作戦立案
神都に戻った俺は、やはりディアナさんに叱られることになった。いや。俺のせいだからしょうがないんだけどね。
「そうだ! 地獄侵攻にトゥグリルを同行させるのはどうかな? 有力な戦力だと思うんだけど。」
咄嗟に話題を逸らす。トゥグリルを地獄侵攻に連れて行くのは決定事項だったが、それをあえていう事で話題を逸らす。うん。すばらしい。
『注意、ポジティブ思考なのは良いことだと思いますが、度を超すと身を滅ぼしますよ。』
“叡智を知る者”が注意してきた。まぁ、最近も結構注意受けていたからなれっこだ。
さて、残りの天使をどうやって集めるか…。まぁ、呼ぼうと思えばどこからでも呼べるのだが、現状を考慮して前線投入されていない優秀な部隊を作る必要があるのだ。
俺が不在の間、ディアナさんが候補となる部隊をいくつか選出してくれていた。
もうこれでいいや! と言うことでディアナさんが出してくれた候補部隊の中から良さげな部隊3つを呼び出した。
智天使ユウキ・レイ・ザフキエル率いる“刻帝大隊”2000人
智天使レイナ・クラウス・カマエル率いる“灼殲大隊”1000人
智天使フェリクス・アスペル・メタトロン率いる“誓滅大隊”1000人
先日の魔軍討伐の援軍として駆り出されていた部隊だ。智天使ユウキ・レイ・ザフキエルは智天使の中でも特に秀でているそうで、Sランクなのだとか。
コルネリアやエレンを含む各大隊の長と俺、そして侵攻軍の副官であるディアナさんが1つの部屋に集まった。天使省の本部ビルの地下3階に位置する会議室だ。もう連れて行く天使たちも決まっているわけだし、あとは作戦を考えるだけ!
「では、侵攻作戦の概要について説明させていただきます。
熾天使アルフォンス・ヘルグヴィスト・ルシファーを総大将とし、1万の軍勢をもって地下地獄領へ侵攻します。目的は閻魔大魔王討伐です。
目的は決まっておりますが、基本的な作戦は決まっていません。今日はその作戦について議論していただきます。」
ディアナさんの儀礼的な説明で会議が始まった。
「本作戦の意義を問いまーす。総大将殿?」
レイが訊いてきた。俺は“叡智を知る者”に頭の中で協力を仰ぐ。
『この大戦の発端は地獄を統べる閻魔大魔王が地獄を使用する国々に多大な税を要求したことです。』
「この大戦の発端は地獄を統べる閻魔大魔王が地獄を使用する国々に多大な税を要求したことです。」
『大戦を引き起こした閻魔大魔王をわれら西方神国が討伐することで、大戦を集結させる意思があると思われます。』
「大戦を引き起こした閻魔大魔王をわれら西方神国が討伐することで、大戦を集結させる意思があると思われます。」
“叡智を知る者”が言った言葉をまねするだけで会話が成立するとは…。俺(“叡智を知る者”)が説明を終えるとレイも理解したようで数回頷くと背凭れに身体を預けた。
本格的に作戦会議が始まった。といっても地獄領の地形も不明なため部隊配置しか決まらなかった。
前衛を ユウキ・レイ・ザフキエル率いる“刻帝大隊”2000人
レイナ・クラウス・カマエル率いる“灼殲大隊”1000人
フェリクス・アスペル・メタトロン率いる“誓滅大隊”1000人
の計4000人が守備する。前衛総指揮官はレイに委任した。
左翼を エレン・レイク・マルティエル率いる“天雨大隊”1000人が受け持つ。
右翼は コルネリア・エトホーフト・マスティマ率いる“悪滅大隊”1000人が受け持つ。
中央の俺が率いる“煉獄大隊”4000人の内、500人を俺の弟子トゥグリルに、もう500人をディアナさんの指揮下に入れた。
ぶっちゃけ“叡智を知る者”が指示してくれていたのを俺が巧みに皆を誘導し、この配置にさせたのだ。基本的には戦略的索敵陣で前進するらしい。
会議終了後に思ったのだが、今作戦女性天使が多くないか? いくら女性総活躍社会と言っても男性幹部が俺とフェリクスだけなのか? ……しかも、俺は中性だ。この間までは中性的男性だったのがこの間、遂に中性になってしまった。
