神の力
俺は今、天使省の会議室である女性と会話している。その女性の名はディアナ・アレンス。元大神ゼウス第一秘書官だった人だ。
「では、改めまして、私は魔天使ディアナ・アレンスです。」
早速口に含んでいたお茶を吹き出すところだった。え? 熾天使長? そういえば知らなかったけど…。は? え?
「言っての通りです。魔の天使です。」
俺は魔天使など聞いた覚えがない。それは俺が無知なのか? 俺が世間知らずなのか?
「私は魔物と天界人のハーフですので。半分魔物の血が混ざっているのですよ。ほら。」
そう言って羽を広げる。4枚の羽の内、俺から見て右側は純白の羽、左側漆黒の羽が生えていた。
「私は子供の頃魔物だなどとひどく言われましてね。天使になって見返そうと思ったら羽が黒と白だったのですよ。なので天使職は諦めて、秘書になったんです。
能天使として働いていた時期もあったのですよ。でも、周りに嫌われてしまって…。
あと、一応A⁺ランクの天使です。」
あれ? 能天使だったんですよね? ちょっと最後の言葉が気になりますけど、まぁ、いいよね! 俺の方がランク上だしね!(天使界の最上位だから当たり前)
さて、ディアナさんが教えてくれた情報は要約するとこうなる。
まず、なぜ東西戦争が勃発しているのか。
公開されていなかった戦争に至る道をディアナさんは教えてくれた。戦争の原因、それは地獄の統治者である閻魔大魔王だった。
戦争が起こる前の年、先代の閻魔大魔王が崩御し、後を継ぐ形で閻魔大魔王になったのがエフリートという若者だった。そもそも地獄は各国に必要なものであって、各国は閻魔大魔王に支援金を送ることで地獄の使用権を得ているのだ。
新たに閻魔大魔王になった彼は、天界各国の主神が集まる場でこう言い放った。
「各国が私を王とする地獄に支援金を払っていただいていること、とてもうれしく思います。ここ最近の好景気を考えまして、支援金の額を10倍にして頂きたい。払えぬとなればその国の地獄使用権は当然剥奪となります。どうぞお考え下さい。」
主神に対する礼儀も何もあったものではない。彼は金をもっと寄越せと言ってきたのだ。当然、小国家では算出できないほどの請求書をもって。日ノ本の国は序列3位の神が主神として統治しているが、日ノ本の国が強靭という訳ではない。日ノ本の国は列島に生まれた小国なのだ。当然地獄が請求した額の半分も払えない。
そこで、日ノ本の国を始め、小国群は他国への侵攻や略奪を開始した。小国がそれより小さな小国に攻め込み金品を奪い去って行く。力を付けた小国は大国に攻め入り略奪を働く。それが各地で起こり、暗黒時代と呼ばれる戦乱の時代が始まったのだ。
大国は支援金が増やされても大した損害はなかったため傍観していたが、数十年も経つとその深刻さゆえに対策を講じ始めた。だが、既にかつての小国は大国以下とはいえ力をつけ始め、大国に挑もうとする小国すら出始めていた。
西の大国、西方神国は早期から地獄侵攻を計画していた。全ての発端である地獄を手に入れようとしたのだ。だが、小国群で一、二を争う力を持つ日ノ本の国の西方神国侵攻が始まったのだ。日ノ本の国が陸路をたどって西方神国まで行くには東の大国、東華の国を通る必要があった。しかし、東華の国が日ノ本の国に敗れただとか滅ぼされたなどの情報は西方神国には入っていない。
つまり、東華の国の主神、同列第3位の盤古大神は日ノ本の国の主神、天照大神と手を組んだことになる。
これといった同盟国がない西方神国は孤立することになったのだ。
そもそも、なぜ西方神国に同盟国がないのか。先代のゼウスが保守主義者だったからだ! 先代ゼウスは同盟国すべてと縁を切ったのだ! 許せない!
しかも、先代ゼウスが唯一の同盟国と位置付けていた北欧神国が同盟破棄を現ゼウスが治める西方神国に言い渡したのだ。現ゼウスは前々から企んでいた北欧神国への侵攻作戦を決行。結果は数の差で西方神国が圧勝し、北欧神国は西方神国の属国となり形だけの自治権を与えられていた。
まぁ、北欧神国のことは関係ないのだが、問題は連れて行く天使である。1万の天使をつれてゆくことは決定しているのだが、中身、つまり誰を、どの部隊を連れて行くのかが決まっていない。
「私のツテで最前線の精鋭部隊を連れ戻しましょうか?」
うん。有難い提案だけどディアナさんは黙ってて。というか、最前線の精鋭を1万も引き抜いたら戦線が持たないだろ!
