番外編「副社長編」2
ここまでのあらすじ
猛毒モンスター・ポイズンオーガがその毒により冥界の平和を乱していた。
冥界のみんなが苦しむので、ポイズンオーガは倒さねばならなかった。
なぜなら、ポイズンオーガを倒さねば、冥界のみんなが苦しむからだ。大事なことなので二回言った。
そんな中、ワルキュリア・カンパニー戦闘員、ランセツ隊所属の平従者ラムドは、病により戦列を離れていた。
一応言っておくが、彼の病気はポイズンオーガの毒とは無関係だ。ポイズンオーガが現れる前から彼は重い病にかかっていた。
ラムドは休職願いを出し、ランセツはこれを受理した。
ラムドは正式に長期療養することとなり、職場に姿を見せなくなった。
副社長・ダオルはランセツのラムドに対する処置に激怒。すぐさまラムドをポイズンオーガとタイマンで戦わせるようランセツに命じたが、ランセツは副社長の命令を断固として拒否した。
組織の中でウィーナの次に偉いダオルに対し、ランセツはあからさまに楯突いた。
ランセツは自分がポイズンオーガを戦うと主張したが、肝心のポイズンオーガがランセツと戦うことを拒否した。
ポイズンオーガは、ランセツと戦うならファイトマネー140万Gを支払えと主張してきた。平従者相手ならタダで戦ってやってもいいと言った。ランセツにそんな金はなかった。
ランセツは代替案として自分の副官である管轄従者・レイリンを戦わせようとしたが、ダオルの側近である管轄従者・参謀ゴルシュがその案を握り潰した。
戦う相手がいなくなったポイズンオーガは激怒した。口から毒を吐きまくり、ワルキュリア・カンパニーの評判を下げた。
ダオル一派とランセツの確執は悪化する一方だった。
政僧ギャアと参謀ゴルシュ、更にはマザー・卑弥呼までもがランセツ更迭論をここぞとばかりに振りかざした。
ところが、他の幹部一同(※1)、ランセツの主張を支持した。それどころか、ダオルの隊内でもダオルの判断に疑問を持つ者が少なからずいた。
しかし、ダオル直属の部下達は、ダオルを恐れて表面上はダオルとその取り巻き達を支持していた。
ヴィクトやハチドリが必死にダオルとランセツの仲を取り持ち、とりあえずその場は収まったが、結果的にダオルは恥をかいた。
なぜなら本件でウィーナはランセツに味方したのだ。ダオルを庇わなかったのだ。
思ったよりダオルは組織内で絶対的な存在ではなかった――。
これは幹部従者達の、一種の自信へと繋がった。
「あれ? 俺達もなかなかイケるんじゃね?(某幹部従者・R氏談※2)」と――。
ダオルはランセツを殺そうと思ったが、社長のウィーナがランセツやシュロンを伴って長期出張していた。
ウィーナとつるんでいたとあっては、うかつにダオルも手が出せなかった。
ランセツだけなら容易いことだが、ウィーナやシュロンはランセツなどより遥かに強敵である。
悔しいが今ランセツを殺すことは難しい。
どうしたらウィーナの制裁を受けずに、あるいは殺人罪で警察に捕まらずに、ランセツを殺すことができるのか。喫緊の課題だった。
参謀ゴルシュはダオルの天下取りの為の計略を練った。
まずは外堀を埋めることが肝要である。手始めに、ラムドを殺すことによってランセツ隊の組織内での影響力を削ぎ落とし、ランセツ隊を攪乱するのである。
ゴルシュは言った。
組織内でランセツが孤立すればランセツを殺すのは簡単な話である。もしかしたら勝手にウィーナがランセツを用済みと判断して殺してくれるかもしれない。
ついでにハイムやニチカゲ辺りも殺してくれれば儲けものである。ゴルシュの話に、政僧ギャアとマザー・卑弥呼も天才的な知略だと賛成した。
ポイズンオーガは平従者とのタイマンで戦うという参謀ゴルシュの提案をのみ、共にラムドの自宅へとタクシーで向かった。
車内でもポイズンオーガは口から毒舌ばかり吐き、そのモンスタークレーマーじみた物言いは運転手をとても嫌な気分にさせた。
だが、よくよく考えてみれば、ポイズンオーガは毒属性のモンスターなのだから、モンスタークレーマーなのは当然の話だった。
