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『西天こころ』は文字の上で生きる38@エピローグ

 僕は今日の出来事を日記につづり終えた。

「と、いう感じだ。当たり前だけど、こころはこころだね」

 虫の鳴き声が外から聞こえてくるくらい静かな室内で、僕はこころと話す。

『……ほふぅ、よかった。あたしね、強がってみたけど実のところ見捨てられるのがめちゃくちゃ怖かったの』

「そういうことは言ってほしかったよ……。僕だってもう少し気を使うからさ」

『言ったらうーちゃん、ろーちゃんに会いにいかなかったと思うね!』

「うっ」

 そうかもしれない。

『ね、うーちゃん』

「なに?」

『あたしも、もっとうーちゃんと話していたかったんだ』

「……ん」

 こころがそう言ってくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと体がむずかゆくなる。 

「もっと話していたいのは僕も一緒だけど、いつかこっちに帰ってきてよ。けっこう大変なんだよ、毎日日記書くの」

『あはは、わかってるって! もう少し医療が発展すればあたしも復帰できるって!』

 前向きだなぁ。

『それまで迷惑をおかけしますが、あたしをよろしくお願いします』

「嫁入り前みたいなセリフだね。まぁ、こっちに戻ってくるまで意地でも生きてもらうよ」

『わかってるって!』

 こころが戻ってくるまで、僕がこころが現世に存在しないという空白を埋めよう。 

 生きていくうえで僕はこころが必要だし、こころは僕が必要だ。

 こころは現世に存在するという面で僕に依存しているし、僕は精神面でこころに依存している。

『しかしあたしは驚きだなぁ。まさか幽霊じみた存在になっちゃっても友達ができるなんて! しかも相手があのふーちゃん大先生! しかもしかも文通までしてくれるなんて……ほふぅ、うーちゃんに憑りついて正解だったぁ』

 現世から隔離されているこころは、基本的に人とのコミュニケーションに飢えている。友達になった文月ちゃんと文通することがよっぽどうれしいみたいだ。

「話してみるものだね。今日だけで文月ちゃんとろここちゃん、二人もこころの現状を理解してくれる人が増えたわけだ」

『ろーちゃんはさすが我が半身だって感じだね! また一緒に遊びたいなぁ』

 僕とこころだけで閉じていた関係が、少しだけど広がってきた。

『ほふぅ、しかしろーちゃんは理解者であると同時にあたしにとって強敵なんだよね。うーちゃんをしっかりつなぎとめておかないと……』

「なにそれ。幽霊みたいなこころが言うと軽く呪いっぽく聞こえるんだけど」

『うるさいにぶちん!』

 不当に罵倒された気がする。

「そういえばさ、僕、決めたんだ。文月ちゃんに頼まれていた出典用の短編は、この日記の一部を出してみようかなって」

『……リアリー?』

「イエスイエス」

 信じてもらうもらわないはどうでもいい。こころが存在しているという痕跡を残したかった。

『や、やめといた方がいいんじゃないかなうーちゃん! 黒歴史を作って、自ら心に傷を負いにいくようなものだよ! 自分を主人公にして妄想小説を書くようなものだからね、それ!』

「かもしれないけど、これはもう決定事項だよ。旅は道連れ世は情け。僕だけ傷を負うのは癪だから、こころも道連れにしておくよ」

『酷いッッ!』

「僕の凶行を止めたいならさっさと戻ってくることだね」

 さて、一区切りついたので、一度ここらで締めくくらせてもらおう。

 僕は、こころの声が妄想や幻聴の類でないのを信じている。

 だからこそ、僕は日記を書き続けよう。

 こころに生き続けてもらうために。

 彼女が現世にいない空白を埋めるために。

 誰からも忘れ去られるような事態を避けるために。

 もしこれを読んでくれる人がいたのなら、その空白を埋めるのを少しだけ手伝ってほしい。見知った人だろうと、見ず知らずの人だろうと、こころのことを頭の片隅にでもいいから覚えておいてくれれば、それだけでもありがたい。それだけでも救われる。

 覚えておいてほしい。

 西天こころは文字の上で生きていることを。

 


ここまで読んでくださりありがとうございます。

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