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虫取り(ハードモード)

 オフ会の次の日。ゲーム内時間ではなく、リアル次の日。

 サーバーにログオンすると部屋にナターシャがいた。


「おっす! 遊ぼうぜ!」


「俺の部屋になぜいる?」


「それはアレだ。フレンド登録」


 そういうものらしい。

 たしかにコミュニケーションを取るのが目的のゲームだ。

 そう言う仕様も致し方ないのかもしれない。


「なあなあケイちゃん。虫取り行こうぜ」


「足がたくさん生えた生き物嫌い」


「弱ッ! 思った以上に弱ッ!」


 足のたくさん生えた生き物なんて捕まえてなにが楽しいのだ! 哺乳類でよかろう。

 こちらは毛むくじゃらな愛玩動物をもふもふしたいのだ。

 もふもふ。もふもふ。もふもふ。これ最強。


「えー、カブトムシ捕りに行こうぜ! こちとら暇なんだよ! ねえねえ、一緒に遊ぼうよー!」


 ナターシャはおもちゃ売り場の幼児のようにひっくり返って足をジタバタさせた。

 なぜ虫にそんなにまで情熱を傾けられるのだろう。不思議である。


「こないだのオフ会で……人のおっぱいガン見してたよな」


「なん……だと……」


 待て、気づかれただと! ほんの一瞬の出来事だったはずだ。

 そう本当に一瞬だけ、男の本能が目をやってしまっただけなのだ。

 別にセクハラではない。本当に一瞬だけ、特徴が目に入っただけなのだ。なのにそれを察知しただと!

 やつはエスパーか……。


「待て……あれは事故だ……。オートエイムで目に入ってしまっただけだ!」


 男の視線が胸に行ってしまうのは、種族としてのバグ。オートエイムのバグなのだ! つまり俺は悪くない!


「たしかにオートエイムかもしれない。だがフレンドリーファイアだ! だからこちらの要求を聞くのだ!」


 圧倒的説得力。……中身おっさん少女に説得力が眠っているとは思っていなかった。


「なんだその説得力は! ……いや、やめよう。見たのは事実だ。貴様なにが望みだ?」


「虫取り行こうぜ」


 つまりだ。俺には断る選択肢などなかったのだ。リアルバグまで利用する女の子怖い。

 こうして俺たちは虫取りに行くことになったのだ。

 いつもの通り、ナターシャのバギーで森に向かう。


「森ってダンジョンだっけ?」


「ああ、森の中は自動生成のダンジョンになってる。ま、入り口で難易度選べるから安心しろ」


「へえ、虫取りで戦闘って……」


「ケイちゃんわかるか……MMOに戦闘はつきものなんだ……」


「いやいらねえだろ。ぽんぽこ島で戦闘なんておかしいだろが」


「戦闘はカブトムシと戦うだけだ……難易度初心者までは……な」


 くくくとナターシャが笑う。

 あ、これ知ってる。初心者モードにしない鬼の顔だ。


「うふふ。さあケイさま。行きましょう」


「お嬢さま風にしてごまかそうとするな。お前絶対なにか隠してるだろ」


「まあまあ、到着してからのお楽しみってな」


 バギーは森に到着する。

 降りると「道の駅ぽんぽこ」と書かれた建物が見える。

 なんだろうか。この中途半端な現実。


「まずは道の駅内にある農協の出張販売所で武器買うぞ。武器なんて言ってるけど、網とかカゴとかだから安心しろ。……ノーマルまではな」


 とりあえずゾンビシューティングとかではないらしい。

 ノーマルでやれば安全らしい。


「ケイちゃんは、そこの銅の剣と拳銃な」


「はい、いきなり狂ってる!」


 ナターシャは俺に武器を渡す。

 なんだ銅の剣と拳銃って!?

 網設定どこ行った!


「じゃあショットガン?」


「虫取りなのに当たり前のようにショットガンが出てくるだと!」


 わけがわからない。

 なぜ銃器が虫取りに必要なのだ!