あらすじ、終わり。
注釈 ※1……あのレンチョーですら。 ※2……R氏=レンチョー
平従者ラムドは、重い病により死の床にあった。
医者が困惑とも沈鬱とも読み取れる、暗い表情で口を開いた。
「申し訳ありませんが、もうこれ以上治療する手段がありません……。これからは食事の制限も必要ありません。できる限り好きなものを食べて飲んで、会っておかなきゃいけない人には今の内に会っておいて下さい」
「……今まで、ありがとうございました」
ベットの側に座るラムドの母が、医者に頭を下げた。
「あ、ありがとう……ございます……」
ラムドもげっそりとやせ細った顔を震わせ、か細い声で言った。そして、すぐに咳き込んだ。
医者が帰った後、入れ違いに一人の男が家に乗り込んできた。
ラムドの働き先であるワルキュリア・カンパニーの管轄従者・参謀ゴルシュである。
鋭い耳と逆立った紫の髪を持ち、額には閉じた第三の目がある。背中には魔族を想起させる一対の翼が。
土足でずかずかと家に上がり込んできた参謀ゴルシュは、ラムドの部屋のドアを乱暴に開け放った。
「貴様あああっ! 何をズル休みしている!」
ゴルシュが怒りの形相で怒鳴った。近所中に声が聞こえるほどの声量であり、病人のいる部屋の窓ガラスは空気の揺らぎで震えた。
「何ですかいきなり!」
ラムドの母が驚いてゴルシュの前に立つが、ゴルシュは「どけクソババア!」といきり立って母親を払いのけた。
「来い!」
ゴルシュは無理矢理ベッドに横たわるラムドを引きずり出した。
「あ、あう~……」
「や、やめてー!」
「ババアァァァァッ! テメーの息子は無断欠勤したんだよ! ズル休みしたんだよ!」
必死に食い下がる母親をゴルシュは蹴っ飛ばした。
ゴルシュがラムドを玄関まで引っ張っていくと、そこにはポイズンオーガが仁王立ちして待ち構えていた。
紫色の毒々しい肌を持つ、巨大な亜人系のモンスターだ。
「ハーッハッハッハ! 貴様如き、ひとひねりにしてくれるわ!」
ポイズンオーガは高笑いしながらラムドを踏み潰そうとした。
地面に手をつき、喀血しながら咳き込んでいるラムドに、その攻撃をかわす体力はなかった。
しかし、ポインズンオーガの足が踏みつけたのは地面だけであった。
「何ィッ!?」
ポイズンオーガが戸惑う。
それもそのはず、ラムドを間一髪で助けた者がいるからだ。
体の至る所をスパイクアーマーで覆った筋骨隆々の逞しき巨体。ランセツ直属の部下の管轄従者・マッスルである。
「大丈夫か!」
マッスルはラムドを両手に抱えたままポイズンオーガと距離を取る。
「貴様ああああっ! 何者だあああああっ!? これは俺様とコイツの一対一、正々堂々の戦いなんだどおおおっ!?」
ポイズンオーガが怒りの形相で怒鳴る。
「知らんがな。何で魔物退治にそんなルール決めなアカンねんドアホ!」
マッスルは強い西部訛りで吐き捨てるように言った。
そもそも、何でそんな話になっているのかがマッスルには分からない。なぜラムドがこの魔物と戦わねばならないのか、正当な理由がどこにもない。
「勝手なことをするな貴様ああああっ!」
ゴルシュが翼を広げてマッスルに踊りかかった。
「何言うとんねん! それはこっちの台詞や! ふんぬううううっ!」
マッスルは鼻の穴を大きく広げ、勢いよく鼻息を吹いた。
マッスルの鼻の穴からハリケーンの如き暴風がうねりを上げて噴射され、砂煙と共にゴルシュは上空へ吹き飛ばされた。
「死ねえええええ!」
ポイズンオーガが腕を振り上げて、マッスルに殴りかかる。
しかし、マッスルは相手の攻撃に素早く反応し、左手でラムドを抱えながら、右腕に装着するアーマーでポイズンオーガの巨大な拳を受け止めて見せた。
マッスルの腕に痛みと震動が伝わるが、鎧の防御力で受け止めきれている。相手の力はマッスルの想定内だった。
「なんや、大したことないやんけ!」
「ふざけるな貴様ああああっ!」
ポイズンオーガが大口を開けた。毒の息を吹きかける気だろう。
