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第2話 彗星の移動



 それはあまりにも自然だったので、はじめは誰もその変化に気づかなかった。

「あ、・・・れ? 彗星が・・・消えてる?」

「何だって?」

「見間違いじゃないのか」

 つぶやきを聞いた他の者たちが、次々と彗星のあるあたりを調べ直す。

 だが誰1人としてそこにあるはずの彗星を確認することは出来なかった。


「どうなってるんだ?」

「星に衝突したとか」

「まさか、それなら何らかの形跡が残るはずだ。他の物にぶつかったとしてもだ」

「そうだな」

 やがて、彗星が消えたあたりの座標を、あきらめず事細かに調べていた1人が「あ」と、小さな声を上げる。

「どうした?」

「見てみろよ」

 かなり拡大されているので、画像はピントが合わず、少しぼうっとしている。けれど、それは明らかに誰の目にも見えていた。

「ダークサークル・・・」

 そう、それは真っ暗な闇。闇で出来た丸い円だった。

 やがてその円は、中心に引きずられるようになりながら、小さくなって消えてしまった。

「あれに引き込まれたのか」

「まず間違いないな」

「だったらもう、衝突の心配はしなくてもいいのか?」

「そうだ! その通りだ」

 その後に発表された彗星消滅のニュースは、瞬く間に全世界に広がった。皆、一様に胸をなで下ろしたのだったが。


 それから幾日かすぎて、また新たな彗星が発見された。

 しかも、かなり近いところで。

 計測によると新しい彗星は、以前に消えてしまったのとほぼ同じ軌道を描いている。と言うことは、この水の惑星に衝突すると言う事だ。

 しかも、今度の衝突は数十年後とはじき出された。

「こんなに近くに来るまで、なんでわからなかったんだ!」

「いえ、こんな彗星は今までどこにもありませんでした。強いて言えば、突然現れたとしか・・・」

 そうなのだ、今までずっと以前の彗星を観測してその軌道に焦点をあわせていたのに、しかも前のよりも近いのに、誰にも気づかれない訳はないのだ。

「だとすると」

「あの引き込まれた彗星が、ワープしてきたとでも言うのか?」

「それしか考えられない」


 このニュースもまた、瞬く間に全世界に広まる。

 前のは数百年だったが、今度のは数十年。もろに自分たちに関わってくると言う事だ。

 すぐさま「ソラ・カンパニー」を通じて、クイーンシティにいる鈴丸に状況が伝えられた。




 ちょうどそのとき、鈴丸は第1拠点の元オアシスがあった場所にいた。

 ここにあった大きな湖が、今現在彼らが観測しているあの彗星だと思われている。湖の消失とともに、ここにあった小さなオアシスもなくなってしまったのだ。

「それにしても、海も湖も、川さえないのに、この次元って水は豊富だよね。地下に脈々と水流があるのは知ってるしわかるけど。いったいどこからやってくるんだろう」

 考えながら一人ぶつぶつとつぶやく鈴丸の頭に、誰かがポンと手を置く。

「あーなんだ、それはな」

 時田だ。

「時田さん! 知ってるんですか?」

「いや、ぜーんぜん」

 ガク。

 自信満々に言う時田に、音が鳴りそうにがっくり膝を折って肩を落とす鈴丸だ。

「けど、本当にそうだな」

「え? 何がですか?」

「水だよ水。俺たちにとってはあまりにも当たり前すぎて、考えたこともない。もしかしたらジャック国よりもっともっともっと、ずーーーーーーーーーーっと」

 と、おでこに手を当てて砂漠の遙か彼方を見やって。

「遠いところに水源があるのかもな」

「へえー」

 と、鈴丸も同じように砂漠の先に目を転じる。

「なんちゃって、これは俺のただの想像」

「ふふ、わかってますよ」

 おかしそうに言う鈴丸の頭を再度なでようとした時田の手が、ハタ、と止まる。

「来たぜ」

「?」

 不思議そうに時田の目線を追った鈴丸が見たものは。

 グニャグニャとゆがむ空間、そして浮かび上がって来る・・・、

「R4!」

 R4の移動部屋だった。

 意に反して、入り口から顔をのぞかせたのは、丁央とその後ろに泰斗。

「どうしたの? 2人とも」

 不思議そうに言う鈴丸の言葉にかぶせて、と言うより遮るような叫びが聞こえる。

「なんだお前たち! なんでR4の移動部屋に乗ってるんだ? 俺も乗せろ!」

 もちろん時田だ。

 言葉より早く、時田は移動部屋の入り口に突進する。

「あちゃー、時田さんがいたぜ」

 丁央が移動部屋の中に声をかけると、「りょーかい」とR4の声がした。

 いつもなら医療ちゃんか分析ちゃんがやってきて入るのを断固拒否するのだが、今日はそれもなく、それどころか丁央も泰斗もすんなり道を空けてくれる。

「? どうした、今日はえらく素直じゃないかお前たち」

「そりゃあね」

 おかしそうに言う丁央の横をすり抜けて、もみ手なんぞしながらやる気満々? の時田。

 だが、そこで見たものは。

「壁を破壊するのは厳禁だ」

 腕組みをして仁王立ちしている、ハリスだった。

「なんでハリスがいるんだ」

「丁央ガこれに乗っていくって言うカラ、用心棒ヲ、雇った、ンダ」

「はあ?」

 R4の説明に訳がわからない時田に、泰斗が説明する。

「鈴丸が第1拠点にいるって聞いたから、音声画像で話せばいいのに、丁央がわざわざ伝えに行くって言うんだよ。で、移動装置使えばいいのに、移動部屋で行きたいって聞かないんだもん。時田さんたちの移動部屋は使用中だし」

 と、第1拠点の横に置いてある、天文台型移動部屋に目をやる。

「ああ、そうだな」

「それで、丁央が乗るとあちこち触りまくって破壊されるーってR4が僕に助けを求めに来て、僕だって丁央を抑えきれないから、本当に悪いと思ったんだけど、ハリスに助けを求めたんです」

「丁央ハ、理屈もわかってナイ、上に、聞くよりハヤク、あちこち押しまくルのだ! 許せまセン」

 そこまで聞いた時田がおかしそうに笑い出す。

「ははは、それで抑えの効くハリスか。けど、俺は誰より理屈わかってるぜ。だから・・・」

 と、舌なめずりせんばかりにマシンに手を伸ばそうとする時田の前に、ハリスが立ちはだかる。

「さっきも言っただろう、破壊は厳禁だ」

「破壊なんかするもんか」

 それでもなお手を伸ばす時田を、今度はハリスが羽交い締めにして壁から遠ざけた。

「うわ、離せよハリス」

「だめだ」

「はーなーせー」

「だめだ」

 と、何度ものやりとりのあと。


「お? こいつはどうなってるんだ?」

 ぱし!

「いってえー、分析ちゃん容赦ないんだからもう」

 なぜかハリスにおんぶされている時田だ。これなら触りまくれないはずなのだが、気になったパーツを見つけると、ハリスの背中を這い上るようにして身を乗り出して、それらを触ろうとする。だが、医療ちゃんもしくは分析ちゃんのどちらかがいつもそばにいて、さっきのように時田の破壊行動を阻止しているのだ。