「まあいいや行くぞ。道の駅の奥にダンジョンがあるからな」


 道の駅の販売所の奥に油圧式バルブのドアがあった。

 ドアには拡張現実(AR)表記で「難易度」が表記されていた。

 選べる難易度は「ぽんぽこ」「ノーマル」「ハード」「ナイトメア」。

 よし、ぽんぽこだな。


「はい、ハードどーん!」


 バカが迷わずハードを選択。


「なぜ初心者にハードモードをやらせる?」


「ぽんぽこモードは敵出ないから面白くないの! あと虫が嫌いなセリナが連れてってくれない!」


「お前後で説教な」


 嫌な予感しかしない。


「大丈夫だって。入り口周辺しか行かないし。お化けも……おっとこれはお楽しみ」


「とりあえず一発殴っていいか?」


 そろそろこいつとは決着をつけないといけない時期に来ているような気がする。


「まあまあ、俺も行くんだから大丈夫だって! さあ、カブトムシを取りに行こうぜ!」


 嫌な予感しかしない。だが俺はつき合うことにした。

 もしかするとナターシャと遊ぶのが楽しいのかもしれない。

 ゲートがプシューと音を立てて開く。俺たちは森に入った。



 森は薄暗く、広かった。瘴気が立ちこめ、虫取りと言うには妙に禍々しい。

 どこからともなく「うー、あー」とうなり声が聞こえる。

 なんだか嫌な予感がする。


「おー、さすがハードモード。禍々しいぜ」


「そんなところに連れて来やがったのか。俺はぬるーい夏休みをエンジョイしたいの! こういうバイオレンスとか恐怖とかいらないの!」


「あのなあ、バイオレンスとか恐怖も人間の一部なの。無理に本能を否定するから疲れるんだよ」


「虫取りにバイオレンスも恐怖もいらねえ! 疲れるわ!」


「いいから見てろってほいほい、アイテムボックスと」


 ナターシャはシステムメニューを操作し武器を装備する。

 手斧とチェーンソー、それにガトリングガン。おいコラ。


「いつから虫取りにガトリングが必要になったコラァッ!」


「必要だろが! カブトムシに襲われたときとか!」


「なんでカブトムシが襲ってくるんじゃー!」


 話にならない。

 とりあえずわかったのは、この虫取りはバイオレンスでガトリングが必要なことだ。

 うん、あとでナターシャに拳骨落とそう。

 ナターシャと森の入り口から一歩動いたときだった。


「キシャアアアアアアアッ!」


 それは山のように大きな……カブトムシだった。


「これは噂に聞く、スーパーウルトラカブトムシターンAスペシャル! よし狩るぞ!」


「運営殴りてえ」


 本音がポロリ。


「ほら、ケイちゃん撃って!」


 俺はカブトムシに拳銃を向け引き金を引いた。パンッパンッと音とカンッという音がする。

 これ絶対効いてないよね。


「ピギャアアアアアア!」


 カブトムシの口が光る。


「いかん! ブレスだ!」


「カブトムシがブレス攻撃かよ! ほんとお前絶対殴るからな!」


「ええい! とにかくゴミのように逃げ回るのだ!」


 次の瞬間、カブトムシが炎を吐いた。

 俺は逃げる。泣きながら逃げる。

 うわああああああああん!

 俺は炎から逃げるために草むらに飛び込む。

 炎からなんとか逃げることに成功……と、思った瞬間だった。

 周りに虫がいる。俺と同じ大きさの蜘蛛。しかも人面。それが何匹も。何匹も。


「ぶぎゃあああああああああああああ!」


「ほんぎゃああああああああああああ!」


 同時にナターシャの叫び声もする。

 声の方を見ると大量のゴキブ……いやGが飛んでいた。

 や、やめろ! やめろおおおおおおおおおッ! それだけはだめだああああああああッ!


「おどれごらああああああああああッ!」


 ナターシャの叫び声とガトリングガンが鳴り響く。


「ふざけんな! だからハードモードは嫌だって言ったろ!」


 涙声である。


「うぎゃああああああああああああああああああッ!」


 こちらは悲鳴。なぜ人は争うのだろう? 我々はどこまでも愚かで度し難い。

 そう、ナターシャはハードモードがシャレにならんのをわかっていたのだ。

 わかっていたのに……いや違う。断られたのだ。フレンドに。だってギルドの人たちナターシャに激甘だもん。

 でも一度体験してみたくてナターシャは俺を騙したのだ。ドアホが!

 俺たちは何百匹という虫にたかられヒットポイントを失う。

 空にガトリングガンの音が響き、完全に瘴気を失ったナターシャの手榴弾が爆発する。ちゅどむ。


「へ、ヘリはまだなのかー!」


「来ねえよバカ!」


「メディーック! メディーック!」


「うるせえバカ! どわあああああああGがGがああああああああああッ!」


 だがGだけではなかった。

 森の奥から大量に出現したもの。それは触手だった。

 触手、触手、触手、カブトムシ、G。

 森の仲間は過酷だった。


「うんぎゃあああああああああああああああッ! くっころ-!」


 そして俺たちはデスったわけである。なおダンジョンでのデスペナルティはないそうだ。リアル心に傷を負ったけどな。

 リスポーンしたらナターシャをぶん殴ろうと思う。あくまでシステム内で。

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