ラムドが吸ったらまずい。マッスルが回避運動を取ろうとしたところ、敵の巨体が不意に吹き飛んだ。
新たに一人、味方が駆けつけたのである。
均整の取れた長身脚長のシルエットの、たった今、蹴りを放ったポーズを維持する女性。
ノースリーブの中華風道着を身に纏い、頭の左右には大きなシニヨンを束ねている。
そして、何よりの特徴は、その両方の肩口から、スラリとした白く滑らかな、それでいて細く引き締まった筋肉を持つ長い腕が三本ずつ生えていることである。
六本の腕を持つ多腕種族。
その戦闘には極めて有利な肉体と、類まれなる格闘技の才覚でランセツ隊の副官を任されている管轄従者・レイリンである。
※有料で個人様に依頼。
マッスルにとっては悔しい話だが、同格の幹部従者でも、パワー以外の技術と六本の腕を備えるレイリンの方が、総合力では数段上であった。
純粋な格闘戦を行ったら、下手をしたら隊長のランセツよりも強いかもしれない。
「後は任せて! ラムドを安全なところに!」
「遅いわボケ!」
マッスルは信頼を込めた毒舌で応えた。
「大丈夫、すぐ終わる」
レイリンが、まるで異界の神話に伝わる阿修羅という神のように、六本の腕を広げ、構えを取った。
すると、それぞれの掌に光が立ち込めた。それらは形を成し、扇となった。それぞれが陰と陽を模した太局図が描かれ、金に縁どられ強い魔力が放たれる宝珠が埋め込まれている。
「ハァァァァ……」
レイリンの体から光り輝く洗練されたオーラが発せられ、六つの扇も光り輝く。
レイリンが真上に真っ直ぐ伸ばした六本の腕を、ゆっくりと、まるで扇か孔雀の羽を展開させるかのように左右に一本ずつ広げていく。音もなく、ゆっくりとポイズンオーガとの距離をつめながら。
腕をゆっくりと動かしているはずなのに、六本の腕は残像を幾重にもくっきりと残し、まるで無数の手があるかのようであった。
マッスルが思わずその優雅で、神々しさすらある、異世界の仏像のような所作に見とれていると、レイリンがキッと鋭い目でこちらを睨んだ。
「あ、ああ、すまん」
マッスルは急いでラムドを抱えて守りながら、レイリンとポイズンオーガから距離を取った。
マッスルは先程からゴルシュの横槍を警戒して気配を探っていたのだが、鼻息で吹き飛ばしてから姿を見せなくなった。逃げたのだろうか。
戦いが終わったらちゃっかり顔を出してきそうで嫌な感じである。ゴルシュはそういう男だ。
「死ねええええっ!」
ポイズンオーガが口から紫色の毒霧を噴射したが、毒霧はレイリンのオーラに阻まれて相殺される。
「無駄よ」
全く怯むことなく、ゆっくりと敵に歩みを進めるレイリン。
「この小娘がああああっ!」
ポイズンオーガが腕を振り上げレイリンに襲いかかる。
その刹那、レイリンが六つの扇を振りかざして舞った――。
滑らかなオーラの奔流に乗せて舞い踊る六つの扇。ふわりと跳躍して、音もなく地面に足を突き、二本の腕を交差させ、残り四本の腕を広げながら、六つの扇を同時に閉じる。
「ぶぐええっ!?」
パチン、と乾いた音と共に、ポイズンオーガの肉体は細切れに斬り裂かれた。
肉片から泡を吹きたてる毒々しい紫の体液が流れ出る。
ややあって、レイリンが手にした扇が光となって霧散した。
「聖流陽麗陣」
そう呟いて毒液に向かって六つの掌を掲げると、なぞった軌跡に光の太極図が浮かび上がり、そこから流れ出る光の渦が地面に染み込む毒液や、魔物の肉片までも浄化していく。
「ふぅ……。もう大丈夫や!」
マッスルが安心してラムドを見ると、マッスルの腕の中でラムドが激しく咳き込んだ。血を吐き、命を削る鬼気迫る咳き込み方である。
「ア、アカン!」
一段と大きな吐血がマッスルの腕を赤く染める。
「キャーッ! ラムド、ラムド!」
家から出てきた母親の悲痛な声。
マッスルは慌てて家の中に上がり込み、ラムドをベッドに戻した。
悲嘆に暮れる母親と共にレイリンも後に続く。
それから間もなく、母親とマッスルとレイリンが見守る中で、ラムドは命の灯火を静かに消した。
