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やるせなき脱力神番外編 副社長編  作者: 伊達サクット
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番外編「副社長編」4

「どうです。美味しかったですか?」

「う~ん。何か新鮮じゃない。人工的に復活させた命なんてこんなもんかって感じかな?」

「そうでしたか」

「やっぱクストのが一番いい!」

 突如、リティカルがクストに覆いかぶさり、彼の体を押し倒した。床に仰向けに倒れるクスト。

「ちょちょちょ! 待って待って待って、こんな所で! 僕のなんて後でいくらでも吸えるんだから」

「もう我慢できない!」

 胸元の口が牙を向き、じっとりと情熱を帯びた、凶暴かつ魅惑の吐息がクストに吹きかかる。

「こんなところ見られたらヤバいですって」

「もうばれたっていい。辛いんだよこんな気持ち。分かるだろ。一緒に冥王様から罰を受けよう」

 クストは若干焦りを覚えた。過剰に生命エネルギーを吸収し過ぎて、自分自身を制御できなくなっているのだろう。

「絶対後悔します!」

「後悔させて。抵抗するならしろよ」

 リティカルが四つん這いになって胸を突き出し、クストの首筋にぐいぐいと押し付ける。

 抵抗したところで、クストが百人いてもリティカル一人に到底敵わないだろう。牙は喉元めがけて眼前まで迫った。

 普段は衣服で隠れる部位から吸わせるのだが、本能的にリティカルは獲物の首筋からエネルギーを吸い取るのを好む。さすがに首筋に噛み傷を作られたら周囲に隠し通せない。

「だーめーでーすー!」

 クストが両手でリティカルの胸を鷲掴みにし、必死に牙を跳ね除ける。

「アタシが改造されるの最後まで庇ってくれたよね?」

「えっ?」

「クストの憧れだった先輩がこんな化け物にされたんだよ。可哀想だって思わないの? 変わり果てた哀れな憧れの先輩がこんなに望んでるんだから……」

 六枚の花びらが胸をつかむクストの両腕に絡みつく。

「駄目ですよ! 問題起こして『ウィーナ様』に迷惑かけていいんですか!」

 とっさにクストは切り札のカードを切った。こちらとしても緊急制御の為のキーワードを言うのは、『憧れの先輩』が強化人間になり果ててしまった事実を嫌でも再認識させられざるを得ないのでなるべく言いたくないのだが、仕方がない。

「『ウィーナ様』に……迷惑……」

 リティカルの瞳から燃えるような情熱の光が消え去っていく。牙が止まる。

「そうですよ。だから見られるとヤバいのをこうやって整理してるんですから。もうすぐ『ウィーナ様』の使いの者も到着するはずです」

『ウィーナ』という単語は、いくつかある緊急制御用のキーワードの一つだ。

 監視役のクストの口から、リティカルを抑える意図を有して発言されたときのみに発動する。ただ日常でこの単語を聞いただけで効果が表れるわけではない。

「……そうだね。こんなことしてる場合じゃない。……い、今は我慢してあげる……。クストを困らせたくないから」

「ありがとうございます」

「その代わり、後でね……」

 リティカルは顔を近づけ、クスト自分のと額をコツンと触れ合わせた。

「もちろん」

 リティカルはゆっくりと立ち上がり、胸に開く口を収納した。そこにあるのはただの胸の谷間。

 そして、長い前髪を掻き分け、胸の口ではなく、顔の口から言葉を発した。

「ウィーナ様から頂いたこの声の恩、返さないといけないわね」

 強化人間になったことで、リティカルは顔の口から声を出すことができなくなっていたが、ウィーナより『声』を与えられて、上下両方の口からしゃべれるようになったのだ。

 なぜか顔の口からは改造される前の彼女の言葉づかいで話し、胸の口からは乱暴な言葉づかいで話した。

「所長、全身凄い汗ですよ」

 クストが指摘する。彼女は呼吸を必要としていない体なのに、吐く息が荒い。相当な興奮状態にあることが見て取れる。

「気持ちが昂って……。テンション上がりっぱなし……。どうしようヤバい。闘気が、魔力が、どんどん溢れてくるんだけど……」

 リティカルが豊満な胸の谷間に手を当て、不要な深呼吸をした。普通の冥界人だった頃の癖は抜けない。

「生命エネルギーの取り込み過ぎでは。もう少しここで戦って発散した方が」

 クストが心配していうと、リティカルは思いだしたように首を横に振った。

「……い、いや、大丈夫……。これぐらいのエネルギー、ちゃんと自分の理性で制御できないと駄目よ。私は今までの失敗作達とは違う。私は完璧な理性を兼ね備えた強化人間。アイディアル・シリーズの最高傑作なのよ」

