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第1話 ロボット健在


 プラチナブルーに輝く美しい彗星は、寸分の狂いもなく水の惑星をめざす。

 あと数百年。

 されど数百年。

 ネイバーシティを含む惑星連合は、一刻も休むことなくその行方を追いながら、来たるべき時に備えて手立ての方法を模索中だ。

 少なくともあの彗星は、直接自分たちには関係しない。けれど必ず来るとわかっていながら、何の対策も検討せずに放っておくことは、この星を担っていく若者には出来ない相談だった。



 そんなある日。

 サアーッと涼やかな音を立て、滑るようにそらを行く彗星に異変が起きたのはそのときだった。


 スイ、スイ、・・・


 不可解な音がしたかと思うと、前方の暗がりがぐっと広がる。

 その暗がりは、どんどん黒く、深く、濃く、闇はもうその闇すらも見えなくなっていく。

 彗星はその中心にまっすぐ進んで行き。


 闇に触れた途端、まるで包みこまれるように、ふいに消えてなくなったのだった。







「R4、そのまま動かないでいてよ」

「ブスー」

「え? なに今の音。どこか調子が悪いのかな」

「ブスー」

「本当だ。まずいよ、分析ちゃん医療ちゃん! 来て、早く」

 けれど、ぽっかり空いた移動部屋の出入り口からは、分析ちゃんも医療ちゃんも出てくる様子は全くない。

 ここはクイーンシティ・ブレイン地区。

 王宮の北側に位置する、研究所や工場などが建ち並び、美しい街並みを形作っている一角だ。整然と区画されたそのはずれには、ひときわ目を引く丸いドーム。小高い丘の上にあり、ブレイン地区にいればほぼどこからでもその姿を拝める、少し前に新設された天文台だった。

 今日は2人のロボット工学博士が、ロボットを引き連れてその天文台を訪れていた。

 1人はクイーンシティの天才、新行内しんぎょうじ 泰斗たいと

 もう1人はネイバーシティの工学博士、鈴丸すずまる・オルコットだった。

 おっと、忘れちゃいけない。

 先ほどその名前を呼ばれた、R4。

 彼? は200年ほど前、クイーンシティに忽然と姿を現した(と、この時間軸では思われている)優秀な翻訳ロボットだ。けれどその能力は翻訳だけにとどまる事が無かったため、今ではあらゆる用事を言いつけられている。

