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第4話 SINGYOUJIホテル


クイーンシティで水不足が騒がれ始める少し前。




「ようこそいらっしゃいました、SINGYOUJIホテルへ」


 鈴丸と泰斗が次元の扉を抜け出ると、その前にMR.スミスがうやうやしくお辞儀をしながら待っていた。

「MR.スミス!」

 鈴丸が嬉しそうに言ってそばへ行く。

「お久しぶりです、MR.スミス」

 と、泰斗も扉から出てぴょこんとお辞儀をした。

 顔を上げて彼らを見たMR.スミスは、嬉しそうにひとつ頷いて言う。

「お2人ともお疲れでしょう。まずはお部屋に荷物を置かれたら、お茶を差し上げましょう」

「お部屋?」

 2人が顔を見合わせると、MR.スミスが丁寧に説明してくれる。

「はい、最初お二方には当ホテルにお泊まりいただくことになっております。と言うのも、あ、歩きながらお話ししてもよろしいですかな? では、参りましょう。と言うのも、泰斗さまの滞在先がこちらになっていると連絡を頂いておりますので。ですので、当ホテルが責任を持ってお二方の面倒を見させていただきます」

 それを聞いた鈴丸が、不思議そうに言う。

「でも、俺は家があるから、すぐに帰れるんですけど」

 MR.スミスは、ちょっといたずらっぽくウィンクなどして答える。

「泰斗さまをひとりぼっちになさるおつもりですか?」

「あ」

 気づいた鈴丸が、照れたように頭をかいて言う。

「そうだよね。ごめん、泰斗」

「ええっと、僕は」

 と、少し考えていた泰斗が、こちらもちょっと恥ずかしそうに微笑んで言った。

「こっちに慣れるまでは、誰かいてくれた方が心強い・・・。悪いけどいいかな、鈴丸?」

「もちろん!」

 そんな経緯があって、ここは彼らに提供された部屋。

 広くて居心地の良い、リビング付きのツインルームだ。彼らはそのリビングルームに座ってお茶を飲んでいる。

 彼らのほかにもう2人。

「クルスとナズナがいるんなら、鈴丸は家に帰ってもらっても良かったかも・・・。今度は僕がごめん! だね」

 そう、すっかり忘れていたと言うのではないが、ここSINGYOUJIホテルには、バトラーを引き継いだクルスと、今は奥様になっているナズナがいたのだった。

「いや、しばらく2人は、ここで過ごしてもらわなければならないんだ」

 クルスが言うのに、不思議そうに顔を見合わせる2人。

「そうなの、どうにもややこしい話があるみたいで・・・あ、」

 ナズナの言葉にかぶせて部屋のチャイムが鳴る。

 腰を上げかけた鈴丸と泰斗を手で制して、クルスが出入り口へと向かった。


「いよう! 元気してたー?」

「お帰り鈴丸。泰斗は久しぶりだな」

 入ってきたのは、2人がよく知る2人。

「綴さん! 直正さん!」

 おなじみの、広実ひろさね つづると、手塚てづか 直正なおまさだった。

「どうしたの2人とも! ここへ来るなんて聞いてなかったよー」

 喜ぶ鈴丸に、直正は楽しそうに笑って大げさに手を広げて近づいてくると、なぜか泰斗も2人まとめてガバッとハグハグする。

「あれえ言ってなかったー? ごめえん」

「フガ」

「フヒャフガ」

 2人は息苦しそうな声で答えている。

「やめろ直正」

 綴のツンドラのような冷たい声がして、直正は「ちえ」とか言いつつ、仕方なく2人を解放した。

「はあーっ、苦しかった」

「ゼエ、ほんと・・・、まるでジュリーさんみたいです、ゼエ」

「まったく、いつもすまないな鈴丸。泰斗も悪かった」

 直正の代わりにきちんと頭を下げる綴に、泰斗は恐縮して手をブンブン振る。

「大丈夫ですよ~、うちにもジュリー先輩っていう強烈なキャラがいますので」

「ああ、あの人か」

 珍しく綴が可笑しそうに微笑んだので、直正が「綴が笑ったー」とか失礼なことをいい、また睨まれている。

「とにかく2人とも座って落ち着きなさい」

 ソファから立ち上がって席を空けたナズナに、直正は「はーい」と良いお返事でさっさと座ってしまう。遠慮する綴を無理矢理その隣に押し込んで、自分はお茶を入れに行ってしまった。