 リティカルは熱にうなされるように言った。クストにではなく、自分に言い聞かせるように。

「はい。その通りです」

 クストはそっとタオルをリティカルに手渡した。

 徐々に落ち着きを取り戻していくリティカルに安堵したが、クストは不安も覚えていた。

 確かに性能面では最高傑作といって差し支えない。だが、プロジェクトの集大成と言うべき彼女をもってしても、『改造の代償』という問題は解決できていない。

 リティカルが今言った『完璧な理性』などとは程遠い凶暴性・感情の起伏の激しさ、不安定さ。

 今の暴走も、彼女は自分の理性で思い留まったと思っている。自分がクストのキーワードでコントロールされているとは思っていない。

 このところ段々と精神が不安定になってきている。報告の際、ごまかす数値の幅も大きくなっていく。このままでは今のキーワードで制御しきれなくなるかもしれない。

 彼女に、改造時のような人格矯正や刷り込みは絶対にしたくない。また、更に強固なキーワードも設定したくない。それはリティカルの頭に負担がかかる。

 できればまたカプセルで、体に負担をかけないように再調整すれば安定するはずなのだが、肝心の本人がそれを嫌がる。

 カプセルでの再調整は、自分が強化人間として不完全だと認めることになるからだ。何とも難しい問題だ。

 彼女をこんな手段でコントロールしなければならないのは、まるで獣を調教しているようだ。

 せっかく憧れの人と恋仲になれたのに、もう、自分が知っているあの副研究長ではないんだな――。

 クストは少し悲しくなった。

 だから。

「所長」

 クストはリティカルの前に立ち、彼女の顔にそっと手を伸べた。そして長い前髪を払い、隠れていた瞳を見つめる。

 汗で額にべとつく前髪も、クストは丁寧に左右に払った。

 彼女はそっと目を閉じたので、クストは彼女の唇にキスをした。先程、胸元の口にしたときと同じように。



 マッスル一行は理想研究所に辿りついた。外観は今までの旧邸とさして変わらないが、内部は別物と言えるものになっている。

 その正門は、リティカルの直属である中核従者・ヤマモトヤマが退屈そうに門番をしていた。

 派手なアロハシャツと天然パンチパーマの、人相の悪いチンピラ風の男だ。

 理想研究所にはワルキュリア・カンパニーに在籍していない研究所所属のスタッフの他に、ワルキュリア・カンパニー側より配属されたウィーナ隊の戦闘員も、旧邸の護衛も兼ねて勤務している。