「壁の一つや二つ、はがさせてやればいいのにな、R4のやつ」

 そこまで徹底するR4に、丁央も苦笑気味だ。

「ダーメ、いったんはがすト、修復不能」

「うん、そうだね・・・」

 壁をしげしげと見たり優しく触ったりする泰斗。そんなことをしても、R4は彼にだけは何も言わない。

「でも、この壁を見ると、いつ見てもなんだか懐かしい感じがする。本当に、誰が作ったんだろう」

「キット、泰斗のように、優しい人、ダヨ」

 そういうR4は遠い昔に思いをはせるように、泰斗の背中を見つめるのだった。


「ところで、僕に伝える事ってなに?」

 この騒ぎの最中に移動部屋に入ってきていた鈴丸が聞いた。

「あ、そうだ! それを忘れてたぜ」

「もう、丁央が直接伝えに行くって言ったんだよ」

 泰斗に指摘されて、頭をかきつつ丁央が彗星の話をする。

「大変だ鈴丸! お前んとこの彗星が、ものすごく近くに現れた!」

「えーと、また新しいのが現れたんですか?」

「いや、ワープとか言ってたぞ。ダークサークルというのを通って、水の惑星へぐんと近づいてしまったらしい」

「え?」

 驚いた鈴丸は、思わず泰斗を見る。

「うん。僕は向こうの宇宙空間のことはわからないけど、こっちの空間移動みたいなのが向こうにもあるんだね」

「いや、人工的な空間移動の理論は、向こうの世界ではまだ確立されていないんだ」

「そうなの? だったらどうして」

「向こうの宇宙の謎はまだほとんど解明されていないんだ。ダークサークルだってなぜ現れるのかわからない。それがどこへ続いているのかも」

 それを聞いていた丁央が言う。

「昔、こっちの街を次々飲み込んでいったブラックホールみたいなもんだな」

「あ、そういえばそうだね。こっちの世界にも解明されていないことは多々あるね」

「そうだよ、どちらの世界にも謎はいっぱい」

「ワクワクするね」

「うん!」

 ひととき嬉しそうにうなずき合っていた鈴丸と泰斗だが、そのあと鈴丸が真顔になって皆を見回す。

「本当ならもっとこっちにいたいんだけど、ネイバーシティ・・・だけじゃなくて、水の惑星が大変なことになってるみたいだから」

「ああ、一度向こうへ帰った方が良さそうだな」

 丁央が言うのに、ちょっと残念そうな表情を浮かべた鈴丸だったが、すぐに気を取り直して言った。

「じゃあR4、クイーンシティまで連れてってよ」

「ラジャー、コレよりクイーンシティ、ブレイン地区へ、向かいマス」

 鈴丸はこちらにいる間、ブレイン地区の泰斗と同じアパートに滞在している。帰りの荷物をまとめるために、いったんそこへ行くのだ。

 それを聞いていた時田が、なぜかワクワクしながら言う。

「おっし! 善は急げだ! すぐに移動しろ!」

 時田は自分の乗ってきた天文台型移動部屋をほったらかしにして、ちゃっかりR4の移動部屋に乗って行こうとしているようだ。

「そうは問屋が卸さないですよ、時田さん」

 丁央が不敵に笑う。

「うわ! 降ろせハリス!」

「降ろせるわけがないだろう」

 ハリスにおんぶされたままだったのが幸いして(時田にとっては最悪?)彼は難なく外へと連れ出されていく。

「時田さん、あきらめて下さい。国王命令です」

「なんでえ? 職権乱用だぞ、この!」

「俺も時田さん自慢の移動部屋に乗せてもらいますから」

「俺はR4のがいいー。しかもなんで泰斗はあっちなんだよ」

 そうなのだ。泰斗は鈴丸とともに、R4の移動部屋に残っている。

「あの2人は、共同研究してたから引き継ぎですよ、引き継ぎ」

「ずるいぃぃぃ」