「申し訳……ないです……。隊の皆さんや、ランセツ殿の立場まで……悪く……してしまい……」
死の間際、ラムドは自分の病のせいで組織や仲間に迷惑をかけたことをかすれた声で謝罪した。
「何でそんなこと言うねん! ホンマはウチらが組織として、お前を守ってやらなアカンかったんや! こっちが謝らな……」
マッスルとレイリンは、ダオルやゴルシュがおかしいだけで、ラムドは全く悪くないと、逆にラムド本人や母親に何度も謝罪するのみだった。
ラムドを看取った後、二人がウィーナの屋敷へ戻る途中、場を引っ掻きまわすだけ引っ掻き回したゴルシュが姿を現した。
案の定、余計なことをしてくれたものだとマッスルとレイリンを口を極めて罵り始めた。
「だって奴は余命僅かだぞ! だったら今戦って死んだところで別にいいじゃないか! 俺は健康だし、これからまだ二十年も三十年も人生の時間が残されてるんだよ! それなのに何で俺がわざわざ命張ってあんな化け物と戦わなきゃならんのだ! どのみちすぐ死ぬ奴が戦う方がいいだろうが! 優先順位! 何か俺の言うこと間違ってる!? あ~あ! 結局病死したせいで遺族補償もらえないね! ポイズンオーガに殺されときゃあ戦死扱いで補償金もらえたのに! お母さん可哀想だなー! 一人息子が死んじゃって、お前らのせいで後々の暮らしも大変だろうからなー! お前らのせいで! あ~あ! お前らのせいで! 何で悪人のお前らが善人の俺を悪者にしてんの? 何でアンタらそんな頭悪いの? ねえ? 何で?」
このゴルシュの言い分に、マッスルの理性は吹き飛んだ。
奴の腹立たしげな嫌味たっぷりの面を、ボコボコにぶちのめしてやらないと気が済まない。
レイリンが自制を促してきたが、マッスルはここまでの侮辱を黙って聞いていることはできなかった。
「何やコラァ! いい加減にしとけや!」
マッスルは腕を振り上げて、全力の拳でゴルシュの鼻っ先に向けて殴りかかろうとした。
が、その瞬間。
「邪気眼を持たぬ貴様らには分かるまい!」
突如ゴルシュの額の第三の目が開き、そこからまばゆい光が発せられた。
「うっ!」
その瞬間、横に立つレイリンがマッスルの眼前に扇をかざし、彼の目を防護した。
光が収まり、レイリンが扇を下げると既にゴルシュの姿は消えていた。おそらく背中の翼で上空に逃げたのだろう。
「あ、あの野郎……! 覚えとれよ……」
マッスルが忌々しい思いを胸に毒づいた。
そんなとき、レイリンがマッスルのアーマーの脇腹の部分に手を触れた。
「ん?」
マッスルが視線を映すと、その装甲には去り際に刻まれたゴルシュの爪跡が生々しく残っていた。
もし自分一人で、目が眩んで鎧で守られていない部分をやられていたら。おそらくゴルシュもそれをアピールしたかったのだろう。
「く、くっそ~!」
マッスルは地団太を踏んだ。
「油断し過ぎ! ランセツ殿もいないんだから、私達がしっかりしなきゃいけないのよ」
レイリンは六つの手のうち、両方の一つずつを腰に当てながら言った。
「すまん」
マッスルはしかめっ面で言った。
「ランセツ殿……。ウィーナ様……。早く戻って来て……」
レイリンは物憂げな表情で、薄暗い冥界の空を見上げた。
◆
「副社長殿。ランセツ殿不在の折、我々をこのような場所に集めて、一体全体、何用にござりまするかな?」
ウィーナの屋敷内にある、ダオルの執務室に集められた七人の男達。
ビーソー、ジョージャック、カーモ、バイアス、シューグ、マンマート、ヒッカカール。
いずれもランセツ隊所属の平従者達である。
横一列に並んで立つ彼らの前には、重々しい雰囲気で鎮座する副社長ダオル。そして両脇には政僧ギャアとマザー・卑弥呼が。
「お前達に集まってもらったのは他でもない。実はな、平従者の中でも特に多くの戦果を上げるお前達を、ウィーナ様がとても評価しておられる」
ダオルが七人を見回しながら言う。
両脇の政僧ギャアとマザー・卑弥呼は不敵な笑みを浮かべている。
「え? ウィーナ様が我々を!?」