 彼らの多くは旧邸が研究所に改造される前から、ここを管理・警備する役目を担っていた者達だ。

「……ってちょちょちょ! 何なんスか!? 何なんスか!?」

 ヤマモトヤマは壊れた魔動車を担いできたマッスルに面食らった。

「途中で車が壊れてもうた」

「『壊れた』んじゃなくて『壊した』んでしょうが!」

 レイリンがすかさず口を挟んだ。

「何なんスか!? 何なんスか!?」

「ちょっとそこに置かせてもらうで。後で修理せな」

「何なんスか!? 何なんスか!?」

 困惑するヤマモトヤマをよそに、正門の脇に故障した魔動車を下ろした。

「いやいやいやいや!? 何なんスか!? 何なんスか!?」

「イタズラされないように見張っててね」

 去り際にローリエが言付けした。

「何なんスか!? 何なんスか!? え? ちょっとこれ、何なんスか!? 何なんスか!?」

 四人はヤマモトヤマに構わず研究所に入ろうとすると、勝手に玄関が開き、白馬にまたがる華美な軍服姿の男が現れた。

 男は馬上でカフェオレを飲んでいた。白馬はその口にフランスパンをくわえている。

「Bonjour! Bonjour! Mon nom est Francis!(こんにちは! こんにちは! 私の名前はフランシスです!)」

 その豪華絢爛な貴族主義丸出しの服装とは対照的に、顔色が悪く、頬はこけ落ち、ガリガリに痩せこけた見るからに貧弱そうな男であった。

 リティカル隊の管轄従者・フランシスである。

「ああフランシス殿、丁度いい所に! 見て下さいよこれ!」

 ヤマモトヤマは壊れた魔動車を指差した。

「C’est une chose ! Voiture plus importante de l’Organisation !(何という事だ! 組織の大切な車を!)」

 フランシスは突如激怒して馬から飛び降り、熱いカフェオレの注がれたティーカップを振りかざし、ローリエに向けてかけてきた。

「危ない!」

 メクチェートがすぐさまローリエを庇うように彼女の前に立ちはだかり、自らの身体でカフェオレを被った。

「熱ッ!」

 メクチェートが顔を歪めた。

「メク!」

 彼に代わるようにローリエが前へと出る。

 マッスルとレイリンは、お手並み拝見とばかりに様子を見る。

「シャンゼリゼ! ベルサイユ!」

 フランシスが両手に三日月型のクロワッサンを二つ取り出し、ブーメランのように投げてきた。

「メク! 武器持ってきて!」

 ローリエはクロワッサンを何とかかわしながらメクチェートに呼びかけた。

 メクチェートが壊れた魔動車のトランクをこじ開けて、中からローリエの杖とランスを持ってきた。

「どっちにします?」

「ランス!」

 メクチェートはローリエにランスを手渡したところ、そこにフランシスが迫ってきた。

「Ce salaud ! VOLVIC eau ce salaud !(この野郎! ヴォルビックの水だこの野郎!)」

 フランシスは腰の水筒を取り出し、メクチェートの頭に咲く花や、葉のような髪に振りかけた。

「冷たッ!」

 再びメクチェートが顔を歪めた。

「一体何なのあなた?」

 ローリエがランスを構え、フランシスと対峙する。

 フランシスは白馬が口にくわえているフランスパンを手に取り、空高く掲げた。

「Vive la France!(フランス万歳!)」

 フランシスが叫ぶと、彼の闘気によってフランスパンが真っ白に光り輝いた。

「はあっ!」

 ローリエがランスを突き出す。フランシスがフランスパンを振り降ろす。

 二つの武器が激突。

 結果、フランスパンがランスを弾き飛ばした。宙を舞って地面に突き刺さるランス。

「そんな!?」

 ローリエが愕然とする。

「ジュッテーム……」

 フランシスが軍服の胸に差しているバラを取り出し、匂いを嗅ぐような仕草を見せた。

「ふざけんな!」

 今度はローリエがメクチェートから杖を受け取り、まるっきり隙だらけのフランシスの顔面を、杖で思いっきり殴打した。

「Au revoir……(さようなら)」

 フランシスは倒れて気を失った。困惑する彼の愛馬とヤマモトヤマ。

「行こう……」

 マッスルが皆に呼びかけた。一行は研究所の中へと歩みを進めた。

 メクチェートは庭に転がるフランスパンとバラを手に取り、仰向けに倒れるフランシスの後頭部にフランスパンを敷き、クタクタによれたバラをそっと胸に添え、マッスル達の後に続いた。