 そこへ2人分のスツールを運んできたクルスがその一つに腰掛けて言った。

「で、きみたち2人がここへ来た理由を、こっちの2人は知りたいと思うんだけどな」

 綴たちと鈴丸たちを交互に見ながら言うと、綴がコホンと咳をしてからおもむろに説明を始める。

「鈴丸から聞いた空間移動の計画は、俺たちも社長も、とにかくソラ・カンパニーは賛成と言うことで、すぐさま惑星連合に提案したんだ。だが、そこは頭の固い連合のヤツラのことだ、なかなか一筋縄で通してくれそうにない」

 がっかりしたように肩を落とした鈴丸が、「やっぱり」とため息をつく。

「あいつらはタヌキだからな」

「タヌキ?」

 不思議そうに皆を見回す泰斗に、鈴丸が代表して答える。

「人にいやな思いをさせて喜ぶような輩のことを、こっちではそう呼ぶんだ」

「ああ」

 納得したように頷くと、また綴の方に向き直った。

「で、近々、音声画像を通してだが、あいつらに泰斗から空間移動の説明をしてほしいと要請があったんだ」

「え?」

 驚く泰斗を落ち着かせるように力強く頷いて、綴は話を続ける。

「で、泰斗だけではあんまりだとごねてやったら、当日は俺も説明に加わって良いとのお達しが出た」

「綴、やるう」

 また茶々を入れる直正は放っておいて、綴は言った。

「だから泰斗。本当にすまないが、じじいたちとの音声画像会議、承諾してくれ」

 深々と頭を下げて、ついでに直正の頭に手をやって下げさせる綴をぽかんと見ていると、なぜか慌てて鈴丸までガバッと頭を下げた。

「なんか、ごめん泰斗! 空間移動の事だけ出来るって思ってたら、こんな事になっちゃって」

 我に返って、慌てて手を振りつつ泰斗が言う。

「いいよ、そんなの。みんな頭を上げてえ」

 すかさず直正が、次に鈴丸が、最後に綴が顔を上げて泰斗を見た。それにホッとした後、泰斗は疑問を口にする。

「こっちの人たちは空間移動なんて初めて聞くんだから、説明するのは当たり前だよ。でもさ、その話と僕がここに滞在しなきゃならないのと、どう関係があるの?」


「あ、そっちか」

 今度は直正が説明役に回った。

「あのねー、前みたいに、観光目的で泰斗がこっちに来るんなら、別にどこに泊まってどこに行こうが自由なんだよね。けど、今回は違うでしょ? 空間移動とか、宇宙に何やら作るとか、こっちの世界を引っかき回すんじゃないかって、頭のかたーいふるーいタヌキじじいたちは考えた訳よ」

「そんな、引っかき回すなんて僕、思ってないよ」

 困ったように言う泰斗に、直正はうんうんと大きく頷きながら話を続ける。

「それはよーくわかってるさ、俺たちはね。けどわかんない奴もいるんだよ。で、そんな使命を帯びた奴を街にのさばらせておくわけにはいかないってんで、ここの、治外法権にしばりつけておこうって訳」

「治外法権?」

 今度は鈴丸が意外そうに聞いた。

「だってここって、ホテルだよ」

「ああ、そうだ。だけどここSINGYOUJIホテルは、ソラ・カンパニーと同じく、水の惑星の最高機関でさえ手が出せない、独立したひとつの世界なんだって。俺も最初聞いてびっくり! だったぜ」

 あぜんとしている泰斗と鈴丸におかまいなく、直正はまた話を始めた。

「ここならあっちも手は出せないが、何かおかしな動きをしても所詮はこの中だけの話。あっちに被害が及ぶことはないって寸法さ」

 泰斗は思わずクルスに視線を走らせた。

 それを感じ取ったクルスが静かに言う。

「信じがたいことだと思うだろうね、泰斗。公共に開かれているホテルが治外法権だなんて。けれどこれは本当の話なんだ。ただ、ここを治外法権にしたのは初代オーナーの意向。理由はただ一つ、次元の扉を守るため」