思わず互いの顔を見合わせる七人。
「そうだ。そこでお前達七人に特別ボーナスを渡すようにとウィーナ様から言いつかっている。受け取るがいい」
ダオルが言うと、政僧ギャアが袈裟の内袖から人数分の封筒を取り出し、七人に順に手渡した。
何も書いてない、無地の茶色い封筒だった。
「あ、ありがとうございます!」
礼をしながら両手でしっかりと封筒を受け取る平従者達。
「中を開けてみろ」
ダオルが言う。
「え? この場で改めていいのでありますか?」
「構わん」
七人が封筒を開けると、中から出てきたのは50Gばかりの商品券であった。
せいぜい薬草が五つ、傷薬なら二つ買って終いである。一日の食費ぐらいが精々と言ったところか。
「う……」
「ああ……」
期待外れといった様子で商品券を見つめる七人。
「どうした。何だその顔は。不服か?」
ダオルがニヤリと笑いながら言う。
「あ、い、いえいえ! ありがたき幸せ!」
慌てて七人は深々と頭を下げた。
「で、これは俺から、お前達へのボーナスだ。受け取ってくれ」
ダオルがパンパンと、二度手を叩くと、執務室の扉が開き、参謀ゴルシュが厳重に施錠された鉄の鞄を持ってきた。
参謀ゴルシュはダオルの前に鞄を置く。かなりの重量を思わせる音が響いた。そして、耳を撃つ鍵の音と共に、鞄が開かれた。
そこには、黄金色に輝く金貨がこれでもかと言わんばかりに敷き詰められていた。
「あ……!」
「うっ……!」
七人は一瞬にして目の色を変え、目玉を床にこぼれ落としそうな程に驚愕した。
「お前達は非常に優秀な人材でありながら、その才をランセツにいいように利用され、不当な待遇に甘んじている」
「え、ええっ!? 我々が!?」
七人は互いの顔色を伺うかのように、左側に立つ物は右を、右側に立つ者は左を、中央に立つバイアスに至っては不安げにキョロキョロと左右を見回した。
「お前達だって、内心ランセツの無能と横暴には内心腹正しい思いをしていたであろう?」
ざわつく七人。そんな彼らの掌に、ゴルシュが大量の金貨をずっしりと掴ませていく。
「おおお……」
考えられぬ大金に言葉を失う七人。
「この組織が将来生き残っていく為には、ランセツのような者は取り除き、より良き人材を後に据えていかねばならない。お前達のような、新世代の優秀な戦士を……。ククク……」
ダオルが意味あり気な微笑みを浮かべた。
「新世代の……」
「戦士……」
「い、言われてみれば確かにそうかも……」
「クックック、そうだろう、そうだろう」
政僧ギャアが唇を歪めて言った。
「もっと自分達の能力を存分に発揮できる舞台が欲しいと思うだろう? キキキ……」
マザー・卑弥呼も顔に多くの皺を作って笑った。
「一体、我々に何をしろと言うのです!」
「突然このような大金を! これは裏に隠された意図を疑いますぞダオル殿!」
「そうです。他の連中はともかく、我々はそうそう美味しい話には乗っかりませんぞ!」
口々に疑念の言葉を放つ七人。
「そうか……。じゃあ、その金は返してもらおう?」
ダオルが残念そうな表情を作って言った。
「ええっ!?」
「これは俺からの特別指令をお前らにやってもらおうと思っての特別ボーナスでな。前金に50%渡しとこうと思ったんだが……。仕方ないな……」
「は、半分!?」
「その特別指令をこなせばもう一回これだけの金貨を頂けると!?」
驚愕する七人。
「それでは、このバッグに金を戻しなさい」
ゴルシュが空っぽになった鞄を指差す。
「お、おおおお、おま、おま、おま、お待ち下さい!」
「ぜ、是非とも最後までお話を聞かせて下さい!」
「実は私、あのランセツにはほとほと愛想が尽きていたのです!」
「私もです!」
七人は態度を180度反転させた。
「そうか。やはりお前達は俺の見込んだ通り賢明だ。なあに、大したことではないのだ。では、本題に入ろう……。ククク……」
執務室の窓が暴風に打たれ軋む。
外が暗闇に包まれ、激しい雷鳴がなり、間もなく外は激しい嵐となった――。