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第13話 エピローグ


 祭りだったとは言え、あまりにもセンセーショナルな出来事から一夜が明けた。

 けれどSINGYOUGIホテルは、いつも通りのしずかな朝だった。



 というのは。

「アームス・トロンギ飛行士! あの絆創膏! いや、あの技術はいったいどういうものですか?!」

「詳しくはお話しできません」

「このようなアクシデント対応には、かなり訓練されたのでは?」

「それもお話出来ません」


 なんと、昨日の一連の出来事を収拾したのは、すべて惑星連合の宇宙センターが、かねてから計画して秘密裏に技術開発していたものになっていたからだ。

 彗星の軌道変更は上手くいったが、その後に起こった彗星の消滅は、たまたま小さなダークサークルが現れて、彗星を上手いことどこかへ連れ去っていったのだとも言った。

 それは、90年に1度のあの日だから起きた、奇跡のような話だったと説明した。

 直正の渾身の叫びも、なぜかすべて消去されていた。


 綴などは、タヌキじじいたちの陰謀だと憤慨していたが、ソラ・カンパニーの社長は、いや、これはSINGYOUGIホテル側の思惑でなされたことだと確信している。

 SINGYOUGIホテルは決して表舞台には出てこない。

 手柄を誇ることなど絶対にしない。

 裏で悪いことをする奴はごまんといるが彼らはその逆だ。

 縁の下の力持ちとして、誰に知られることもなく、水面下でひっそりと、世界を救うために力を尽くす誰かの後押しをする。


「でも、大騒ぎされるより良かった」

 泰斗も鈴丸も、そしてナオも、正直ホッとしていたのだ。

 惑星を救った英雄! などと騒ぎ立てられて、研究室に人があふれかえったりしたら、別荘や農場や、ホテルにも大変な迷惑をかける。

 次元の扉も以前とは比べものにならないほど有名になって、人が押しかけて。

 クイーンシティやネイバーシティを守りたいと言う、初代オーナーの願いがめちゃくちゃになってしまう。それだけはどうしても避けたかったから。

 だから、大勢の記者にかこまれて、「お話出来ません」を繰り返してくれている飛行士には、感謝さえ感じるほどだった。

 そんな謙虚な3人を見て、綴と直正は、これもある意味ハッピーエンドだなと納得するのだった。



 そして。

 明日はクイーンシティに帰ると決めた日の朝、泰斗はまた農場に来ていた。

「僕、明日帰るんだ」

「そうか。お前が来ないと寂しくなるな」

 マクランは湿っぽくならないように軽く言う。

「向こうにも遊びに来てよ」

 泰斗が誘ったが、マクランは首を振る。

「いいや、俺は行かないよ」

 しばらく何かをこらえていた泰斗が、吹っ切ったように言う。

「そう言うんじゃないかと思った」

「また遊びに来い」

 綺麗な笑顔で優しく背中を叩くマクランに、泰斗はこらえきれず、とうとう涙をこぼしてしまった。

「ずるいよ・・・」

 すぐに来られるとわかってはいても、やはり別れはつらいものだ。




 翌日、まだ明け切らぬ早朝に、泰斗とナオは次元の扉の前にいる。


 見送りは、鈴丸、綴、直正。

 クルス、ナズナ、MR.スミス。

 そしてマダムスミスだ。

「また行くからね。2人もまた来てよね」

「元気でな」

 鈴丸と綴と握手した泰斗がちょっと笑って言う。

「うん、でも今度は休暇で来ることにするよ」

 すると、泰斗とナオに覆い被さるようにギュウとハグして直正が言う。

「ええー? また君たちと仕事したあい」

「フガ」

「ウガ」

「やめろ直正」

 いつものやりとりの後、クルスとナズナ、そしてMR.スミスとも固く握手したふたりだったが。

 ナオは、マダムスミスの前まで来ると、いきなりぎゅっと抱きついた。

「また会いに来てもいいですか?」

「もちろんですよ」

 マダムスミスはナオの背中を、落ち着かせるように優しくトントンとするのだった。

「それではお二方、よろしいですかな」 

 MR.スミスがおもむろに扉を開いて2人を招く。

 金銀の中へ入った彼らの後ろから、静かに扉が閉じられた。


「さあーて、また明日から支店に帰って仕事だあー」

 うーんと伸びをして言う直正に、綴の容赦ない声が飛ぶ。

「今日からだ」