 その言葉に、泰斗ならず、鈴丸も、綴も、直正もはっとする。

 クルスの説明は続く。

「ただそのためだけに、彼はここを惑星の重圧や紛争や、醜い思惑が入り込まないような、神聖な場所にした。クイーンシティを守るため。そしてひいてはネイバーシティをも守るためにね」

 誰もが初代オーナーの真摯な思いに心打たれていた。

「そんな経緯があったなんて、全然知りませんでした。治外法権と言うと、どうしても自分の身を守るためだけと言う解釈しか持てない自分が、恥ずかしいです」

 最初に言葉を発したのは綴だった。

「俺も、海より深く、はんせーい」

 続く直正はやはり直正だ。

 泰斗はちょっと鼻をすすったあと、しゃんと姿勢を伸ばして言った。

「新行内の名がついてるって事は、もしかしたら・・・。でも今はそれを考えてる場合じゃないんだよね」

 そして一つ頷くと、にっこり笑って言った。

「わかりました。その会議に出席して、タヌキだかなんだかにきちんと納得してもらうよ。でも・・・」

 今度は困ったように言う泰斗。鈴丸がそれを見て聞く。

「どうしたの?」

「ここだと、実験や装置の組み立てみたいな、ロボット研究所でやってるようなことができないなって思って。どうしたらいいのかな」

 すると、クルスとナズナが顔を見合わせて微笑み、クルスが泰斗の問いに返事もせずに言う。

「あ、そういえば、まだホテルのすべての施設を案内していなかったよね。これから気分転換かねて行こうか」

 クルスがのんきな事を言うので、直正があきれたように言う。

「なんなんですかあクルス、泰斗がこんなに困ってるのに、そんな言い方~」

 すかさずナズナがキッと彼を睨んだ。

「なあに? 直正はクルスの言うことにケチをつけようって言うの? ふふーん度胸あるわねえ」

 ブワッとあふれ出す殺気に、直正ではなく、泰斗と鈴丸が震え上がって、思わず立ち上がって言う。

「わ、えっと、僕、案内してもらいたいです」

「お、おれも」

 そんな2人を見て、クルスも笑顔で立ち上がった。

「あの2人はいつもああなんだよ。だから気にせずに」

 と、彼らの間に入って肩を抱き、部屋の出入り口へ向かう。

「あ」

「はい」

 泰斗と鈴丸はちょっとホッとした様子だ。

 後に続いて綴も席を立つ。

「まったく。先に行くぞ、直正」

 置いて行かれそうになった直正は、慌てて彼らの後を追うのだった。

「待ってーおいてかないでー」


 ホテルの中を案内してくれると思っていた泰斗と鈴丸は、正面ロビーから外へ出ていくクルスに、訳もわからないままついて行く。

 それは綴と直正も同じだったようだ。

 ナズナはバトラーの仕事があるからと、案内を彼に任せて自分はスタッフルームへ消えてしまっていた。

 玄関に止めてあったカートにみんなを乗せて、クルスははじめ、あのプライベートビーチを通り過ぎて、その外れにあるヨットハーバーへと向かう。

「ここはヨットハーバーの役目も果たしているけど、うちは漁船も持っていて、ホテルで提供する魚介類はだいたい自分たちでまかなえるんだよ」

「へえー」

「ほおー」

 感嘆の声を上げる鈴丸と直正に微笑んで、次に向かったのが次元の扉、ではなく、その向こうに広がる、一見、草原のように見える広い広い場所だった。

 目をこらすと、同じようなカートに乗った人が、点々とあちこちにいるのがわかる。

「ここは農地。ほったらかしのように見えるけど、きちんと管理されているんだよ。彼らはこういう農法のプロだ」

 カートからクルスが手を振ると、気づいた何人かが同じように振り返してくれる。皆、日焼けして健康そうでガタイがいい。

「ハリスみたいだ」

「ああ、性格もね」

 泰斗のつぶやきにクルスが優しいまなざしで言う。はっとした泰斗は思わず自分も手を振った。彼らはそれにもきちんと応えてくれるのだった。

 最後に向かったのが、次元の扉、ではなく、その反対側に、木々の間に隠れるように建っている別荘のような建物と、そのまた向こうにある背の低い温室とも見えるドームだった。