 中に入ると、白衣を纏った女性研究員・リリスとミザリーに客室に案内され、ここで待つように言われた。

 リリスがテーブルに四人分の紅茶を並べる。

 しばらくすると、客室のドアが開き、肩にタオルをかけた汗だくのリティカルと副所長・クストが姿を現した。

「ごめんなさい。ちょっと運動してたの」

 リティカルが整った笑みを浮かべて言った。挨拶を返す四人。

「ウチのフランシスが失礼したみたいね?」

 リティカルが窓の外を見ながら言う。

「いえ、少々運動をしただけです。ご心配なく」

 ローリエも笑みを作り、皮肉を利かせて返答した。

「あらそう?」

 どこ吹く風といった様子でリティカルは軽く返し、ソファーに腰を据え、脚を組んだ。その脇にクストが立つ。

「改めて、『リソ研』にようこそ。ウィーナ様はじきいらっしゃるのかしら?」

「はい。ウィーナ様のご一行は、本日の夕方にはソローム地方領主との会合を終えてこちらに転移してきます」

 リティカルの問いにローリエが返した。

「受け入れ用の魔方陣マットをお持ちしました」

 メクチェートが脇に置いているマットに手を添えた。

「ご苦労様。一階の魔導室にセーブポイントがあるの。そこに設置して。ミザリー案内してあげて」

「はい。こちらです」

 リティカルの指示により、ミザリーがメクチェートを部屋の外へ促す。

「じゃあ私マットの方やってきますんで」

 メクチェートがローリエに言いながら立ち上がった。

「一人でOK?」

「あぁ~……、もしよろしかったら手伝って頂けたら……」

「分かったわ」

 ローリエがマントを翻して立ち上がる。

「お願いします」

 メクチェートは大きなマットを担いで、ローリエと共に部屋から出ていった。

「すいません、実は、乗ってきた車が壊れてしもて……」

 マッスルが話を切り出す。

「だから、『壊した』んでしょ!」

「うん、分かっとるがな」

 マッスルが苦笑して応じる。

「あら」

「あれです」

 レイリンが窓の外を促すと、玄関先では壊れた車の周りを数名の平従者達が取り囲んでおり、ヤマモトヤマが何か口うるさい様子で指示していた。

 フランシスと白馬はいつの間にか玄関先から消えていた。

「じゃあ魔法で本部に連絡とってロシーボでも呼びましょうか。クスト、かけ合ってみてくれる?」

「了解です」

 クストも部屋から出ていった。

「あれ? あなた達、シュロンの所だっけ?」

 リティカルがマッスルとレイリンに問う。「いや、ランセツ殿の隊です」とレイリン。

 マッスル達はこれまでの経緯と、ウィーナの出張に同行しているランセツに会いにきた旨を伝えた。

「なるほどね。なかなか大変じゃない。頑張ってね。応援してるわ」

 リティカルは妖艶な笑みを浮かべて言った。この女は、やってきた当初は口から声が出せず、ジェスチャーや筆談でやり取りをしていたのだが、いつの間にか普通に口からしゃべれるようになっていた。

 何らかの功績の褒章として、ウィーナから声を賜ったという噂だが、詳しいことはマッスルにも分からない。

「ありがとうございます」

 マッスルは怪訝に思いながらも頭を下げた。

「もしよかったらラボ見学してかない?」

「いえ、自分は大丈夫です」

「あ、私も、ちょっと……」

 マッスルとレイリンは笑顔を見せてやんわりと断った。二人と日々の鍛錬によって武の道を邁進し、それに人生を賭けている。人為的に人体の能力を底上げするなど邪道である。強化戦士を作る研究所などに興味はない。

