地獄突入
訓練後、1日の休息日を置いて遂に侵攻作戦を開始した。神都を発ち、地獄に連なる神殿から地獄領に進む。
1万の天使勢の先頭に立ち、俺は行軍する。地獄領に入る門、“地獄門”が目前に迫った時、行軍を一時停止した。
この先には何があるかわからない、未知の領域だ。最初は俺とトゥグリル、レイ、レイナ、フェリクスが100人を率いて突入、十分な時間を確保し、その間に本軍を地獄領に侵入させる。その間はディアナさんが指揮権を握り、コルネリアとエイダがそれを補佐する。
「破壊!」
俺の指示でトゥグリルが地獄門を破壊する。正直トゥグリルでも壊せるか心配だったが、トゥグリルはそれを易々とやって見せた。こいつは俺が思っている以上に成長しているようだ。
「よし、突入開始だ。」
俺の左右から4人の天使が地獄門に突入する。あとに続いて選び抜いたAランク以上の精鋭が一挙に突入する。皆、トゥグリルと俺が鍛えた弟子たちだ。一個旅団に相当する戦力を持つ。
地獄領に入った俺たちは、門番長と思われる禍々しい鬼を2体蹴散らし、迫る敵兵と戦闘を開始した。俺の眼下で戦っている敵は恐らく5000と言った所だろう。戦闘の間に本隊が地獄領に突入してゆく。
レイも“次期熾天使”と目されるだけある強さで敵を圧倒していた。
そして、なんとトゥグリルは“鏖殺公”による広範囲攻撃を無詠唱でやって見せた。いやはや、トゥグリルの成長速度は恐ろしい。
戦闘が始まって1時間ほど、門を守備していたと思われる1万前後の敵兵はトゥグリルを始めとしたたった100人の天使に、もはや一方的に殲滅戦を受けていた。陣形の様相は呈しておらず、勝利もまじかと言ってよい程だ。
「おっと、あぶねぇ。」
右後ろから攻撃してきた地獄兵を軽く地面に突き落とす。まぁ、力を抑えたといってもあの地獄兵は既に死んでしまったようだ。
戦場の各地ではトゥグリルが鍛えた“雷龍四天王”が思う存分暴れている。
「ボクにかかればちょちょいのチョイ!」
ヴェルニカは“原子崩壊”という聖術系で最強の術の劣化版を連発し、敵を次々と気体に変えている。そもそも天使という職業に就きたいと思う人は大きく分けて3種類だ。
1つ目、「神様方のお役に立ちたい!」という真面目系、全体の10%程だ。
2つ目、「天界に来たけど、つまらない!」という運動系、全体の70%だ。
3つ目、「暴れたい! 殺したい!」という戦闘系、全体の20%を占める。
トゥグリルの部下の大半は3つ目の理由だろう。思う存分に殺戮を楽しんでいる。もはや爽快な程だ。
「我が主、敵の大将格の者を20名ほど倒しました。雑兵どもの始末に掛かりますが、宜しいですか?」
どこからかトゥグリルが現れ、俺に指示を請う。
「そうしてくれ。逃げる奴は逃がしてやるように。」
トゥグリルは俺の指示に忠実に、逃げる者は逃がしてやり逃げない者は徹底的に殺しつくした。
既に本軍は地獄領に入り、コルネリアが騎兵隊を率いてトゥグリルらの援護を行おうとしている。まぁ、必要ないのだけれどね。
「コルネリア! お前が今いる辺りにテントを張ってくれ。先方部隊の回復を頼む。」
コルネリアは騎上で空中の俺に一瞥すると、部下に何やら命令していた。
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地獄門周辺に支配領域を確立し、陣を張った。本営のテントには主要幹部8名が集まり、今後について話している。
「もっと強いと思っていたが、案外弱かったな。」
「私もそう思います。我が主。失望してなりません。」
「しかし、これが罠という可能性も……。」
「大丈夫じゃないの? 私も見てたけど、大して訓練を積んでいるようには思えなかった。」
様々な意見が交わされる。
「ひとまず、地獄領の地図が欲しいな。地獄門にあった門衛所には大した地図もなかったし。」
と言う訳で第一課題が決まった。地図がなければ行動できないため、地図を確保する。100キロほど先にある城塞を攻めることが決まった。