 そしてその相棒たち、分析ちゃんと医療ちゃん。

 その名の通り、分析ロボと医療ロボ。けれどそんじょそこらのロボットとは段違いの能力を有している。

 いったい誰がこのような優秀なロボットを制作したのか、彼らに聞いても、そのあたりの事は極秘事項と称して、けっして明かそうとはしなかった。


「あれえ、泰斗。分析ちゃんも医療ちゃんも来てくれないよ」

「アタリマエ、だヨー。ちっとモ、調子ナンテ、悪く、ナイ」

「そうなの? じゃあ何だったんだろ」

「ハンコウキ」

「は?」

「ハンコウキ、だー」

 棒読みのセリフに、首をひねる泰斗。

 あ、と言う顔をして、鈴丸が理解したようだ。

「反抗期だよ、反抗期。R4は現在、思春期真っ只中みたいだよ泰斗」

「え? あ、その反抗期かー、アハハハ」

 思わず笑い出す泰斗に、またまた「ブスー」と変な音を出すR4。

「2人トモ、ボクガ、翻訳ロボットだと言うコト、忘れてナイ?」

 そのセリフに、思わず顔を見合わせる2人。

「これハ、ワタクシの仕事デハ、ありません!」

 わざと、ボクではなくワタクシなどと丁寧に自分の事を呼ぶR4に、見合わせた顔を思わずうつむけて笑い出す。

「ごめんごめん、そうだったよね、R4って翻訳ロボットだった」

「優秀すぎて、もうなにが専門だったのか、忘れちゃうんだよお」

「オカシク、ナイ!」

 ふん! と言う感じで言い返すR4だが、優秀すぎてという言葉にほだされたのか、そのあとは少しおとなしくなる。

「☆〆Å∃∵≧∂Ω◆◆」

「∨♂∃〓§φζ」

 ここで初めて移動部屋の出入り口に姿を現した分析ちゃんと医療ちゃんが、ロボット語で何やら訴えかけているようだ。

「どうしたの? ふたりとも」

 泰斗がR4と分析ちゃんたちを交互に眺めて言うと、R4は少し間を置いて言った。

「自分タチも、優秀、だそうデス」

 その訴えに、また顔を見合わせた泰斗と鈴丸は、分析ちゃんと医療ちゃんに抱きついて嬉しそうに言うのだった。

「うーん、医療ちゃんも優秀だよー」

「分析ちゃんもとっても優秀。言わなくてもわかるというのは間違いだよね。やっぱり言葉ありきだよね」

 すると医療ちゃんと分析ちゃんは、嬉しそうに弾んだあと、納得したように移動部屋へ引っ込む。

「じゃ、続きを始めようか」

「OK」


 彼らが天文台までやってきて、何をしているのかというと。

 何ヶ月か前に、第1拠点にあった湖が、空に帰って行くという事態が起きた。そのあとしばらくして、ネイバーシティの次元で、リトルダイヤモンド色をした彗星が観測されたのだ。

 二つの世界は、次元の扉でつながっている。

 もし、ツインダイヤモンド星座がネイバーシティ側のどこかの宇宙空間へ通じていたのだとしたら、この彗星は第1拠点で空へ消えた湖がそこへあらわれたのだとも考えられる。

 しかも彗星は、まっすぐネイバーシティがある水の惑星へと向かっているのだ。

 今、彗星はまだ遠くにあり、水の惑星と遭遇するのは数百年後と計算されている。

 なので、彼らの世代には直接関係しえないのだが、衝突の危険性があるのに放っておく訳にはいかない。しかも彼らの仲間にはR4をはじめとするロボットがいる。おそらくR4たちは彗星が水の惑星の近くを通過するときも、まだ健在だろう。

 そのときに、その時代に生きる人たちに、次元を超えて少しでも役に立つ情報を残しておくのは、今生きている者の役目かもしれない。

 慢心だと言われればそれまでだが、泰斗は、そして鈴丸は、どうしてもほうってはおけないのだった。


 それで今、R4たちの記憶装置に、ネイバーシティの彗星とは直接関係はないけれど、こちらの次元の空の動きを、記録として残していくことにしたのだ。

「とは言っても、こっちの星って動かないんだけれどね」

 泰斗が苦笑しつつ言うように、クイーンシティの星は動かない。毎日同じ場所、しかも一晩中同じ場所で輝いている。それらが動くのは、この前の湖消失のように何かが起こるとき、もしくは星読みのときのみ、と言うのがこちらの常識だ。

「だからこっちの天文台は星空を眺める事だけが目的で、星の動きの観測って言う概念がなかったんだよ」

「そう、けどこちらにある動く星座がネイバーシティと深く関わりがあるんなら、もしかしたら何か変化があるかもしれないしね」

 この観測のことは、歴史を調べている遼太朗りょうたろうも、星読みをするラバラをはじめとする魔女の血を引く者たちも、そして国王である丁央てぃおもおおいに賛成してくれた。

 最初は「めんどくせエー」と嫌がっていたR4を説得すると言う後押しもしてくれている。

 ネイバーシティに働きかけて、鈴丸に協力を求めたのは丁央だ。

 鈴丸は、最初の任務のあと、つづる直正なおまさの強い要望と薦めもあって、「ソラ・カンパニー」への採用が決まった。

 というのは、ネイバーシティでは、琥珀こはくと同様に研究者である鈴丸は薄給で、アルバイトで生活費を捻出するしかなく、なかなか研究に専念することが出来なかった。その事実を知った綴と直正は、鈴丸の才能を埋もれさせておくのは忍びないと所長に掛け合って、説得して、口説き落としたのだ。