 移動部屋の扉が閉まる前、最後に聞こえたのは時田のすねた叫び声だった。



「ホント、時田さんってユニークだよね」

 扉が閉まって、急に静かになったR4の移動部屋で、鈴丸はおかしそうに言う。

「うん」

 泰斗も楽しそうだ。

 だが、2人はすぐに真剣な顔になって相談を始める。

「今度の彗星のワープ・・・ってあっちの世界では宇宙空間移動の事をそう言うんだけど、は、今回の一度きりで終わるとは、100%言えるわけじゃない」

「うん」

「だから、もし万が一、また彗星がワープして水の惑星にもっと近づいたと仮定した時の対策を、緊急に立てなくちゃならないと思う」

「僕もそう思うよ」

 鈴丸の説明に、泰斗も深くうなずく。

「それでね、以前話してたと思うあれを」

「うん、あれだね」

「向こうに帰ったら、実現出来るよう頑張ってみるよ」

 あれ、と言うのは、宇宙空間における空間移動のことだ。

 近づく彗星の軌道上にその入り口を置いて、どこかほかの場所(そんなに遠いところでなくても、水の惑星を通り過ぎたあたりなど)に出現させれば、少なくとも衝突は免れるはずだ。

「ただ・・・」

「うん?」

「彗星がばかでかいみたいだから、そんなことが果たして可能かどうか・・・」

 苦笑する鈴丸に、泰斗はもっともだとこちらは真面目にうなずく。最初に計測された彗星の大きさは、水の惑星とほぼ同じと言うことだった。

「・・・」

 返事が消えて、そこから黙り込んで自分の中に入り込む泰斗を、あれ? と言う感じで見つめる鈴丸だったが、きっと今彼の頭の中では、壮大な計算が行われているのだろうと察して、あえて何も言わずにそっとしておく。

 すると、図ったようにR4が鈴丸に話しかけた。

「設計ハ、泰斗なら不可能デハ、ない」

「え? はは、そうだよね~」

「タダシ」

「?」

 きょとんとした鈴丸に、R4が意外な意見を述べ出す。

「制作スル、材料ノ調達ダトカ、アッチの偉いヤツラの、許可だとか、ヤヤコシイー、のでは、あるまいか?」

 その現実的すぎる言いぐさに、きょとんとしたままR4の言葉を頭の中で租借していた鈴丸だったが、その意味がわかると、思わず笑い出す。

「アハハ、R4ってすごいね。経費とか根回しまで心配できるんだ。そうそう、あっちではさ、貨幣って言う、それがないと材料も買えないような、そんなややこしーいものがあるから大変なんだよね。頭のかたーいお偉いさんもわんさかいるし」

「ソーダロー」

「でも、その点は大丈夫。多分だけどね」

 鈴丸がネイバーシティに思いをはせるような顔で言った。

「あっちにはね、綴や直正や、それにソラ・カンパニーの社長って言う強い味方がいるんだ」

「ナルホド」

「え? これでわかったの?」

 驚く鈴丸に、R4はドヤ顔(のように思えるだけ)をして言った。

「R4、優秀ダもんね」

 このときR4の脳内では、緻密な理論を突きつけて頭の堅いお偉方に有無を言わせず制作を許可させている綴と、その後ろで文句を言うヤツらを難なく懐柔してしまう直正。そしてまだ会ったこともないソラ・カンパニーの社長が大盤振る舞いで貨幣(それもR4は見たことがない)という費用を出してやる姿が浮かんでいた(?) 

 これは定かではないが。


「うん、決めた」

 そんな中、ようやく現実に戻ってきた泰斗が、2人の方に向かって言った。


「僕もネイバーシティに連れてってよ」






  

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