そこで、俺はとりあえず引き抜いても大丈夫で、まぁまぁ実力のある部隊を呼び寄せてみた。
智天使コルネリア・エトホーフト・マスティマ率いる“悪滅大隊”1000人
智天使エレン・レイク・マルティエル率いる“天雨大隊”1000人
これに俺の直属部隊“煉獄旅団”4000人を入れてもあと4000人の天使が必要だ。あのえせ貴族の息子は智天使長を止めさせられているから(その理由がなくても)絶対に連れて行くことは出来ない。(そもそも連れて行きたくない!)
さて、どうこう考えていたら“天からの声”が聴こえてきた。まぁ、予想はできる。俺の守護神で加護を授けて下さっている地母神ガイア様からの呼び出しだ。
俺がガイア様の屋敷に到着すると、すぐにガイア様の執務室に連れて行かれた。
「わぁ! アルちゃんやっぱり可愛いわね。私が加護を授けただけある可愛い顔よねぇ!」
執務室に入って早々、ガイア様に抱きかかえられた。20代中期に見える80代のガイア様は俺が神都に来たときは必ず呼び出す。子供は成長が必要だと言って少し容姿を変えてくれるのだ。
「さぁ、見てみて! 出来たよ。」
渡された鏡で自分を見た。
なんだこれ⁉ はぁ? 女じゃねぇか!
一瞬高校生くらいの女子に見える格好だったのだ。まぁ、長髪の可愛い男子にも見えて来る。まぁ、女子に居たら惚れてしまいそうなほど可愛いが、それが自分だと思うと不思議な気持ちになる。
俺が不満そうな表情になると、ガイア様は一つの提案をしてくれた。
「じゃあ、私がアルちゃんに1つプレゼントをあげるわ。それで勘弁してね。」
そう言って俺の周りにサラサラっと聖術陣を書いた。俺の前に立ち、ガイア様が額を俺の額に合わせる。
その時、俺に力が入る様な感覚があった。かつてガイア様の力を少し頂いた時と同じ、いや、それ以上の力が授けられるようだった。聖術陣の光が収まった。俺は以前の力を遥かに凌駕する感覚があった。
「おっけーかな? 大丈夫?」
ふぅ、とため息をついてガイア様が俺を覗き込んでくる。
『大丈夫です。熾天使アルフォンス・ヘルグヴィスト・ルシファーの肉体との適合率100%』
「!?」
俺の頭の中に声が流れた。え? 誰? 天の声?
俺が混乱していると、
「大丈夫みたいね。私がプレゼントしたのは“叡智を知る者”。結構前にあなたにプレゼントしたのは“炎を宿す者”という力よ。
まぁ、特殊級の力だったけど、今あなたにあげた力は神級の力よ。」
『その通りです。私は“叡智を知る者”。どうぞよろしくお願いいたします。』
礼儀正しく挨拶をしてくれる。
『それでは、主人のステータスを表示します。
個体名 :アルフォンス・ヘルグヴィスト・ルシファー
職業 :熾天使
加護 :地母神の恵み
所持資格:剣士、聖術師、天使、日本拳法五段、将棋アマチュア三段
HF :67000000
所持能力:神級能力 「叡智を知る者」 思考加速・別人格編入・作戦立案
究極級能力「雷神の力を受けた者」 雷撃無効・神耐性・雷龍召喚
特殊級能力「炎を宿す者」 炎撃無効・炎撃吸収・炎系聖術上昇・
「守る者」 HF管理・防御術式常時展開
「速き者」 速度上昇・瞬間移動・常時回復
ランク :SSSS
……以上です』
うん。軽く吹き出しそうな気持になるのは俺だけではないと思う。え? SSSSランクって…確か危険対象だよね。俺、ついさっきまでSランクだったんですけど。秘密にしていることもバレてるし…。というか究極級能力の“雷神の力を受けた者”ってなに? 知らないんですけど⁉
『あなたがゼウスの雷撃によって死んだことにより備わったのものと思われます。』
説明ありがとう。って、はぁ⁉ なに説明してくれているの?
「やっぱり疲れるわ。どう? 喧嘩せずにやっていけそう?」
「いや、とても有難いんだけど、こんな神級能力くれちゃって大丈夫なの? 神様って、神級能力がいくつか備わっているから強いんでしょ。」
「大丈夫よ。私には“叡智を知る者”と同じような究極級能力“智を司る者”を持っているから。」
『反論、私の方が上位能力です。同じような、で括られては甚だ迷惑です。』
へぇ、反論できるんだ。凄いね。と言う訳で俺は神級能力を手に入れたのだ。ちなみに秘密らしい。さすがのガイア様でもこれがバレてはまずいようだ。
神級能力を授かったことにより俺は危険対象SSSSランクになった。だが、かつてガイア様に貰った特殊級能力“HF管理”によって聖神量が溢れ出るのを防ぎ、正体を偽ることができた。普通の目で見たら俺はSランク相当に見えるだろう。
まぁ、まず“雷神の力を受けた者”という究極級能力の一端、“雷龍召喚”を試してみようと思った。