「ええー?!」


 思わず笑い出す皆に、朝日が美しい光を放って上ってきた。







 あのあとクイーンシティとダイヤ国の水不足は、嘘のように改善された。

 あと数万年は大丈夫だろう。


 そんなある日。

 泰斗に通訳を頼まれて、世界の果てを再度訪れるR4。

 通訳はいらないカラ、と断ったのだが、お願いされて、懇願されて、仕方なくやってきたのだった。泰斗1人では心配でもあったし。

「わあ! ここが世界の果て? わあ、なにここ、切り立った断崖絶壁! 下はなんでツルツルしてるの?」

 いつものごとく目をキラキラさせている泰斗。

「じゃあ、行くよ」

 泰斗が呼ぶので崖の端まで行って。

 恐がりのR4は、また泰斗にしっかりとしがみつく。

「よーし」

 すると想定外が起こった! なんと泰斗は飛び降りたのだ!

「ぎゃああああ」

「うわあすごいね!」

「泰斗ー!」

 R4の悲痛な叫びに、泰斗は飛び降りながら両足を出してツルツルにつける。

 ぐるん、と回ったような感覚があって。

 2人は水の起源にいた。


「わあ、すごい!」

 周りを見渡して歓声を上げる泰斗。

 そこへあの一角獣が現れる。

「あ、一角獣がいる」

 走り寄る泰斗に、なぜか一角獣は逃げていかない。誘われるまま、泰斗は一角獣について行ってしまう。

「あんまり遠くへ行っちゃダメよー」

 R4は、幼児を育てるお父さんお母さんの気分が大変よくわかった。

 そこへ、サア、と風が吹いて。

 振り向くと水瓶の護りがいた。


 水瓶の護りはゆっくりR4に近づくと、厳しい目を向ける。

 逃げだしたい気持ちを抑えて、R4は彼と対峙した。

「お前は200年前に忽然と現れたと聞いた。その頃、この世界は緩やかに動きを止めた。ロボット、なぜこの世界の自転を止めた」

「わざと止めたわけではない。やり直しをしただけだ」

「やり直しだと? なぜそんなよけいなことをした」

「・・・・・」

 R4は答えようとしない。

「答えろ、なぜよけいなことをした」


 そこへ

「R4」

 と声がした。

 見ると泰斗が戦闘ロボと手をつないで歩いてくる。

 水瓶の護りは目を見開いてその光景を眺めている。

「どーしたノ」

「うん、なんか離れてくれなくて。もう連れて帰っちゃおうかな」

 困ったように笑う泰斗に、水瓶の護りは驚く。

 最初に来た者たちには容赦なかったロボットが、決して誰にも慣れるはずのない戦闘ロボットが、易々と彼には手を預けている。

「ダーメダ、ブブー」

 R4がまた変な音を出すと、泰斗は苦笑してそのロボの方を向き、両手を取って言う。

「ごめん、R4が反抗期になっちゃうから、やっぱり一緒に行けないよ。また絶対来るから、約束」

 驚くことにロボは素直にコクリと頷いた。

 彼はそのあと、こちらに向き直って丁寧にお辞儀をした。

「水瓶の護りさんですよね? 初めまして、新行内 泰斗と申します。それで、・・・あの、またこの子たちに会いに来てもいいですか?」

 少し遠慮がちに聞く泰斗に、水瓶の護りは思わず頷いてしまう。

 すると彼は、本当に嬉しそうに笑った。

「ああ良かった、ありがとうございます」

 泰斗は離れようとしない戦闘ロボットと崖の方へ歩いて行く。


 後について歩いていたR4がふと立ち止まる。

 水瓶の護りがそちらを向くと、かれはうつむいていてほとんど聞き取れない声で言った。


「助けたかった、ドウシテモ」


 水瓶の護りが目を転じると、戦闘ロボットにぎゅうとハグしている泰斗が映る。

「R4、ぐすぐずしてるとおいてっちゃうよ」

「マッテー」

 急いで追いついたR4は、またふがいなく泰斗にしがみつく。

 そのまま泰斗とR4は、地平に落ちるように消えた。



「・・・よけいなことを」

 だが、つぶやく水瓶の護りの口元には、その言葉とは裏腹に、かすかな笑みが浮かんでいた。








ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

バリヤ11終了です。

続きはあるかもしれませんが、作者のことですからいつになるやら。

どうか首を長くしてお待ち下さい。それでは!

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