 実は「ソラ・カンパニー」は、水の惑星のどの機関からも独立している団体なのだ。設立目的は、水の惑星の調和とそこに生きるすべての生物の安定した生活。

 そして、社長の性格そのままのようなそのおおらかな社風から、かなり自由な立場で研究が出来る。

 研究に専念も出来る。

 それは、クイーンシティとの行き来においても大いに発揮される。

 そのため、今回も所長をはじめとする社員たちは、快く彼を送り出してくれたのだった。


「でもさ、こっちの太陽って、本当に毎日ぴったり同じ場所から昇って、ぴったり同じ場所に沈んでいくんだね。その事実だけで、すごい! ってもうワクワクする」

 鈴丸が本当に楽しそうに言うと、泰斗は反対のことを楽しそうに言う。

「それを言うなら、ネイバーシティの太陽とか星の方が数倍ワクワクする。なんであんなに動いてくの? なんでーってね、あーもう楽しい!」

 この可愛い(失礼!)博士たちは、世界の解明が楽しくて楽しくて仕方がないようだ。

「ソレニ、付き合わサレる、R4、カワイソウー」

 ブスッとした顔で(そんな風に見えると言うだけだが)つぶやいたR4が、もう一言。

「またハンコウキ、してヤるー」

 また、ブスーと音を立て始めたR4に、2人はこれは大変! と、両側から抱きついて一生懸命彼をなだめにかかる。

「よしよし、もう余計なことは言わないからさ」

「機嫌直してよお」

 しばらくそうしていると音が鳴り止んだので、R4の機嫌が直ったのがわかり、2人はそっとその手を離す。

「さて、それでは」

「観測を再開するよ」

 そう言って空を見上げた2人の顔からは可愛さは消え失せ、研究者としての凛とした表情が表れる。

「・・・」

 そんな2人を見て、しばらく無音で硬直していたR4がピピッと目に光りを取り戻し、ちょっぴり楽しげな声を発したのだった。

「しょーがナイから、手伝ってヤル」




 鈴丸がクイーンシティに滞在しているのには、もう一つ理由があった。

「いよう! 相変わらず頑張るなあ2人とも」

「どう? 星は動いたかな」

 やってきたのは、トニー&時田ときたのコンビだ。

「あ、トニーさん、時田さん、こんばんは。いえ、全然動きませんよお、ぴくりとも」

 ちょっと困ったように言う鈴丸に、時田が答えている。

「ぴくりともか。クイーンシティの星は相当頑固だな」

「全くです!」

 今度は力強く言う鈴丸に、時田はつい笑ってしまう。

「まあ気長にやってりゃあ、いつかは動いてくれるかもよ。なんせあっちの彗星とやらがやってくるまでには、何百年もあるんだろ?」

「それはそうですが」

 今度は心持ちしゅんとなる鈴丸の肩を、慰めるように時田がぽんぽんと叩いた。

「で、だ。ちょっと手が空いたから、この間の続きをしようと思ってな。わざわざ来てあげたんだぜー」

「え?! 本当ですか、ありがとうございます!」

 鈴丸は今度は大喜びだ。

「ああ、けど外じゃなんだから、中へ入ろうぜ」

 時田は、くい、と天文台を右手の親指で指し示す。

「はい!」

「じゃ、行こうか」

 微笑みながら先に立つトニーのあとに、鈴丸と泰斗が続く。だが、時田はなぜか天文台の方へは行かず、くるりと後ろを振り返った。

「R4~、と言うわけだからさあ、ちょっくら移動部屋見学させてよお」

 と言うが早いが、R4の横をすり抜けて移動部屋へダッシュする。

「ア」

 ほんの少し反応が遅れたR4だったが、そこは連携のとれた彼らのこと、出入り口には分析ちゃんが、デン! と構えて立っていたのだった。

「あれえ」

 首根っこをつかまれ、ポイされて尻餅をついた時田の横を、R4が悠々と通り過ぎていく。

「なんだよケチ~」

「ケチじゃ、ナイ! この間、泣きツカレテ入れてヤッタラ、時田、工具ヲ取り出して、壁ヲ引っぱがそうト、シタ!」

 そうなのだ、つい先日、あんまりうるさいのと、鳴き真似までしてくる時田がかわいそうになったR4たちが、お情けで移動部屋に案内すると、時田はものすごく嬉しそうにあちこち見て回ったまでは良いのだが。

「ここはどうなってるんだ? ここは? ここは? あー壁が邪魔してわっかんねえ」

 と、頭をかきむしり、外へ飛び出していったかと思うと、工具類一式を抱えて帰ってきて壁を取り外そうとしはじめたのだ。慌てたR4たちが後ろから羽交い締めにして、工具もろとも外へ放り出し、そのときは事なきを得た。

