなんかセレス婆ちゃんらしいね」


婆ちゃんは良いことをしたらうんと褒めてくれたけど、悪いことをしたらめちゃくちゃ怒られたからね、若い頃からそうだったんだ。


「何年かしてその先々帝陛下や高齢の官僚たちが身罷られ、即位した先帝はそれを期に官僚を若手に替え改革をした。その時に儂も宰相に任じられたんだが、まあ色々な貴族間のゴタゴタが続いてな……セレスはそれに嫌気がさして宮廷魔術師を辞め故郷のイェンキャストに帰った」


「そんなことあったんだね……」



(セレス婆ちゃんそういうことは全然言わなかったけど、あんまり思い出したく無い事だったのかな?)



「ドヴァン爺ちゃんの事も死ぬ前に急に言い出して、私が死んだら頼れって……あ、でも婆ちゃんの昔話に時々出て来てたのって……」


ドヴァン爺ちゃんは「ほう」と言ってどんな事か聞いてきた。


「若い頃一緒に仕事した仲間が、日和見主義の頼り無いお坊ちゃんだと思ったら実は案外策士で見直したって、それってもしかして爺ちゃんの事だったのかな?」


爺ちゃんはわたしの言ったことに一瞬キョトンとしてから声に出して笑った。


「そうかそうか……ふむふむ」


爺ちゃんは嬉しそうに頷いてた。


「セレス婆ちゃん、その人の事話す時は結構嬉しそうな顔してたから、ひょっとしたら昔好きだった人なんじゃないかって思ってたけど、ドヴァン爺ちゃんとセレス婆ちゃんて……」


わたしがそんな事を言うと、ドヴァン爺ちゃんはまた「ふむ」と言いながら髭を撫でた。


「さあ、どうかな……まあ、立場が全く違ったからのう。家柄や血筋というやつは如何ともし難いものじゃからな」


ドヴァン爺ちゃんは遠くを見つめる様な表情をしてたから、わたしもそれ以上は聞かなかった。


「ファナ、儂は"小さな友の家(プチフレンズ)"に戻るが、お前はどうする?」


「ファナも一緒に帰るよ」



(わたしは孤児だけど、セレス婆ちゃんが本当の婆ちゃんみたいだって思ってて、ドヴァン爺ちゃんも本当の爺ちゃんみたいに思ってたけど、あながち間違ってなかったのかもしれないね――)



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