大神ゼウスからの命令では、侵攻開始は6日後に迫っている。
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侵攻開始2日前、神都の地下に作られた正式名称「戦略規模訓練場」で俺たち侵攻軍は作戦訓練を行っていた。
今回はトゥグリルの実力を試す意図もある。
まず、戦略規模での訓練を行った。トゥグリルが訓練前に俺が与えた1000人の天使から選りすぐりの者を100人選び出し、自己流に鍛錬を積ませたそうだ。既にトゥグリルの指導についていけなくなった者が多々現れた様で、二十数人まで減っている。
そもそもトゥグリルに天使を指導できるだけの要領はない。ではなぜ指導できたのか。それは俺の弟子であるトゥグリルは俺の“叡智を知る者”の補助で召喚前の数千万年の記憶を呼び戻したのだ。その為、効率の良い戦い方、戦いとは何か、圧倒的に勝つことの意味、それらを全て思い出したのだ。
第一訓練、コルネリアが鍛え抜いた“悪滅大隊”とフェリクスが率いる“誓滅大隊”の実践訓練だ。
俺の「始め!」の合図で両智天使が右手を振り下ろした。両軍が激突する。
フェリクスは騎兵を動かし、左右両翼から突撃させた。中央の歩兵陣は広がり、天使の壁を築くようだった。
壁となった天使は盾術を使い、コルネリアの部隊から放たれる遠距離攻撃を防ぐ。その後ろで数百の天使が仲間の回復に勤しむ。攻守のバランスが取れた形だ。対するコルネリアは正面に重装備天使を並べ、聖術による弾幕も張っているが守備一辺倒に見える。だが、俺やトゥグリル、その他優秀な天使は気付いていた。コルネリア部隊は守備専門の天使の後ろで大規模聖術の準備を進めていた。上手く防御フィールドで隠していたが、高位者は見破ることができる。
でも、あのバカ女がこんな繊細な陣形を組むとは…。意外そのものだった。コルネリアが使っている陣形は常に指揮官が戦況を把握し、陣形を柔軟に整える必要がある。その陣形を作る自信があるのは逸材か無能だが、その陣形を維持するのは間違いなく天才だろう。
フェリクスもコルネリアの考えが読めたらしく、陣形を再編しつつあった。だが、コルネリアの真の目的は大規模聖術ではなかったようだ。
「全軍包囲陣形を組んで突撃!」
コルネリアの声が響き、いっきに基の陣形が崩され、そこから攻撃に特化した天使が飛び出す。フェリクスの築いた天使の壁は瞬く間に破られ、フェリクス周辺を数十名で包囲した。コルネリアも一軍を率いてフェリクスの包囲陣に加わる。
「止め! “悪滅大隊”の勝利!」
俺の合図で戦いが止められた。一瞬コルネリアが舌打ちしたように思えたが、まぁ、無視することにしよう。
第二訓練、これが俺にとっては本命だ。レイ率いる“刻帝大隊”とトゥグリルが鍛えぬいた“煉獄旅団・龍撃中隊”の勝負だ。
これには多大なハンデがあった。トゥグリルの部隊は500人に対しレイが率いる“刻帝大隊”は2000人の戦力を有しているのだ。
「クッシシシシ、私の力があればこんな雑魚ども余裕ですがね。ここは私が育てた者の実力を我が主に見て頂かなければ。」
なんか最近トゥグリルの口調が「超有能な執事」風になっていたが、どうやらそれ以上だったようだ。
「ヴェルニカ! ランハルト! クロエ! フェーリア! 彼方達で目の前に群がる蟻を殺さない程度に踏み潰しなさい。当然出来ますよね。失敗したら特訓5割増しです。」
プライドが高い天使たちはトゥグリルの発言に怒った様だったが、トゥグリルの部下はピクリとも動かない。というよりはプルプル震えているように見える。噂に聞くと、トゥグリルは出来ない部下の腕を2、3本へし折り、負けの痛みを教えると回復術で腕を元通り、それ以上に復元し、また扱き続けるそうだ。まさに鬼だな。それか悪魔か。
さぁて、トゥグリルの育てた天使はどのくらい強いのか。気になるな。