「あーあのときは嬉しくてだな」

「ダカラ、ぜーったい、ダメ!」

 厳しく? 宣言するとR4は移動部屋に乗り込む。しばらくして出入り口が閉まると、グニャグニャと空間がゆがみ、フィンと心地よい音がして移動部屋は消えてしまった。

「おおー、久々に間近で見たぜえ。やっぱすげえな」

 座ったまま感心する時田に、遠くから呼ぶ声がした。

「おおい、時田。早く来い! 日が暮れるぞ」

 トニーだ。

「わかったよ。ってもう日は暮れてるぜー」

 よっこらしょと立ち上がるとパンパンと尻をはたき、時田は皆の待つ天文台へと歩いて行った。


「と、この原理はこう言うわけだ」

「はい、ここまではよくわかりました」

 天文台の中にある小部屋を借りて、トニー&時田が鈴丸と泰斗に講義をしている。

 空間に浮かび上がったディスプレイには、一般人が見ても皆目わからない数式や図面が所狭しと書かれている。

 実は、彼らは空間移動の第一人者であるトニー&時田に、空間移動の概念を教えてもらっているのだった。これは鈴丸が2人に懇願した事だ。

 鈴丸はこちらの次元に来て、初めて空間移動というものを経験した。

 天文台型の移動部屋や、クイーンシティからダイヤ国へそしてジャック国へと飛ぶ拠点の数々。こちらの人々は、なんの不思議も感じず、それらを使って、まるで手頃な乗り物に乗るようにひょいひょいとあちこちを行き来する(しかも無料!)

 鈴丸にとって、それは驚愕すべき事だった。

 いや、ネイバーシティのすべての住人にとっては、と言うべきか。

 それで鈴丸は、ネイバーシティでも空間移動というものができないかと考えたのだ。次元が違うのだから理論も概念もまた違うだろう。学んでも向こうではなんの役に立たないかもしれない。

 だがもし、あれを使うことが出来たなら。

 あの彗星を。

「規模が大きすぎるかな、けれど、あきらめたらそこで終わり、だよね」

 なんと鈴丸は、ネイバーシティで空間移動を成功させるだけでなく、宇宙空間でそれを使えないかと、そしてやがて来るべき彗星をなんとか出来ないかと、とんでもなく規模の大きいことを考えついたのだ。

 そしてそれを聞いた泰斗が、協力したいと言ってくれた。そしてともにトニーと時田の講義を受けると言う。

「え? 泰斗なら講義受けなくても空間移動の理論、わかってるんじゃ」

「うーん、おぼろげにはね。けど、全然違う環境で成立させるんなら、細部までっていうか、夢に出てくるくらいちゃんと自分の中に落としておかなきゃ。そしたらアクシデントがあったときに、無意識から引き出せるから。ラバラさまに言わせると、人の無意識下から引き出される直感って、魔術や魔法と同じくらい、いや、それ以上の力を発揮することがあるんだって」

「そうか」

 泰斗の言葉に感心した鈴丸は、自分も頑張ろうと思わず力が入るのだった。

 その泰斗ははじめ、ネイバーシティの宇宙空間が真空だと聞いてびっくり。気温がマイナス200度以上だと聞いてまたまたびっくり。けれどびっくりしたあとは、持ち前の好奇心と探究心で、

「一度向こうの宇宙空間とやらに行ってみたい。実際に経験したら何かわかるかもしれないし」

 とまで言ってくれた。

 とはいえ、まだそこへ行き着くには遠い遠い道のりが必要だろう。ネイバーシティで空間移動が本当に出来るかどうかがまず問題だし、出来たとしても、まるっきり条件の違う宇宙でとなると、これもまた難題だろう。

 とはいえ、泰斗の協力を得られたことで、鈴丸は成功の確率が倍、いやそれ以上にはね上がったと確信した。

 なぜって?

 だって、泰斗だから。

 泰斗なら、次元の違いを乗り越えて、真空や超低温をも乗り越えて、粘り強くあきらめることなく小さな積み重ねを重ねに重ねて、ついには理論を完成させてしまうだろう。鈴丸も持てる力を最大限に発揮して協力し、彼とともにその完成を見届けたい。

 ただ、自分たちが生きている間にそれが顕現されるかどうかははなはだ怪しい。

 というのは、頭が堅くて古い考えにとらわれているネイバーシティのおえらい方々が、自分たちに影響のない彗星のために、そんな計画や実験をさせてくれるとはとうてい思えないから。

 だから、いずれ来るときのためにR4に自分たちの成し遂げたものを託しておこうと思っていた。

 きっとR4も嫌がらずに協力してくれるだろう。あれ? 協力してくれるよね?

「じゃあ次、行くぞー」

 考えるともなしに頭の隅っこであれこれ考えていた鈴丸は、絶好調の時田の声にハッと我に返り、「はい!」と、いつになく良いお返事をして、トニーに可笑しがられたのだった。





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