 カートを止めて、まずクルスはその別荘に彼らを案内する。

「わあ、結構広いんだ」

 玄関は広々として明るく気持ちよい。もう一つ中へ入ると、吹き抜けのリビングを取り囲むように2階にぐるりと部屋がある。

 リビングをまっすぐ横切ると、クルスは向こう側の外へ通じているガラス扉を開け放った。

「部屋数は10。リビングからは次元の扉が見える造りになっているんだ」

 ついてきた彼らは、そこがウッドデッキになっているのを知ると、降りて次元の扉を眺めている。そのまま庭へも降りられるようになっている。

「へえー」

「ほおー」

 ちょっと微笑んだクルスは、はしゃぐ彼らをそこに残して、1階をあちこち見て回った。

「もう用意は出来ているようだな。で、泰斗と鈴丸は明日からここへ移ってもらいたいんだけど、いいかな」

「え? いいんですか? うわあ嬉しい!」

 喜ぶ鈴丸にクルスのきついセリフが飛んだ。

「ただし自炊」

「うえっ」

 顔をしかめた鈴丸を、クルスは可笑しそうに眺めて言った。

「というのは冗談で、毎日の食事、それに掃除や洗濯もこっちで引き受ける」

「いや、そこまでお願いするのは・・・」

 遠慮する泰斗に、またクルスは可笑しそうだ。

「たぶんあっちを見たら、掃除や洗濯がおろそかになる理由がわかるよ」

 と、次元の扉とは反対の方にある、ドームを指さした。


 中はきっと、背をかがめないといられないな、と直正は思った。

 それだけこの温室だろうか? は天井が低く造られている。けれどそう考えたのは、甘かった!

「なんなんですか、これー?!」

 直正が叫ぶのも無理はない、自動で開いた扉の向こうには下に降りていく階段があったのだから。ここは、半地下になっているのだ。

 そして。

 ドーム越しのあたたかな外明かりの中に広がっているのは植物ではなく。

「研究所?」

 そこはまるでR4の移動部屋の内部のような、クイーンシティのロボット研究所のような、ブレイン地区にあるような最新の研究室だった。

「すごい」

 心ここにあらずな様子で辺りを見回す泰斗と鈴丸。

「これは見事だな」

 綴が感心したように言う。

「でも、なんでこんなものが?」

 泰斗の疑問に、クルスが答えたところによると。

 やはりここも、初代オーナーの意向で造られたものだった。彼らの協力と努力により、次元の向こうにもこちらにも平和が訪れた。ただ、時代の変化で何が起こるか、それは誰にも確かなことは予想できない。