「あらそう。じゃあ私は他の仕事があるから行くわ。ゆっくりしてってね。地上二階、地下一階までの設備なら、好きに使っていいわ」

 リティカルは手を振り、悠然と部屋から出ていった。

 しばし訪れる静寂。

「マッスル」

 レイリンが小声で声をかけてきた。

「何?」

「どう思う?」

 あの強化人間のことを言っているのだろう。

「まあ、意外と普通やん?」

 この手の強化人間は、無理な施術で精神的に不安定な者も多いと聞いていたが、別にそういった様子はなかった。

 それきり二人は黙り、ウィーナ達の到着を待つばかりとなった。



 ウィーナの屋敷・小会議室――。


 テーブルに座るのは四人。

 ヴィクトとニチカゲ。

 その対面にはジョブゼとエルザベルナ。

「申し訳ない。忙しいところ」

 ヴィクトが言う。

「いや、構わんが。どうした?」とジョブゼ。

「ダオル殿のこと、どう思う?」

 ヴィクトの言葉に対して、ジョブゼは若干表情を曇らせた。

「ああ……。まあ、俺は別に」

「ウィーナ様の長期出張、実のところ長引きそうだ」

「そうか」

「もしかしたら、ダオル殿はこの機を狙って何か事を起こすかもしれない。もし組織に不利益をもたらすようなことが起こったらまずい」

 ジョブゼは腕組みをして、渋い表情でヴィクトの話に聞き入っている。ヴィクトは続けた。

「ウィーナ様不在の今、俺達の動きがバラバラだとダオル殿を抑えられない。だから俺達幹部クラスが一枚岩になっておかないと……」

「組織内での主導権争いには興味ない」

 ジョブゼはヴィクトの話を遮った。

 反発がくることは予想していた。元来、このジョブゼという男は戦場にしか興味がない。

「主導権争いじゃない。もしものときにお前の剣が、ウィーナ様の意に反するような形で振るわれることがないようにしておきたいだけだ」

 ヴィクトが言い方を変えた。これまでも、ジョブゼはウィーナの命令でも気に食わなければ平気で逆らってきた男だ。

「同じことだ」

 ジョブゼはそっけない態度で言った。

「お前は副社長のやり方に疑問を持ってないのか? お前なら良く思うわけない。このままではランセツの立場も危うい。ダオル殿はこの組織を切り崩そうとしてる」

 ヴィクトが、ある程度の確信を込めて言う。

「良いも悪いも、ここは戦闘力至上主義だろうが。ダオル殿は強い。そのダオル殿のやり方が通るのなら、この組織ではそれが正しいんだろ。ランセツの件だって、奴の脇が甘かったからだ。違うか?」

「つまり、『いじめられる方が悪い』と、ジョブゼ君はそう言うッスか?」

 ニチカゲが言った。

「他ならともかく、ウチではそうでしょうよ。だってウィーナ様の仰る戦闘力至上主義ってのは、要は弱肉強食ってことだ。違いますか? ニチカゲ殿」

 ジョブゼは人の悪そうな笑いを浮かべ姿勢を崩し、椅子の背もたれに手を回した。

 その言葉を聞いたエルザベルナは心配そうな顔つきをして、唇を固く結んだ。

「ニチカゲ隊のようなことをされても同じこと言えるか?」

 ヴィクトがニチカゲの方に少しだけ視線を流した。

「その通りッス。ここでダオル殿を抑えないと、ジョブゼ君の部下が傷つくようなことがあるかもしれないッスよ」

 ニチカゲも深く頷きながら言った。

「もし俺の部下に手を出されるようなことがあったら、誰であろうと容赦しねえ。だが、今のところ俺には関係のない話だ。派閥を作ったり徒党を組むつもりはない」

 ジョブゼが力強く言う。

「……でも、ジョブゼ殿、この前全然効果がないインチキサプリ買わされてました」

 エルザベルナがぽつりと言う。

「インチキサプリ?」

 ヴィクトとニチカゲが反復した。

「あのことはもういい」

 ジョブゼが言い捨てて舌打ちした。

「とにかくだ、そんな密談するんだったら他当たってくれ」

 ジョブゼはぶっきらぼうに言った。

「……分かった。時間取らせて悪かったよ」

 ヴィクトが無理矢理納得つけながら言う。

「じゃあな」

 ジョブゼは立ち上がってさっさと会議室を後にした。エルザベルナはヴィクトとニチカゲにすまなさそうな表情で「申し訳ありません。ウチの隊長いつもこうで……」と小声で謝り、「私の方からも何とか言ってみます」と続け、ジョブゼの後を追った。

「やれやれだ……。まあ、予想はしてましたが」

 ヴィクトは溜息をついた。

「でも、いざとなったらジョブゼ君は我々に助力するはず。副社長側につくなんてことはないと思うッスが……」

「『存分に戦える戦場』なんてものを条件に出されたら転がるかもしれません」

 ヴィクトはシビアに言った。ヴィクトという男は、基本的には誠実だが心の奥底では簡単に人を信用しない。

「あとはハチドリ君がダオル殿を抑えられるか……」

 ニチカゲが顔をしかめて呟く。

「そうですね」

 と言いつつも、あまり期待はできなかった。

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