 思いがけない事態が起きたときに、惑星の思惑に縛られず、すぐさま対応出来る施設は必要だろう。良くないことは起こってほしくないが、備えあれば憂いなし。

 と言う経緯だったようだ。

「ただ、あまりおおっぴらにしたくなかったので、外からは温室のように見える、こういう形になったのだと言うことなんだ」

「そうなんですか。けど、先見の明があるって言うか」

「当時は、と言っても200年以上前だけれど、まだクイーンシティの高い壁は扉が閉じられていたような時代だからね。先行きの不安はかなりあったんじゃないかな」

「それにしても、そんな年代物にしては、機器は最新ですね」

 綴が不思議そうに言うと、クルスはまた微笑んで言った。

「メンテナンスはずっと続けられているんだよ。いざと言うときに使えなくては意味がないだろう?」

「それは、そうですね」

 綴は思わず苦笑いする。

「でも、これで心ゆくまで研究が出来ます。ありがとうございます」

 と、早速機器にさわろうとする泰斗に、クルスが「おいおい」と慌てて言う。

「ほらね、掃除も洗濯も、食事さえおろそかになるだろう?」

 そのセリフには、泰斗と鈴丸以外の者が深ーく頷いた。

 クルスは泰斗の腕に腕を絡めると、直正に合図して反対側を持たせる。

「それは明日から。今日はホテルに帰ってゆっくり休むこと」

「え? でもせっかくこんな素敵な研究室があるのに」

「だーめだよー泰斗くん。今日は俺にクイーンシティの話をたんまりしてもらうんだから」

「鈴丸も行くぞ」

 かなり心残りがあるような鈴丸も、綴に腕を取られて、仕方なくそこを後にしたのだった。



 次の日。

 まだ夜も明けきらない早朝。

 大きな荷物を積んだカートが別荘の前に停まる。

 降りてきたのは、お察しのとおり、鈴丸と泰斗だ。

「まずは荷物を部屋に運んでからね」

「うんー、早く研究室に行きたいけど、仕方ない」

 2人は重そうなスーツケースをうんしょ、うんしょのかけ声とともに別荘の玄関へと運ぶ。

「あ」

 そこで鈴丸が気づいた。

「ここの鍵、もらってないよー」

「あ」

 途方に暮れる2人。

 そのとき。

 ガチャリ、と玄関の中で鍵を回すような音がした。

「「ひえっ」」

 いきなりだったので2人とも情けない声が出てしまう。

 そして。

 ギギー、と、(実際はそんな音はしていないのだが)誰もいないはずなのに扉が少しずつ開きはじめたので、恐怖に顔がひきつる。思わず手を握り合う2人。

「さすがにお早いですね」

 暗がりの中にぼうっと女の人の顔が浮かび上がる。

「「うわあー」」

 手を握り合ったまま、2人はその場にしゃがみ込んでしまう。

「た、たすけて」

 昨日クルスは何も言ってなかったのに、長いこと放っておかれたこの別荘には、何かが住み着いている? 2人はご自慢の科学もどこへやら、腰が抜けたように動けずにいた。

「おはようございます。本日から皆様のお世話をさせていただきます、スミスと申します」

 その幽霊は、スミスと言うようだ。

「す、すみす」

「お名前まで、あるんです、ね、あれ?」

 先に気がついたのは泰斗だ。足がある。

「ねえ、鈴丸。足がついてるよ」

「わー見逃してー、って、え?」

 うつむいていた2人の目にちゃんとした足が見えている。

 思わず振り仰いだそこには、清潔なメイド服に身を包んだ、クールな表情のご婦人が立っていた。年の頃はMR.スミスと同じくらい、とは言え彼がいくつか2人は知らないが。

「きっと2人ばかり、とんでもなく早く到着されると伺いましたので、深夜に起きてお待ちしておりました」

「深夜?」

「2時頃でございます」

 幽霊じゃない。

 きっとクルスが言っていた、食事の用意とか掃除洗濯をしてくれる人・・・。

 ようやく事態を把握した2人は、今度はガバッと頭を床にすりつけんばかりに下げる。

「「すみませんでした!」」

「?」

「僕たちは、今日からこちらにお世話になります、新行内 泰斗と」

「鈴丸・オルコットです」

「「よろしくお願いします!」」

 またガバッと頭を床にすりつける。

 そんな2人に見えないように、後ろを向いて少し吹き出した彼女は、くるりと正面を向いたときにはまた元のクールな表情に戻っている。

「よろしゅうございますよ。それより、お荷物をお運びいたしましょうね」

 と、2人の荷物を持って行こうとするので、彼らは慌てて自分たちで玄関の中へスーツケースを運ぶ。

「泰斗さまのお部屋が2階の一番向こう端、鈴丸さまのお部屋がそのお隣でございます」

「あの」

「?」

 部屋を聞いた後、泰斗が遠慮がちに言う。

「スミスさん、とおっしゃいましたが、えーとあの、MR.スミスとは・・・」

「いとこでございます」

「「ああ」」

 2人はまた二重奏で感嘆詞をもらす。

「じゃあ、どっちもスミスさんなんだ。なんだかややこしい」

「けど、彼はMR.スミスだよ」

「では、マダムスミスとお呼び下さい。それなら間違いございませんでしょう?」

 そう言ってニッコリ微笑むと、急に人なつこい顔になったマダムスミスに、2人は嬉しそうに返事した。

「「はい!」」

 2階に荷物を運んだあとで下へ降りていくと、マダムスミスは少し、いや、かなり早めの朝食を用意してくれていた。

 そのあと、細々とした日常生活の約束事を取り決めると、マダムスミスのお見送りを受けて、彼らは飛ぶように研究室へと向かうのだった。



 数日後。

 泰斗が緊張の面持ちで、研究室の、居並ぶディスプレイ前に座っている。

 ようやく音声画像会議の日程が決まったのだ、今日がその日。


 タヌキたちとの駆け引きが始まる。






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